リモネフィロソフィ【完結済み・短編】

草壁なつ帆

文字の大きさ
上 下
5 / 13
前編

風邪引き

しおりを挟む
 だんだん意識が冴えてきて。かと思ったら身震い。それからくしゃみ。毛布を首元まで手繰り寄せて暖を取ろうとするけど……寒い。
 日当たりの悪い部屋はお金持ちのお屋敷と全然違う。ソファーの上で寝ちゃったから背中もすっごく痛いし。絶えず止まない馬の足音がパカパカ。そのうちに路面電車のベルが鳴ってる。
「うるっさいなぁ……」
 もう一回寝ようと思ったら、ガチャリとドアの鍵が開く音に邪魔された。足音がドタドタと近付いてきて、そしてあたしと目が合った。
「うあっ!? リモネかよ。お前なんで居んの!?」
「……何よ。居ちゃ悪い?」
 別にびっくりさせてやろうと思ったわけじゃない。ただ、だるくてソファーから動けない。あたしの体調が悪いことはオデールも知っていた。ただし理由も知っていた。
「パフェ食いまくって風邪ひくバカなんて居ねえよ」
 そのバカの世話はしないってか。オデールはあたしを素通りしてキッチンへ。買ってきた惣菜を自分だけつまんでる。
 あたしは食欲無いから二度寝しようとする。
「今日じゃなかったっけ?」
 なのにまたオデールが邪魔して言ってきた。
「なに?」
「結婚式」
「ああ……」
 カレンダーを見なくても分かってる。聞きたく無いからあたしは毛布を頭まで被った。
 仕事を途中で投げ出したのは初めてだし。過去最大の報酬をたんまり手に入れて、欲しいものを買い尽くして、パフェも食べ尽くしてこの体調なわけだけど。それからもずっと頭の中に居残っててウザいんだ。
「何時からだっけ?」と、毛布を被っててもオデールの声が貫通してきた。
「連絡は来た?」とも。あたしはだんだんムカついてくる。さっきまで寒かったけど、だんだん暑くなってきて毛布も蹴り飛ばした。
「もう、うるさいな! あたしの結婚式じゃないし連絡なんか来るわけ無いじゃん!」
 キッチンの方へ顔を向けると、揚げ物をかじろうとするオデールと目が合う。でも開いた口は揚げ物にかぶり付かなかった。
「え……そうなの? 式場とか一緒に選んだんじゃないの?」
「一緒に選んだっていうか、お兄さんのセンスがオジサンだからアドバイスしてあげただけ」
「ウェデイングドレスとかブーケとかさ」
「違う。勝手にあたし仕様に作られてただけ。恋人のこと全然分かんないって言うんだもん。訳わかんない!」
 あたしは起き上がって冷蔵庫へ向かった。飲みかけのジュースを一気に飲み干したら少しは気分がスッキリする。
「なあ、リモネ。何で怒ってんの?」
「はあ? 怒ってないけど?」
 オデールが食べてる揚げ物もひとつ奪い取って食べてやる。美味しいけど……やっぱりちょっと胃に悪いような気がした。
 すると電話が鳴った。あたしはオデールの肩をバシバシ叩いて電話に出るように促した。「お前っ、手ぇ拭いたな!?」そう言いながらもオデールは電話に出てくれる。

 電話が切られた直後、使ってないコンロの上に直置きしてるファックスが鳴った。ふた口目が進まない揚げ物はお皿の上に戻しておいて、あたしは届いた手紙をすくい上げる。
「誰?」
 あたしは口をついたけど、ひとりは知っている男だった。
「無事に結婚式が始まるんだって。良かったな」
 オデールが言う。電話相手はあの時の結婚式プランナー……を、偽ったオデールの愛人だったらしい。本当に結婚式をセッティングしてあげるなんて親切な人だね、と言いたいところではあるけど。それよりもこの写真の新婦は誰?
「……ありえない」
「リモネ?」
 白黒の写真じゃ詳しいことまでは分からない。でも、この新婦があたしと全然似ていないのはよく分かる。
 どれどれとオデールも写真を覗いた。
「あー。はいはい」
 査定する価値もないって言いたげ。失礼だろ。
 オデール式に言うとリヴァイの女選びは「妥当」だそうだ。あたしも同意見。逆にガッカリ。こんなことならあたしが貰った方が何十倍も価値が上がる。
「……オデール。あたし今、変なこと言った?」
「え? 何が?」
 オデールの無駄にイケメンな顔が振り返ったらハッとなった。あたしはこんなところに居る場合じゃない。髪をセットして服を選ばないと。
 シャツとミニスカ。それからハイカットスニーカー。もちろんメイド服なんて着ていくわけない。
「オデール。あたしが今から言うこと間違ってる?」
「はぁ? 何?」
「女の価値は側にいる男の質で決まる。……オデールが言うやつの中で最上級に大っ嫌いな言葉だけど。今だけはなんか意味が分かるわ」
 鏡に映ったあたしはもう暗髪の大人しそうな女じゃない。寝癖を直す時間も惜しいから髪は左右の高い位置にくくった。金髪のあたしを見てリヴァイはどう思うか。そんなの知らない。
「お前、何怒ってんだよ?」
「じゃあ行ってくる。さよなら!!」
 最小限の荷物をバックに詰めたら、すぐにこの部屋を出て行った。



