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lll.二人の未来のために
銃口が震えている
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僕らとゼノバ教皇が睨む間に朝鐘が鳴りだす。どうやらアルゴ船の羅針盤でアルゼレアが聞いた時刻になったらしい。ということは予知夢の通りにはいかなかったということ。被害者は出ているけどエシュはおそらく無事だ。
しかしゼノバ教皇は呟いた。
「さすが予知夢。全て予定通りになる」と。そして自分の上着から四つ折りにした紙を取り出していた。アルゼレアが「あっ」と声を漏らしている。教皇は全て分かっているみたいでニヤリと笑う。
「こんな短期間でオソードが修復されるとは。アルゼレアさんは大した技術と熱量をお持ちですね。君がロウェルディに楯突いたあの日のことはずっと心から離れません。きっと近い将来に君は私の敵になるだろうと思っていましたが……それがこんなにも早く現実になるとは残念です」
ピラピラと紙をなびかせていた。四つ折りは動きや重力によってだんだん解けた。そしてシワのある一枚に戻ると、紙を持ったままゼノバ教皇はゆっくりと後退りをした。
「エシュ城の秘密とは奥深い。魔法の城と呼ばれるのは認めましょう。しかし神を名乗るのは許せません。この世界は創造神エルサのものであり、たったひとりの人間が独占して良いものではないのです」
淡い灯りを作っていた燭台。チェストの上に置かれた火の元に紙が当てられそうになった。
「待って!!」
アルゼレアがそれを許すとは僕だって思わない。
「……ほう」
何かに関心したようにゼノバ教皇が声を出す。それ以外は瞬時に静寂になった。ゼノバ教皇がつまらない冗談を改めたように火のところから紙を遠ざけた。
わずかに睨む目は僕の方を向いている。じっと僕のことを観察してから、聞こえるようなため息を吐かれた。
「おやめなさい」
やめろと言うのは僕には出来るはずがないと言っているのだと聞こえた。だって僕だってそう思ったからだ。
さっき階段で落とした僕の私物じゃないもの。種類が全然分からないけど小さな銃で間違いなかったんだ。構え方もよく分からないし、これに弾が込められているのかも全然分からない。リアルな見た目の割にすっごく軽いからオモチャなのかもしれない。
銃口をゼノバ教皇の方を向けられたわけだけど。指をかけるところには怖くて指を入れられない。両手でしっかり握っていると見せかけて本当は打つ構えではないんだ。
「フォ、フォルクスさん! どうしてそんなものを持ってるんですか!?」
「し、知らない!! ポケットの中に入ってた!!」
本当にそうだとすると、セルジオが所有してるジャケットだからマーカスさんの仕業かもしれない。ただし今の僕にはあまり細かいことを考えるのは無理で、ただただ肘から指先までがずっと震えている。
「ゼノバ教皇、そのページと鍵を渡して下さい!!」
撃つ気が無いと見透かされているのか。それとも撃てない持ち方だとバレているのか。ゼノバ教皇は余裕で僕を眺めて笑っている。
「友人に失望されますよ?」
「良いんです! 僕に出来ることはこれくらいしかない!」
もともと平凡な人生から脱落した男だ。ちょっと果敢に立ち向かったとしたって僕がヒーローなんかになれるわけがない。だったら悪役を買ってみても良いと思った。
きっとジャッジみたいに幸運があるわけじゃないから僕は救われない。だけどロウェルディ大臣みたいに誰かに未来を託すことが出来る。……なんて大袈裟だけど。ただ単に、ここでの打開策がこれしか見つからなかったんだ。
銃の弾をよけて、ひとりの大人を動けなくするなんてことを生身の僕に出来るはずがないよ。
