50 / 136
I.本と人の終着地
港での別れ
しおりを挟む
セルジオ国土の港。風は穏やかで船の出航にも何の支障も無いだろう。
観光地の港と違って、人より物の動きの方が盛んみたいだ。桟橋に停泊しているフェリーは三日に一度しか出ないらしい。
電子看板からアルゼレアの乗る船を確認した。
忘れ物は無いかと、チケットはちゃんと持っているかと、本当に保護者みたいに僕は心配している。
「じゃあ。色々あったけど、元気でね」
搭乗ゲートの前で僕は最後にアルゼレアに告げた。
彼女はコクリと頷いて「さよなら」と短い言葉だけでゲートを越えていく。
スタッフにチケットを見せて、ちゃんと桟橋を歩いて行けると確認できるまで心配で僕は見守っていた。
「泣いてんのか?」
不意に声と一緒に肩を叩かれる。何の気配もなかったから僕はすこぶる飛び上がった。
「ジャッジ! 生きてたのか!」
「勝手に死んだことにすんなよ」
拗ねる友人はあの夜、置いて行ってから会っていない。コイツは強運だから必ず何の気なしに現れるとは思っていた。だから、やっぱりと言ったところだ。
「よくもあの時置いて行ってくれたな。こっちは大変だったんだぞ。車のガソリンが底ついて止まるし、逃げ込んだ店がアスタリカ警察の隠れ宿だっだし、おまけに野宿で猫がションベン掛けていきやがった。それにだな……」
桟橋の先ではアルゼレアが振り返ってこっちに手を振っている。
こっちからも振り返したら、アルゼレアはフェリーの中に乗り込んで消えていった。別れはあっけないものだな。
一年後くらい経てば同じ国に僕も帰る。その時偶然彼女にまた会えるかは分からない。
偶然なんてそうそう起こるものじゃ無いんだ。しかも一年も経ってしまえばお互いのことなんて覚えているわけないか。
「おい聞いてんのかよ!」
「うん。猫ね。良いよね」
湿った冷たい風が吹き抜けていく。
同じ冬でもあっちの国の方が乾燥しているだろうね。
「……っじゃ。俺も行くっかな」
「え? そうなの?」
何か話していたらしいジャッジに再び向くと、悠々と貰い物の搭乗チケットを見せつけていた。
得意顔だけど、動機は彼らしくあんまり大したものじゃない。
「結局報酬金は半分以下だしよ。こっちは物価が高ぇだろ? 姉ちゃん達と一晩も遊べねえし。あっちで楽しくやるわ」
じゃあな。と、チケットをピラピラなびかせながらゲートに向かう。その背中を行かせるわけにはいかない。かかとを踏んでつまづかせた。
「痛ってぇな」
相手が地面に手を付いている隙に僕はチケットを奪い取る。
「二枚もらってあるだろ? 一枚は僕の分だ」
「はぁ?」と反感を買うけど正当な事を言っている。
隠し持っている方は高く売ろうとか思っていたみたいだけど、ジャッジもさすがに自分用に使うことにしたようだ。
そして、それは僕も同じだ。
ゲートに向かって受け付けの人にチケットを見せる。
「出港まで時間がありませんので走ってください」
どうやらギリギリだった。
ゲートを抜けて桟橋に立った僕は見えているフェリーに急いだ。
ジャッジがいつまでも来ないなと思い振り返るけどアイツは何をしているんだ。靴や靴下まで脱いでいてチケットが見つからないのか。
フェリーの乗組員から「お急ぎくださーい!」と叫ばれる。
駆け足で滑り込んだらフェリーは間も無く桟橋から離れ始めた。ジャッジはゲートの向こうに見えていたけど僕のことを見送る暇は無いみたい。
出港から揺れる船内を進み、赤髪で無表情で黒い手袋をつけた少女を探す。
「アルゼレア!」
名前を呼んだら彼女は振り返った。
いつも無表情で時々ほんの少し微笑む彼女が、とても驚いた顔でいたのが新鮮だ。
「フォルクスさん!? 一年契約のお家は……?」
どんなことを言うかと思ったらそれか。
「えーっと。それは別荘ってことにしようかな。やっぱり住み慣れた場所の方が良いかなって思って。ほら、アスタリカって物価が高いじゃない?」
船が進むのは早くて、色んな言い訳を重ねているうちにセルジオ国土は見えなくなった。
そういうわけで僕は元いた国に帰る。
どうせ僕は職無しだし、免停であることも変わらない。
ただ一つ変わったことと言えば、僕はもう不運に見舞われない男になったってことかな。
かけがえのない出会いも、こうして繋いでいけたらなって思う。
(((いつも読んでくださってありがとうございます!