(((次話は明日17時に投稿します

Threads → kusakabe_natsuho
Instagram → kusakabe_natsuho
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

絵の具と切符とペンギンと【短編・完結済み】

草壁なつ帆
ファンタジー
少年と女の子の出会いの物語。彼女は不思議な絵を描くし、連れている相棒も不思議生物だった。飛び出した二人の冒険は絆と小さな夢をはぐくむ。 *+:。.。☆°。⋆⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝。.。:+*   シリーズ【トマトの惑星】 始まりは創造神の手先の不器用さ……。 『神と神人と人による大テーマ』 他タイトルの短編・長編小説が、歴史絵巻のように繋がる物語です。 シリーズの開幕となる短編小説「神様わたしの星作りchapter_One」をはじめとし、読みごたえのある長編小説も充実(*´-`)あらすじまとめを作成しました!気になった方は是非ご確認下さい。

神様わたしの星作り_chapter One【短編・完結済み】

草壁なつ帆
ファンタジー
人間の短い生涯を終えて、神様となった私の成長記。 そして私が見守る小さな惑星の物語です。 ただただ静かに回る砂漠の星は、未知なる生命体を育てて文明を作っていく。そんなロマンストーリーをお届け。 ……いいえ。そう上手くは行きますまい。 失敗続きの新米神様も学ぶのです。もうこれ以上ゴミを増やしてはならないと。見守る神に徹するものだと。 短編。さくっと読めます。 続編は chapter Two へ。 (((小説家になろう、アルファポリスに上げています。 *+:。.。☆°。⋆⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝。.。:+*   シリーズ【トマトの惑星】 草壁なつ帆が書く、神と神人と人による大テーマ。他タイトルの短編・長編小説が歴史絵巻のように繋がる物語です。 シリーズの開幕となる短編「神様わたしの星作りchapter_One」をはじめとし、読みごたえのある長編小説も充実(*´-`)あらすじまとめを作成しました!気になった方は是非ご確認下さい。

神様わたしの星作り_chapter Two【短編・完結済み】

草壁なつ帆
ファンタジー
神様わたしの星作り chapter One の続きの物語。 ここは私が見守る砂地の星。ゾンビさんたちが暮らす小さな楽園です。 穏やかな暮らしは平和だけど少しつまらない。それに私が作ろうとしたのって、ゾンビの惑星でしたっけ? では、神様らしく滅ぼそうではありませんか! その決断は実行されるわけですが。予期せぬ自体もおこりまして……。 さくっと読める文字量です。ぜひお目を通しください。 (((小説家になろう、アルファポリスに投稿しています。 *+:。.。☆°。⋆⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝。.。:+*   シリーズ【トマトの惑星】 草壁なつ帆が書く、神と神人と人による大テーマ。他タイトルの短編・長編小説が歴史絵巻のように繋がる物語です。 シリーズの開幕となる短編「神様わたしの星作りchapter_One」をはじめとし、読みごたえのある長編小説も充実(*´-`)あらすじまとめを作成しました!気になった方は是非ご確認下さい。

冬の珊瑚礁/青い珊瑚礁【短編•完結】

草壁なつ帆
ファンタジー
冬の海で出会った男と少女の物語。何者にもなれない自分を抱く男は、少女と出会って旅をする。少女の方もまた、未来への不安を抱えて生きていた。 AIイラストは、なかなか様(Instagram:@nakanaka_aiart)なかなかさんのアイディアカラーの青色を使った少女×珊瑚礁のイラスト。今回はこちらのイラストからインスピレーションを受け、物語を書いてみました。是非なかなかさんのInstagramもチェックしていただけたらと思います。 *+:。.。☆°。⋆⸜(*‘꒳‘* )⸝。.。:+*   シリーズ【トマトの惑星】 神と神人と人による大テーマ。他タイトルの短編・長編小説が歴史絵巻のように繋がる物語です。シリーズの開幕となる短編「神様わたしの星作りchapter_One」をはじめとし、読みごたえのある長編小説も充実(*´-`) シリーズあらすじと各小説へのアクセスをまとめました!是非ご確認下さい。