「わ、渡さないと、本当に撃つ……!!」
僕が撃たれる前に先手を打ったないと。初めて引き金に指を入れて構えた。
「そう熱くなることでもありません。このページはただの地図。こちらも例外なく、この城内の構成とは全く異なっています。手元に置いておいても無意味ですよ」
力なく笑ったゼノバ教皇の手元が少し下がった。その拍子に紙にはうっすら火が当たったんだ。僕が止めなくちゃと咄嗟に肩に力が入った時だ。
「だっ!! ダメです!!」
僕の横から赤髪が駆け出した。何をしようとして、どこへ駆け出すのか。アルゼレアが僕の前に出たんだ。
バンッと銃声が鳴る。耳鳴りが響いて頭の奥まで突き抜けるようだった。順を追わずに全てが一瞬で起こったように思った。
僕は何も痛くない。いや、肩や腰の大部分がかなり痛い。僕が倒れたところにアルゼレアも倒れていた。ほとんど彼女に飛び掛かる勢いで横へ薙ぎ倒したかもしれない。
危害を与えるものをどうしても阻止しなくちゃ。知らないうちに僕は立ち上がっていたのか、全身を傾けて突進していた。大きく目を見開いたゼノバ教皇の顔と近いところで出会った。
次の瞬間、事故にでもあったかのような衝撃が一番僕の体に痛みを与えていた。大きな壁に体当たりをしたという感じ。このまま押し切って壁ごと倒れていく。壁は後ろ向きに傾いて支えるものが何もない。
「うがっ!!」
石と石をぶつけ合ったような鈍い音がした。壁だと思ったものがゼノバ教皇で、真後ろに倒れた教皇は硬い床から少し跳ね返っていた。
「なっ、何か縛るもの!!」
僕が声を張り上げて何かを探す。とりあえず長いもの。自分のネクタイを急いで取ってゼノバ教皇の腕にくくりつける。これだけじゃまだ足りないと、倒れたエリシュもひっくり返してネクタイを取り上げた。それでゼノバ教皇の足をくくった。
カーテンを縛る紐も使った。テーブルに掛けてあった飾りのレース生地も割いて使った。長いものを全て使ってゼノバ教皇をぐるぐる巻きにしてから、ようやく僕は全体を見回せた。
(((次話は明日17時に投稿します
Threads → kusakabe_natsuho
Instagram → kusakabe_natsuho
しかしゼノバ教皇は呟いた。
「さすが予知夢。全て予定通りになる」と。そして自分の上着から四つ折りにした紙を取り出していた。アルゼレアが「あっ」と声を漏らしている。教皇は全て分かっているみたいでニヤリと笑う。
「こんな短期間でオソードが修復されるとは。アルゼレアさんは大した技術と熱量をお持ちですね。君がロウェルディに楯突いたあの日のことはずっと心から離れません。きっと近い将来に君は私の敵になるだろうと思っていましたが……それがこんなにも早く現実になるとは残念です」
ピラピラと紙をなびかせていた。四つ折りは動きや重力によってだんだん解けた。そしてシワのある一枚に戻ると、紙を持ったままゼノバ教皇はゆっくりと後退りをした。
「エシュ城の秘密とは奥深い。魔法の城と呼ばれるのは認めましょう。しかし神を名乗るのは許せません。この世界は創造神エルサのものであり、たったひとりの人間が独占して良いものではないのです」
淡い灯りを作っていた燭台。チェストの上に置かれた火の元に紙が当てられそうになった。
「待って!!」
アルゼレアがそれを許すとは僕だって思わない。
「……ほう」
何かに関心したようにゼノバ教皇が声を出す。それ以外は瞬時に静寂になった。ゼノバ教皇がつまらない冗談を改めたように火のところから紙を遠ざけた。
わずかに睨む目は僕の方を向いている。じっと僕のことを観察してから、聞こえるようなため息を吐かれた。
「おやめなさい」
やめろと言うのは僕には出来るはずがないと言っているのだと聞こえた。だって僕だってそう思ったからだ。
