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第18羽 大乱闘

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 魚の焼き身を食べ、休憩してから数日が経ちました。
 今日も今日とて川沿いを上って行っているのですが、いつもと違うことが。それは音です。
 朝方から遠くでずっと戦闘音がしているんですよね。爆音、轟音、何かがへし折れる音。
 もう二時間近く音が鳴り止まないです。きっと漁夫に漁夫がやって来て収まりがつかないのでしょう。私には関係のない話ですが。

 と、そこでヒュゥゥという飛来音。なんだか嫌な予感が……。
 周りの木々をへし折りながら正面に何かが着弾。
 びっくりして固まっていると土埃の中から青い狼が現れた。気が立っていたのか、私を見つけるとすぐさま口元がびっしりと霜に覆われていく。ブレスだ。

 ――まずッ!!避け――ッ!!?

 しかし私が避けるまでもなく、突然現れた猿ゴリラが横殴りに青い狼を吹き飛ばしました。
 どうも巻き込まれたようですね。早く離脱しましょう。

 そう判断するとすぐさま上空へ昇っていく。しかし私が逃げることは叶いませんでした。
 いきなり影に覆われたかと思えば、強風に押しつけられるように吹き飛ばされてしまいました。上空を見れば巨大な蛾が。それが犯人の様です。

 なんとか体勢を立て直そうと苦心していると、高速で何かが突っ込んできました。

 ――このッ!!

 その速度に後先考える余裕もなく、無理矢理蹴りを合わせる。その一瞬で見えたのは眼鏡のような巨大な複眼と細長い体。蜻蛉《とんぼ》だ。
 弾き飛ばされる形で難を逃れることができました。しかし、飛ばされた先は地面。叩きつけられる前に、翼で勢いを殺すことに成功したと思ったら右の木がへし折られる。そこには黄色い熊が。プ〇さん!?。
 ところがその熊はそんなに優しい存在ではなく、放電しながらベアハッグを敢行。喰らったら死にます。
 滑歩かっぽを使って安全圏へと避難……、できませんでした。
 攻撃は避けることができましたが、なんと魔物に囲まれてしまいました。

 ……やっぱり戦いに巻き込まれてしまったようですね。まだ遠くで戦闘音がしているので一部がこちらに来てしまったのでしょう。なんて運がない。しかもなんで私がど真ん中なんですか?やめてくれません?

 私を攻撃しようとした魔物が周りに気づき、今は睨み合いの様相になっています。中心は紙装甲の私。心臓に悪すぎる……。

 ――なんとか逃げなければ。

 じり……、と僅かに足を動かせばそれまでにらみ合っていた全員が一斉にこちらを振り向きました。
 ヒェッ!?襲いかかる氷、岩、風、地を這う雷。
 もう余裕なんて欠片もありません。頭をフル回転させて、氷を【昇陽のぼりび】で氷を蹴り飛ばして岩に当てて対応。襲いかかってくる風に私の風をぶつけて体勢を崩されない程度になんとか抑えます。
 雷は【昇陽のぼりび】で浮かんだ勢いを使って飛び上がって避ける。浮いた私にすぐさま突っ込んできた蜻蛉には【降月おりつき】をたたき込みました。蜻蛉は僅かに下に弾かれましたが、そのまま飛んでいってしまいました。

 そこからは大乱闘の始まり。魔物達は目に入ったものから襲いかかっていく。
 ブレスを吐き、爪で裂き、牙を突き立てる。
 私も全力で抗います。殴りかかってきた猿ゴリラの腕をかわし、頭に横蹴りをたたき込む。通常攻撃をものともせずに腕を振り続ける猿ゴリラ。こちらも舞うように攻撃を避けながら蹴り続けます。
 ちょこまかと避ける私に苛立った猿ゴリラの腕が大振りになる。チャンス。滑歩かっぽで体をずらすように避け、【昇陽のぼりび】で吹き飛ばすと、その先にいた青い狼にぶつかり絡まれることになる。

 すぐさま振り向いてバックステップをすると、さっきまでいた場所に帯電した爪が振り下ろされていた。
 地面を蹴り、飛び上がって頭に一撃をたたき込む。

 ――【廻芯戟かいしんげき】!!!