(((次話は5/1 17:00 に投稿します。
(((その間の毎日投稿は短編にバトンタッチです。
「神様わたしの星作り chapter Two」を投稿します。
(((スケジュールなどは近況ボードをご覧ください。
(((よろしくおねがいします。(๑╹ω╹๑ )
Twitter →kusakabe_write
Instagram →kusakabe_natsuho
観光地の港と違って、人より物の動きの方が盛んみたいだ。桟橋に停泊しているフェリーは三日に一度しか出ないらしい。
電子看板からアルゼレアの乗る船を確認した。
忘れ物は無いかと、チケットはちゃんと持っているかと、本当に保護者みたいに僕は心配している。
「じゃあ。色々あったけど、元気でね」
搭乗ゲートの前で僕は最後にアルゼレアに告げた。
彼女はコクリと頷いて「さよなら」と短い言葉だけでゲートを越えていく。
スタッフにチケットを見せて、ちゃんと桟橋を歩いて行けると確認できるまで心配で僕は見守っていた。
「泣いてんのか?」
不意に声と一緒に肩を叩かれる。何の気配もなかったから僕はすこぶる飛び上がった。
「ジャッジ! 生きてたのか!」
「勝手に死んだことにすんなよ」
拗ねる友人はあの夜、置いて行ってから会っていない。コイツは強運だから必ず何の気なしに現れるとは思っていた。だから、やっぱりと言ったところだ。
「よくもあの時置いて行ってくれたな。こっちは大変だったんだぞ。車のガソリンが底ついて止まるし、逃げ込んだ店がアスタリカ警察の隠れ宿だっだし、おまけに野宿で猫がションベン掛けていきやがった。それにだな……」
桟橋の先ではアルゼレアが振り返ってこっちに手を振っている。
こっちからも振り返したら、アルゼレアはフェリーの中に乗り込んで消えていった。別れはあっけないものだな。
一年後くらい経てば同じ国に僕も帰る。その時偶然彼女にまた会えるかは分からない。
偶然なんてそうそう起こるものじゃ無いんだ。しかも一年も経ってしまえばお互いのことなんて覚えているわけないか。
「おい聞いてんのかよ!」
「うん。猫ね。良いよね」
湿った冷たい風が吹き抜けていく。
同じ冬でもあっちの国の方が乾燥しているだろうね。
「……っじゃ。俺も行くっかな」
「え? そうなの?」
何か話していたらしいジャッジに再び向くと、悠々と貰い物の搭乗チケットを見せつけていた。
得意顔だけど、動機は彼らしくあんまり大したものじゃない。
「結局報酬金は半分以下だしよ。こっちは物価が高ぇだろ? 姉ちゃん達と一晩も遊べねえし。あっちで楽しくやるわ」
じゃあな。と、チケットをピラピラなびかせながらゲートに向かう。その背中を行かせるわけにはいかない。かかとを踏んでつまづかせた。
「痛ってぇな」
相手が地面に手を付いている隙に僕はチケットを奪い取る。
「二枚もらってあるだろ? 一枚は僕の分だ」
「はぁ?」と反感を買うけど正当な事を言っている。
隠し持っている方は高く売ろうとか思っていたみたいだけど、ジャッジもさすがに自分用に使うことにしたようだ。
そして、それは僕も同じだ。
ゲートに向かって受け付けの人にチケットを見せる。
「出港まで時間がありませんので走ってください」
どうやらギリギリだった。
ゲートを抜けて桟橋に立った僕は見えているフェリーに急いだ。
ジャッジがいつまでも来ないなと思い振り返るけどアイツは何をしているんだ。靴や靴下まで脱いでいてチケットが見つからないのか。
フェリーの乗組員から「お急ぎくださーい!」と叫ばれる。
駆け足で滑り込んだらフェリーは間も無く桟橋から離れ始めた。ジャッジはゲートの向こうに見えていたけど僕のことを見送る暇は無いみたい。
出港から揺れる船内を進み、赤髪で無表情で黒い手袋をつけた少女を探す。
「アルゼレア!」
名前を呼んだら彼女は振り返った。
いつも無表情で時々ほんの少し微笑む彼女が、とても驚いた顔でいたのが新鮮だ。
「フォルクスさん!? 一年契約のお家は……?」
どんなことを言うかと思ったらそれか。
「えーっと。それは別荘ってことにしようかな。やっぱり住み慣れた場所の方が良いかなって思って。ほら、アスタリカって物価が高いじゃない?」
船が進むのは早くて、色んな言い訳を重ねているうちにセルジオ国土は見えなくなった。
そういうわけで僕は元いた国に帰る。
どうせ僕は職無しだし、免停であることも変わらない。
ただ一つ変わったことと言えば、僕はもう不運に見舞われない男になったってことかな。
かけがえのない出会いも、こうして繋いでいけたらなって思う。
(((いつも読んでくださってありがとうございます!