さっき階段で落とした僕の私物じゃないもの。種類が全然分からないけど小さな銃で間違いなかったんだ。構え方もよく分からないし、これに弾が込められているのかも全然分からない。リアルな見た目の割にすっごく軽いからオモチャなのかもしれない。
銃口をゼノバ教皇の方を向けられたわけだけど。指をかけるところには怖くて指を入れられない。両手でしっかり握っていると見せかけて本当は打つ構えではないんだ。
「フォ、フォルクスさん! どうしてそんなものを持ってるんですか!?」
「し、知らない!! ポケットの中に入ってた!!」
本当にそうだとすると、セルジオが所有してるジャケットだからマーカスさんの仕業かもしれない。ただし今の僕にはあまり細かいことを考えるのは無理で、ただただ肘から指先までがずっと震えている。
「ゼノバ教皇、そのページと鍵を渡して下さい!!」
撃つ気が無いと見透かされているのか。それとも撃てない持ち方だとバレているのか。ゼノバ教皇は余裕で僕を眺めて笑っている。
「友人に失望されますよ?」
「良いんです! 僕に出来ることはこれくらいしかない!」
もともと平凡な人生から脱落した男だ。ちょっと果敢に立ち向かったとしたって僕がヒーローなんかになれるわけがない。だったら悪役を買ってみても良いと思った。
きっとジャッジみたいに幸運があるわけじゃないから僕は救われない。だけどロウェルディ大臣みたいに誰かに未来を託すことが出来る。……なんて大袈裟だけど。ただ単に、ここでの打開策がこれしか見つからなかったんだ。
銃の弾をよけて、ひとりの大人を動けなくするなんてことを生身の僕に出来るはずがないよ。
「わ、渡さないと、本当に撃つ……!!」
僕が撃たれる前に先手を打ったないと。初めて引き金に指を入れて構えた。
「そう熱くなることでもありません。このページはただの地図。こちらも例外なく、この城内の構成とは全く異なっています。手元に置いておいても無意味ですよ」
力なく笑ったゼノバ教皇の手元が少し下がった。その拍子に紙にはうっすら火が当たったんだ。僕が止めなくちゃと咄嗟に肩に力が入った時だ。
「だっ!! ダメです!!」
僕の横から赤髪が駆け出した。何をしようとして、どこへ駆け出すのか。アルゼレアが僕の前に出たんだ。
バンッと銃声が鳴る。耳鳴りが響いて頭の奥まで突き抜けるようだった。順を追わずに全てが一瞬で起こったように思った。
僕は何も痛くない。いや、肩や腰の大部分がかなり痛い。僕が倒れたところにアルゼレアも倒れていた。ほとんど彼女に飛び掛かる勢いで横へ薙ぎ倒したかもしれない。
危害を与えるものをどうしても阻止しなくちゃ。知らないうちに僕は立ち上がっていたのか、全身を傾けて突進していた。大きく目を見開いたゼノバ教皇の顔と近いところで出会った。
次の瞬間、事故にでもあったかのような衝撃が一番僕の体に痛みを与えていた。大きな壁に体当たりをしたという感じ。このまま押し切って壁ごと倒れていく。壁は後ろ向きに傾いて支えるものが何もない。
「うがっ!!」
石と石をぶつけ合ったような鈍い音がした。壁だと思ったものがゼノバ教皇で、真後ろに倒れた教皇は硬い床から少し跳ね返っていた。
「なっ、何か縛るもの!!」
僕が声を張り上げて何かを探す。とりあえず長いもの。自分のネクタイを急いで取ってゼノバ教皇の腕にくくりつける。これだけじゃまだ足りないと、倒れたエリシュもひっくり返してネクタイを取り上げた。それでゼノバ教皇の足をくくった。
カーテンを縛る紐も使った。テーブルに掛けてあった飾りのレース生地も割いて使った。長いものを全て使ってゼノバ教皇をぐるぐる巻きにしてから、ようやく僕は全体を見回せた。
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