 黄色熊の顔面を的確に捉え、ダメージで大きく仰け反らせた。そして私は――地面に崩れ落ちていた。

 ――これは……麻痺?電気で……。痺れて体が動かない……!

 体の不調に混乱していると影がかかる。
 気づけば正面に熊が怒りの形相で爪を大きく振り上げていた。

 ――無理です、避けられない!!

 来たる痛みに思わず体を強張らせる。体は未だに言うことを効かない。
 ところが熊が視線を斜めに逸らすと同時に、巨大な蛾が激突する。どうやら吹き飛ばされてきたようだ。

 ――助かった……!!

 おかげで少し痺れが取れてきました。麻痺は『頑強』を貫通してきた様ですが、回復にも影響があります。
 そこでブウゥゥンという羽音が近づいてくる。痺れの残る体で無理矢理横に飛ぶと背後から強烈な衝撃が。当然吹き飛ばされます。
 回る視界の端で捕らえたのは飛び去る蜻蛉。

 ――ぐぅッ!!背中に切り裂かれたような熱が。大顎が掠ったのでしょうか。吹き飛ばされたのは羽?

 なんとか受け身を取るも痛みに視界が赤く染まる。……違う!これは鱗粉!?
 見れば帯電している熊を嫌ったのか、大きく羽ばたいている羽から赤い鱗粉が流れてきている。

 そして蛾の触覚が震えると同時に轟音、爆発。

 煙が消え去れば中心部はクレーターになり、地面がむき出しの状態に。もちろんそこの木々は全てどこかに行ってしまいました。

 ――いったぁ……。

 爆発の衝撃に全身が痛みます。それでもなんとか生き残りました。
 鱗粉に気づいてすぐ全身から風を放出し、空白地帯を作れたのが大きかったようです。そうでなければ死んでいました。

 ――この爆発です。流石に皆死んだのでは?

 期待を込めて見回せば希望は打ち砕かれました。痛みに呻いていますが全部生きています。蛾に至っては無傷。自分の能力ですから何か耐性があるのかも知れません。
 さっそく起き上がった猿ゴリラが元凶の蛾に喧嘩を売りに行きます。なんでそんなに元気なんですか……。

 私はと言えば目と目が合ってしまった青い狼が襲いかかってきました。全身と背中が痛みますが泣き言を言っている暇はありません。

 飛んでくる氷を打ち返してやれば、容易くかみ砕きながら飛びかかってきました。滑歩かっぽで滑るように懐に潜り込み、【昇陽のぼりび】で顎を打ち上げ、【廻芯戟かいしんげき】で蛾と猿ゴリラの方へと蹴り飛ばす。一生そこで絡まれててください。

 今のうちに反対側へと逃げだそうとすれば、地面から電撃が襲いかかってくる。
 跳んで避ければ上から叩き落とすように爪の一撃が。触れたらマズい!!熊の腕と私の間で風の塊を爆発させる。熊は微動だにしませんでしたが私はとても痛かったです。それでも避けることができました。
 空振ってすぐさまベアハッグをするために両腕を振り上げた熊。隙だらけですよ!!

 ――【崩鬼星ほうきぼし】!!

 一瞬の隙を突いた紅蓮の一撃が黄色熊の胴体に突き刺さり、そのまま貫通した。
 鬼気を解放した状態の『頑強』は貫通できなかったようで麻痺にはなりませんでした。
 正面に敵はいません。このまま行けば逃げられる……!!

 着地と同時に逃げだそうとすると背後からあのブウゥゥンという羽音が。
 あちらの方が速いです。追いつかれますね。迎え撃つべきでしょう。

 ――これは背中のお礼ですよ……。

 振り向き、半身に構えて腰を落とし全力で地面を踏みしめる。

 ――【鬼伐きばつ】!!!

 地面を砕く勢いで、弧を描くように振り上げられた足刀が正面から蜻蛉を切り裂いた。
 僅かにタメが長いのと、移動しないために待ちが必要なのが弱点ですが威力は折り紙付きです。

 他の敵はいませんね。残りは向こうで争っています。
 付き合ってられません。このまま逃げます。

 ……次からは戦闘音が聞こえたらもっと早く逃げるようにしましょう。

 ある程度距離をとって振り返れば魔物が更に増えていました。あのままあそこにいたらと思うとゾッとしますね。
 疲れました……。もっと離れたら今日は早めに休みましょう。
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