(((次話は5/1 17:00 に投稿します。
(((その間の毎日投稿は短編にバトンタッチです。
「神様わたしの星作り chapter Two」を投稿します。
(((スケジュールなどは近況ボードをご覧ください。
(((よろしくおねがいします。(๑╹ω╹๑ )
Twitter →kusakabe_write
Instagram →kusakabe_natsuho
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
武田信玄Reローデッド~チートスキル『ネット通販風林火山』で、現代の物をお取り寄せ無双して、滅亡する武田家の運命をチェンジ!
武蔵野純平
ファンタジー
第3回まんが王国コミカライズコンテストにて優秀賞を受賞しました! 応援感謝です!
戦国時代をモチーフにした和風の異世界ファンタジー!
平凡なサラリーマンだった男は、若き日の武田信玄――十四歳の少年、武田太郎に転生した。戦国最強の騎馬軍団を率いる武田家は、織田信長や徳川家康ですら恐れた大名家だ。だが、武田信玄の死後、武田家は滅亡する運命にある。
武田太郎は、転生時神様に貰ったチートスキル『ネット通販風林火山』を使って、現代日本のアイテムを戦国時代に持ち込む。通販アイテムを、内政、戦争に生かすうちに、少しずつ歴史が変わり出す。
武田家の運命を変えられるのか?
史実の武田信玄が夢見た上洛を果すのか?
タイトル変更しました!
旧タイトル:転生! 風林火山!~武田信玄に転生したので、ネット通販と現代知識でチート!
※この小説はフィクションです。
本作はモデルとして天文三年初夏からの戦国時代を題材にしておりますが、日本とは別の異世界の話しとして書き進めています。
史実と違う点がありますが、ご了承下さい。

悪役令嬢に転生した私が、なぜか暴君侯爵に溺愛されてるんですけど
夏目みや
恋愛
「ど、どうして私がラリエットになっているのよ!!」
これが小説の中だと気づいたのは、婚約者選びのパーティでのこと。
相手はゼロニス・ロンバルディ。侯爵家の跡継ぎで、暴君と噂されている。
婚約者が決まるまで、候補者たちはロンバルディの屋敷で過ごさせばならない。
ここから出るのは候補者を辞退するか、ゼロニスから「出ていけ」と命じられるかの二択。
しかも、私の立ち位置は──悪役令嬢のラリエット・メイデス。しかもちょい役で、はっきり言うとモブの当て馬。このままいけば、物語の途中であっさりと退場する。
なぜならゼロニスは、ここで運命の出会いを果たすのだから――
断罪されたくないとメイドに変装して働いていると、なぜかゼロニスの紅茶係に。
「好きだと言っている。俺以上の男などいないだろう」
なぜかグイグイとくるゼロニス。
ちょっ、あなた、ヒロインはどうしたの!?
咲子さんの陽だまりの庭
秋野 木星
恋愛
30歳になる年に、結婚を諦めて自分の家を買うことにした咲子。
職場の図書館から通える田舎の田んぼの中に建つ家に住み始めました。
ガーデンニング、料理、手芸、咲子の楽しい生活が始まります。
そこに農家の男性が訪ねてきました…
※ 表紙は加純さんの作品です。
※ この作品は、カクヨム、小説家になろうからの転記更新です。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

蟻喜多利奈のありきたりな日常2
あさまる
ライト文芸
※こちらは『蟻喜多利奈のありきたりな日常』の続編となります。
※予約投稿にて最終話まで投稿済です。
この物語は、自称平凡な女子高生蟻喜多利奈の日常の風景を切り取ったものです。
※この作品には女性同士の恋愛描写(GL、百合描写)が含まれます。
苦手な方はご遠慮下さい。
※この話はフィクションであり、実在する団体や人物等とは一切関係ありません。
誤字脱字等ありましたら、お手数かと存じますが、近況ボードの『誤字脱字等について』のページに記載して頂けると幸いです。
余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~
藤森フクロウ
ファンタジー
相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。
悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。
そこには土下座する幼女女神がいた。
『ごめんなさあああい!!!』
最初っからギャン泣きクライマックス。
社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。
真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……
そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?
ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!
第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。
♦お知らせ♦
余りモノ異世界人の自由生活、コミックス1~4巻が発売中!
漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。
よかったらお手に取っていただければ幸いです。
書籍1~7巻発売中。イラストは万冬しま先生が担当してくださっています。
第8巻は12月16日に発売予定です! 今回は天狼祭編です!
コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。
漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。
※基本予約投稿が多いです。
たまに失敗してトチ狂ったことになっています。
原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。
現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。
神託の聖女様~偽義妹を置き去りにすることにしました
青の雀
恋愛
半年前に両親を亡くした公爵令嬢のバレンシアは、相続権を王位から認められ、晴れて公爵位を叙勲されることになった。
それから半年後、突如現れた義妹と称する女に王太子殿下との婚約まで奪われることになったため、怒りに任せて家出をするはずが、公爵家の使用人もろとも家を出ることに……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる