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lll.ロンド小国、旧ネザリア
定例会議に呼び出し1
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ようやく執務室が執務を行う部屋として稼働し始め、ここに来る者も定着しだした頃だ。
俺は当然常にここに居て、何故だかアルバートもここを拠点だと履き違えてずっと居る。
時々あの執事が様子を見に来るのと、それと何故だか時々あのルイスとかいう監視役も訪ねてきた。
後者の方は顔を合わせる前に帰らせるようアルバートに指示を出したりしている。
西日を直に受けるこの室内はオレンジ色に染まるとともに、そろそろ終わる時間かと分かりやすくて大変良い。
だがしばらくはそんな親切設計などは無視して過ごすであろう。
「今日もどっさりですよー」
軽快にステップを踏みながらアルバートがやってきた。自分で仕事を探せんようだから使いを頼んでいた。
アルバートは俺の机の上に手紙の束を置く。机はあの鍵付きのものではなくて、別のものと変えてある。そうでなければ仕事が手につかんからだ。
「何がどっさりだ」
「二十六通ですよ? どっさりでしょう」
「二十六枚程度の紙の束など俺にとっては一枚も同然なんだが」
そう言いながら俺は手紙を手に取りさっそく中を確認していく。文面を最後まで黙読し、また次の手紙に手を伸ばした。
「どんな事が書いてあるんですか?」
「ん? 気になるか?」
数度の使いの末、ようやくアルバートがこの郵便物を気にしたらしい。今までは運んでくるだけで自分の役目は終わりだと居眠りするばかりであった。
俺は部下の成長を嬉しく思い、今読み終えたばかりの手紙をアルバートへと流してやった。
アルバートは喜んで手紙を受け取った。
鼻息を鳴らしながら内容に目を通すが、やがて「げえ」と声を出す。
「何ですかこれ。まるで殺害予告じゃないですか」
「そうだ。俺は命を狙われているからな」
俺は次々に手紙を読みながら口だけで返事をしている。
「何かヤバい事でもやったんですか?」
聞き捨てならんことを言われてアルバートを睨んでやると、ヤツはそっと手に持つ手紙で顔を隠していた。
「俺がこの城に居座るのを良いと思わん人が居るのだ。それを訴えるために民衆がこうして俺に手紙を寄越している」
「へえー。でも二十六人だったら余裕じゃないですか。メルチの人口って……多いんでしょう?」
数値が分からんから言い方を変えてきた。
「人口はだいたい六百万人だ。それに手紙は毎日三度来るのだぞ。もっと頭を使って発言してくれ」
読んだ手紙を全てアルバートに渡す。アルバートはそのひどい内容に逐一反応しており、唸ったり叫んだりうるさかった。
「お命を狙っているのは民間だけでは無さそうですぞ」
アルバートでは無いしわがれた声が聞こえる。
顔を上げれば開けっ放しの扉のところに苦笑顔の執事が立っていた。
「議長がバル様へお呼び出しを」
「議長?」
何だか分からんがとりあえず、殺される覚悟で執事とともに議長とやらに会いに行く。
一人では二度と戻れそうもない廊下をくねくね歩き、別館に入る扉の前にやってきた。
実に仰々しく大きな扉だ。執事は中に入れないため俺だけで重い扉を押し開けた。
すると吹き抜けになった広い空間が現れる。だがそこはダンスフロアでは無い。
通路を挟んで椅子ばかり備わったその大部屋は、国のことなどで会議を行う場所なのである。
扉が開いた音で、一斉に満員の人々がこちらを振り返った。
実に恐ろしい光景だ。これから皆で俺を火祭りにでも上げるつもりなのだろうか。
「どうぞ中央の席へ」
これだけ多くの人が集まる中で誰が発言したのか分からんが、俺に向かって言ったのは確かだ。
窓もなく息が詰まりそうな空間に固唾を呑む。
俺は無数の目を向けられながら指定された席へと歩いて行った。
「レイヴン・バル殿。お会いできて光栄です」
「あ、ああ。よろしく……」
俺より歳上である国の大臣らが集う中央の席で、俺は何人かに握手をさせられた。
気丈に振る舞う人物に警戒が怠れないのであるが、仏頂面でこちらを睨んでくる人物も気掛かりで仕方がない。
唯一不安を払拭できるかと思えたのは、俺が座る椅子を引くのがジギルスだったことのみである。
しかしそれも信じて大丈夫なのだろうかと俺は怖かった。
……静寂の中に俺が椅子を引く音が響く。
「皆集まった。これより定例会議を始める」
すると会場の全員が椅子から立って一度礼をした。もちろん俺は出遅れた。そんな作法など微塵も知らんからな。
席を座った後は大臣による案件の持ち出しや、それについての質問、抗議などが行われるようである。
無数にいる人々は大臣の下につく役員の者たちだ。発言権は基本無い。だが熱心にメモを取ったりして話し合いには参加している風だ。
大臣は六名。それと俺を合わせて七名が中央の席で話し合っていた。
名前も役職も分からん人物の話は全くもって頭に入ってこない。俺はただただ腕を組んだままでその場に居合わせただけとなる。
「では重要課題を進める」
案件がまとまったところで進行役はそう告げた。
「よろしいですか。バル殿」
「え!? ああ……」
空気となっていたはずが、いきなり名指しで驚いた。
大臣が全員で俺のことを凝視している。いよいよ俺が吊し上げられる番が来たのか。
進行役はあらかじめ紙に書き綴った内容を皆に向けて読みだした。
「リュンヒン様が亡くなられてから一週間。国民や兵士間でも士気が乱れつつあります。それは我らの重要な指導者がこの世を去った悲しみがひとつ。もう一つは今ここに居られるレイヴン・バル殿がリュンヒン様を殺めたのではないかと懸念する声です。どうか皆が納得できる説明をお願いいたします」
そこで進行役の声は終わった。
まあそうだろうな、と思っていた俺であった。しかと胸に手を置く気持ちで耳を傾けていたのだ。
俺は当然常にここに居て、何故だかアルバートもここを拠点だと履き違えてずっと居る。
時々あの執事が様子を見に来るのと、それと何故だか時々あのルイスとかいう監視役も訪ねてきた。
後者の方は顔を合わせる前に帰らせるようアルバートに指示を出したりしている。
西日を直に受けるこの室内はオレンジ色に染まるとともに、そろそろ終わる時間かと分かりやすくて大変良い。
だがしばらくはそんな親切設計などは無視して過ごすであろう。
「今日もどっさりですよー」
軽快にステップを踏みながらアルバートがやってきた。自分で仕事を探せんようだから使いを頼んでいた。
アルバートは俺の机の上に手紙の束を置く。机はあの鍵付きのものではなくて、別のものと変えてある。そうでなければ仕事が手につかんからだ。
「何がどっさりだ」
「二十六通ですよ? どっさりでしょう」
「二十六枚程度の紙の束など俺にとっては一枚も同然なんだが」
そう言いながら俺は手紙を手に取りさっそく中を確認していく。文面を最後まで黙読し、また次の手紙に手を伸ばした。
「どんな事が書いてあるんですか?」
「ん? 気になるか?」
数度の使いの末、ようやくアルバートがこの郵便物を気にしたらしい。今までは運んでくるだけで自分の役目は終わりだと居眠りするばかりであった。
俺は部下の成長を嬉しく思い、今読み終えたばかりの手紙をアルバートへと流してやった。
アルバートは喜んで手紙を受け取った。
鼻息を鳴らしながら内容に目を通すが、やがて「げえ」と声を出す。
「何ですかこれ。まるで殺害予告じゃないですか」
「そうだ。俺は命を狙われているからな」
俺は次々に手紙を読みながら口だけで返事をしている。
「何かヤバい事でもやったんですか?」
聞き捨てならんことを言われてアルバートを睨んでやると、ヤツはそっと手に持つ手紙で顔を隠していた。
「俺がこの城に居座るのを良いと思わん人が居るのだ。それを訴えるために民衆がこうして俺に手紙を寄越している」
「へえー。でも二十六人だったら余裕じゃないですか。メルチの人口って……多いんでしょう?」
数値が分からんから言い方を変えてきた。
「人口はだいたい六百万人だ。それに手紙は毎日三度来るのだぞ。もっと頭を使って発言してくれ」
読んだ手紙を全てアルバートに渡す。アルバートはそのひどい内容に逐一反応しており、唸ったり叫んだりうるさかった。
「お命を狙っているのは民間だけでは無さそうですぞ」
アルバートでは無いしわがれた声が聞こえる。
顔を上げれば開けっ放しの扉のところに苦笑顔の執事が立っていた。
「議長がバル様へお呼び出しを」
「議長?」
何だか分からんがとりあえず、殺される覚悟で執事とともに議長とやらに会いに行く。
一人では二度と戻れそうもない廊下をくねくね歩き、別館に入る扉の前にやってきた。
実に仰々しく大きな扉だ。執事は中に入れないため俺だけで重い扉を押し開けた。
すると吹き抜けになった広い空間が現れる。だがそこはダンスフロアでは無い。
通路を挟んで椅子ばかり備わったその大部屋は、国のことなどで会議を行う場所なのである。
扉が開いた音で、一斉に満員の人々がこちらを振り返った。
実に恐ろしい光景だ。これから皆で俺を火祭りにでも上げるつもりなのだろうか。
「どうぞ中央の席へ」
これだけ多くの人が集まる中で誰が発言したのか分からんが、俺に向かって言ったのは確かだ。
窓もなく息が詰まりそうな空間に固唾を呑む。
俺は無数の目を向けられながら指定された席へと歩いて行った。
「レイヴン・バル殿。お会いできて光栄です」
「あ、ああ。よろしく……」
俺より歳上である国の大臣らが集う中央の席で、俺は何人かに握手をさせられた。
気丈に振る舞う人物に警戒が怠れないのであるが、仏頂面でこちらを睨んでくる人物も気掛かりで仕方がない。
唯一不安を払拭できるかと思えたのは、俺が座る椅子を引くのがジギルスだったことのみである。
しかしそれも信じて大丈夫なのだろうかと俺は怖かった。
……静寂の中に俺が椅子を引く音が響く。
「皆集まった。これより定例会議を始める」
すると会場の全員が椅子から立って一度礼をした。もちろん俺は出遅れた。そんな作法など微塵も知らんからな。
席を座った後は大臣による案件の持ち出しや、それについての質問、抗議などが行われるようである。
無数にいる人々は大臣の下につく役員の者たちだ。発言権は基本無い。だが熱心にメモを取ったりして話し合いには参加している風だ。
大臣は六名。それと俺を合わせて七名が中央の席で話し合っていた。
名前も役職も分からん人物の話は全くもって頭に入ってこない。俺はただただ腕を組んだままでその場に居合わせただけとなる。
「では重要課題を進める」
案件がまとまったところで進行役はそう告げた。
「よろしいですか。バル殿」
「え!? ああ……」
空気となっていたはずが、いきなり名指しで驚いた。
大臣が全員で俺のことを凝視している。いよいよ俺が吊し上げられる番が来たのか。
進行役はあらかじめ紙に書き綴った内容を皆に向けて読みだした。
「リュンヒン様が亡くなられてから一週間。国民や兵士間でも士気が乱れつつあります。それは我らの重要な指導者がこの世を去った悲しみがひとつ。もう一つは今ここに居られるレイヴン・バル殿がリュンヒン様を殺めたのではないかと懸念する声です。どうか皆が納得できる説明をお願いいたします」
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