フェンディー海峡【読み切り・創作神話】

草壁なつ帆
ファンタジー
不漁により移動を余儀なくされた民族がある。その中でメイという少年は、夜中の海辺で人魚と出会う。 ひとりであると寂しそうにメイに寄り添う彼女だが。 「あなたも行ってしまうのね」 人魚との別れ。そしてこの出会いにより、メイと民族の未来は……。 (((小説家になろうとアルファポリスで投稿しています。 *+:。.。☆°。⋆⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝。.。:+*   シリーズ【トマトの惑星】 草壁なつ帆が書く、神と神人と人による大テーマ。他タイトルの短編・長編小説が歴史絵巻のように繋がる物語です。 シリーズの開幕となる短編「神様わたしの星作りchapter_One」をはじめとし、読みごたえのある長編小説も充実(*´-`)あらすじまとめを作成しました!気になった方は是非ご確認下さい。

クランクビスト‐終戦した隠居諸国王子が、軍事国家王の隠し子を娶る。愛と政治に奔走する物語です‐ 【長編・完結済み】

草壁なつ帆
ファンタジー
レイヴン・バルは秘境国と呼ばれる国の王子である。 戦争で王が亡くなった後は、民も兵士も武器を捨てた。もう戦いはしないと秘境国は誓い今日に至る。 そこへ政略結婚としてバルのもとへやってきたのは、軍事国として拡大中のネザリア王国。ネザリア・エセルである。 彼女は侍女と見間違うほど華が無い。そこからバルは彼女を怪しむが、国務として関係も深めていこうとする。 エセルを取り巻くネザリア王の思惑や、それに関わる他国の王子や王の意志。各行動はバタフライ・エフェクトとなり大きな波紋を作っていく。 策略と陰謀による国取り戦争。秘境国はいったい誰の物 に? そして、バルとエセルの絆は何を変えられるのか。 (((小説家になろう、アルファポリスに上げています。 *+:。.。☆°。⋆⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝。.。:+*   シリーズ【トマトの惑星】 草壁なつ帆が書く、神と神人と人による大テーマ。他タイトルの短編・長編小説が歴史絵巻のように繋がる物語です。 シリーズの開幕となる短編「神様わたしの星作りchapter_One」をはじめとし、読みごたえのある長編小説も充実(*´-`)あらすじまとめを作成しました!気になった方は是非ご確認下さい。

カルメラ迷宮【読み切り・創作神話】

草壁なつ帆
ファンタジー
階段は上に登るも下に降るも無数だ。皆、何かがあってそのカルメラ迷宮に迷い込むのだろうが、何も嘆く必要はない。魔物に食われるか、はたまたたった一つの出口を見つけることが出来るのか。そんなこともひと掬いの水を飲めば何も考える必要もなくなる。 (((小説家になろうとアルファポリスで投稿しています。 *+:。.。☆°。⋆⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝。.。:+*   シリーズ【トマトの惑星】 草壁なつ帆が書く、神と神人と人による大テーマ。他タイトルの短編・長編小説が歴史絵巻のように繋がる物語です。 シリーズの開幕となる短編「神様わたしの星作りchapter_One」をはじめとし、読みごたえのある長編小説も充実(*´-`)あらすじまとめを作成しました!気になった方は是非ご確認下さい。

Surprise bouquet【短編・スピンオフ】

草壁なつ帆
ファンタジー
長編小説『クランクビスト』より2年前。メルチ王国リュンヒン王子と、婚約者セシリア姫によるラブロマンス。 『episode.サプライズ・ブーケ』クランクビストよりスピンオフ短編です。 「サプライズが欲しい」とセシリアに頼まれたリュンヒン。彼女の誕生日を前にプレゼントの内容に迷っていた。 いつも彼女を喜ばす術を持っていたリュンヒンだが、彼の完璧以上のサプライズはいったいどんな贈り物になるのか? (((小説家になろう、アルファポリスに上げています。 *+:。.。☆°。⋆⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝。.。:+*   シリーズ【トマトの惑星】 草壁なつ帆が書く、神と神人と人による大テーマ。他タイトルの短編・長編小説が歴史絵巻のように繋がる物語です。 シリーズの開幕となる短編「神様わたしの星作りchapter_One」をはじめとし、読みごたえのある長編小説も充実(*´-`)あらすじまとめを作成しました!気になった方は是非ご確認下さい。

処理中です...