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I.本と人の終着地
無関係なんかじゃない
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人が動き出すあいだ、僕とジャッジはただ息を潜めることしかできずに待った。きっとその動きの中でアルゼレアもどこかの部屋に運ばれてしまったんだと思う。
人気が去ったと判断すると、僕はジャッジに掴み掛かった。
「トリスはどこに居るんだ?」
「し、知らねえよ!」
「お前が知らないことなんて実は何にも無いんだろう!?」
これは無茶な決めつけ方だけど。僕は本心でそう思う。
しかし本当に何にも知らないと首を振ってばかりいるジャッジだ。じゃあ、こういう聞き方はどうだ。
「僕のいない間にリサの家に訪問客があったけど。お前がアスタリカ警察に知らせたんじゃないだろうな!」
「うっ……」
友人は顔を歪ませたままで固まる。
「ベンジャミンさんの事務所に連れていくようにって、お前がアスタリカ警察と連携していたとかはないだろうな!」
「いやっ……」
友人は口をパクパクしてるけど声が出せなくなる。
それはもう全てに対して黒を示しているのと同じだ。
ジャッジは昔から嘘をつくのは苦手だった。でも嘘はつかない代わりに、悪びれもしないのが彼の最低なところだった。
「ああ、そうだよ! 悪いかよ! だーって、あっちの方が金が弾むんだもん」
三十路を過ぎた男の「もん」は気持ち悪い。それに「あっちの方が」って何だ。
たとえ頭に血が上っていても、僕は冷静に時間軸を巻き戻して考えた。
そしてジャッジにおかしな点ばかりだったのを思い出す。
「……お前。新しい仕事がどうとか言ってたな。雪のアスタリカの時も、前の客がなんとかって怪しいこと言ってた。そしたらセルジオの軍人の車に乗って来るし、何やってるんだよ」
「アルバイトだよ! お前と同じで働き者なの!」
逆ギレされている。
知人であれ友人であれ、どんな仕事をしようが構わない。でもそのせいで僕やアルゼレアが振り回されているのに、自分の利益しか頭にないのは見過ごせない。
本当にここらで一発ぐらい殴ってやらないとダメかもしれない。友人として、目を覚ませてあげるべきなのか。
いいや、それとも。
友人関係を断つための渾身の一撃として、これまでの復讐をぶつけてやろうか……。
「フォルクスさん。ジャッジさん」
腹を括ろうとした時、知らずに立っていたマーカスさんに連名で呼ばれた。
ついて来るよう言われて、僕もジャッジもまたマーカスさんに続く。
「あまり大きな声で言い合わないでくださいね。城内に不審者がいると騒ぎになったら大変でしょう」
穏やかな声色で僕らは叱られていた。
とりあえず他人の家で騒ぐのは良くない。
「すみませんでした」
僕からだけ謝ると、マーカスさんは「命は大事にしてください」と言った。
僕らは廊下を進んだのち、扉から外に出て夜の庭の中に立った。
周囲の森林が街の光を遮っていて、満点の星空が見られる素敵な場所だ。
「さあ出口です。どうやら我々は無関係な方を捕らえてしまっていたようです。勘違いをすみません。では、気をつけてお帰りください」
僕がまだ何にも分からないうちにマーカスさんはそう告げたのだった。
彼が丁寧に手のひらを向けて指す先には、小道が続いていて小さな木柵の扉がある。
その向こうは街の路地に繋がっているんだろう。車の走る音が近くで聞こえていた。
「あ、あの。アルゼレアは」
「彼女なら心配に及びません。むしろ、その事も多大な迷惑を掛けてしいましたね。全て忘れて下さい」
口元は爽やかに口角を上げられている。
放り出されるジャッジも、ここで心配事を告げた。
「報酬の金は……」
「ああ、そうですね」
マーカスさんの口角が分かりやすく下がる。
「お約束の時間は今日まででしたね。ジャッジさんの働きに見合った報酬ですと、帰りのチケット代で消えてしまったみたいです」
「そんなぁ~……」
身の上のことでガッカリしている男の事なんてどうでもいい。
「アルゼレアと僕は関係がある。本の内容も知ったし、彼女の話も聞いた」
「本の内容なら我々も解読できますよ」
マーカスさんはあのメモを取り出して風になびかせた。
「アルゼレア殿のことも彼女に直接聞けば、あなたが知らないことも知れるでしょう」
そっとメモは仕舞われる。ほかに何か? と、首を傾げられていた。
僕からは、ある事を言おうかどうか留まっていた。それによって誰が不幸になって、誰が得をするのか。そしてちゃんと僕が望むような結果になるのか。
考える時間が欲しいけど、マーカスさんは引き返して扉の中に消えてしまいそうになる。
「ちょっと待った!!」
ジャッジの声だ。これによりマーカスさんは閉まりそうになった扉をもう一度開けた。
「今日中なんだよな?」
「ええ。今日中です」
ジャッジは僕を引っ叩いて腕時計を見せろと言ってくる。
時刻は夕食時。冬の時期だから日没が早いだけで、今日中というにはまだ時間があるとジャッジは訴えたいみたいだった。
これにマーカスさんも「確かに」と頷いた。
「よし。行くぞ!」
僕はコートの襟を掴まれて強引に運ばれる。
「えっ、おい、ジャッジ!?」
「急げ! 今日中なんだ!」
わけも分からず小道を引きずられて、ジャッジは木柵の扉を飛び越えていく。
運動能力の乏しい僕は柵の前で置いてけぼりに。仕方がないからちゃんと扉の鍵を回して開けている。
チラッとお城を振り返ると、マーカスさんが僕に片手を振って扉の中に入って行った。
「フォルクス! ぐずぐずすんな!」
「あ、うん。ちょっと待って!」
僕らの脱出劇……で、終わるわけにはいかない。
ジャッジの報酬金のことなんて、ほんとどうでもいい。僕は明日朝までにトリスを見つけ出して連れて来ないといけないんだ。
僕がアルゼレアと無関係だなんて、今さら思えるはずがないんだから。
(((次話は明日17時に投稿します
Twitter →kusakabe_write
Instagram →kusakabe_natsuho
人気が去ったと判断すると、僕はジャッジに掴み掛かった。
「トリスはどこに居るんだ?」
「し、知らねえよ!」
「お前が知らないことなんて実は何にも無いんだろう!?」
これは無茶な決めつけ方だけど。僕は本心でそう思う。
しかし本当に何にも知らないと首を振ってばかりいるジャッジだ。じゃあ、こういう聞き方はどうだ。
「僕のいない間にリサの家に訪問客があったけど。お前がアスタリカ警察に知らせたんじゃないだろうな!」
「うっ……」
友人は顔を歪ませたままで固まる。
「ベンジャミンさんの事務所に連れていくようにって、お前がアスタリカ警察と連携していたとかはないだろうな!」
「いやっ……」
友人は口をパクパクしてるけど声が出せなくなる。
それはもう全てに対して黒を示しているのと同じだ。
ジャッジは昔から嘘をつくのは苦手だった。でも嘘はつかない代わりに、悪びれもしないのが彼の最低なところだった。
「ああ、そうだよ! 悪いかよ! だーって、あっちの方が金が弾むんだもん」
三十路を過ぎた男の「もん」は気持ち悪い。それに「あっちの方が」って何だ。
たとえ頭に血が上っていても、僕は冷静に時間軸を巻き戻して考えた。
そしてジャッジにおかしな点ばかりだったのを思い出す。
「……お前。新しい仕事がどうとか言ってたな。雪のアスタリカの時も、前の客がなんとかって怪しいこと言ってた。そしたらセルジオの軍人の車に乗って来るし、何やってるんだよ」
「アルバイトだよ! お前と同じで働き者なの!」
逆ギレされている。
知人であれ友人であれ、どんな仕事をしようが構わない。でもそのせいで僕やアルゼレアが振り回されているのに、自分の利益しか頭にないのは見過ごせない。
本当にここらで一発ぐらい殴ってやらないとダメかもしれない。友人として、目を覚ませてあげるべきなのか。
いいや、それとも。
友人関係を断つための渾身の一撃として、これまでの復讐をぶつけてやろうか……。
「フォルクスさん。ジャッジさん」
腹を括ろうとした時、知らずに立っていたマーカスさんに連名で呼ばれた。
ついて来るよう言われて、僕もジャッジもまたマーカスさんに続く。
「あまり大きな声で言い合わないでくださいね。城内に不審者がいると騒ぎになったら大変でしょう」
穏やかな声色で僕らは叱られていた。
とりあえず他人の家で騒ぐのは良くない。
「すみませんでした」
僕からだけ謝ると、マーカスさんは「命は大事にしてください」と言った。
僕らは廊下を進んだのち、扉から外に出て夜の庭の中に立った。
周囲の森林が街の光を遮っていて、満点の星空が見られる素敵な場所だ。
「さあ出口です。どうやら我々は無関係な方を捕らえてしまっていたようです。勘違いをすみません。では、気をつけてお帰りください」
僕がまだ何にも分からないうちにマーカスさんはそう告げたのだった。
彼が丁寧に手のひらを向けて指す先には、小道が続いていて小さな木柵の扉がある。
その向こうは街の路地に繋がっているんだろう。車の走る音が近くで聞こえていた。
「あ、あの。アルゼレアは」
「彼女なら心配に及びません。むしろ、その事も多大な迷惑を掛けてしいましたね。全て忘れて下さい」
口元は爽やかに口角を上げられている。
放り出されるジャッジも、ここで心配事を告げた。
「報酬の金は……」
「ああ、そうですね」
マーカスさんの口角が分かりやすく下がる。
「お約束の時間は今日まででしたね。ジャッジさんの働きに見合った報酬ですと、帰りのチケット代で消えてしまったみたいです」
「そんなぁ~……」
身の上のことでガッカリしている男の事なんてどうでもいい。
「アルゼレアと僕は関係がある。本の内容も知ったし、彼女の話も聞いた」
「本の内容なら我々も解読できますよ」
マーカスさんはあのメモを取り出して風になびかせた。
「アルゼレア殿のことも彼女に直接聞けば、あなたが知らないことも知れるでしょう」
そっとメモは仕舞われる。ほかに何か? と、首を傾げられていた。
僕からは、ある事を言おうかどうか留まっていた。それによって誰が不幸になって、誰が得をするのか。そしてちゃんと僕が望むような結果になるのか。
考える時間が欲しいけど、マーカスさんは引き返して扉の中に消えてしまいそうになる。
「ちょっと待った!!」
ジャッジの声だ。これによりマーカスさんは閉まりそうになった扉をもう一度開けた。
「今日中なんだよな?」
「ええ。今日中です」
ジャッジは僕を引っ叩いて腕時計を見せろと言ってくる。
時刻は夕食時。冬の時期だから日没が早いだけで、今日中というにはまだ時間があるとジャッジは訴えたいみたいだった。
これにマーカスさんも「確かに」と頷いた。
「よし。行くぞ!」
僕はコートの襟を掴まれて強引に運ばれる。
「えっ、おい、ジャッジ!?」
「急げ! 今日中なんだ!」
わけも分からず小道を引きずられて、ジャッジは木柵の扉を飛び越えていく。
運動能力の乏しい僕は柵の前で置いてけぼりに。仕方がないからちゃんと扉の鍵を回して開けている。
チラッとお城を振り返ると、マーカスさんが僕に片手を振って扉の中に入って行った。
「フォルクス! ぐずぐずすんな!」
「あ、うん。ちょっと待って!」
僕らの脱出劇……で、終わるわけにはいかない。
ジャッジの報酬金のことなんて、ほんとどうでもいい。僕は明日朝までにトリスを見つけ出して連れて来ないといけないんだ。
僕がアルゼレアと無関係だなんて、今さら思えるはずがないんだから。
(((次話は明日17時に投稿します
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