クランクビスト‐終戦した隠居諸国王子が、軍事国家王の隠し子を娶る。愛と政治に奔走する物語です‐ 【長編・完結済み】

草壁なつ帆

文字の大きさ
上 下
96 / 172
Ⅱ.拓かれる秘境国

セルジオ潜入‐関所モドキ‐

しおりを挟む
「ところで情報が筒抜けだけど良いのかい?」
 マルク王は俺の後ろを指して言った。
 シャーロットも参戦したこのやりとりをどういう気持で見ていたかは知らないが、俺の監視役二号が立ち尽くしている。
 相変わらず機械のようで感情の読めない顔つきだ。俺のことばかりに注目していた。
 マルク王は「よく出来た兵士だ」と褒めたような言い方をしていたが、シャーロットは素直で「気味が悪いわ」と言う。
「本部に伝わる前に用事は済ませた方が良いね。大使の件はシャーロットと話し合っておくから、君は先にセルジオに渡って何とかしてみせなさい」
「はい。承知致しました」
「君が失敗する可能性だってゼロじゃ無い」
 いつものおだやかなマルク王で告げられた。
 ただし最後の一言には、まだ俺の事を許していないという意思が汲み取れもする。

 ニューリアン郊外から馬に乗ってセルジオ領土へと入った。
 そのまま関所を通って都市部へ行けたら問題は無いのであるが、そう上手くはいかないとマルク王の策を授かっている。
「関所は厳重だ。たとえ荷車の木箱に隠れたとしても、入口付近で内部まで点検が入るよ。一旦南下して山脈を辿って行きなさい。闇市の関所モドキがあるから」とのことだ。
「関所モドキ……」
 声に出してみても得体は知れない。
「民間が作った門か何かでしょうか?」
 カイセイが馬を寄せて答えてきた。
 少し離れたところではセルジオ王国の国旗である真っ赤な単色が天高い位置ではためいている。
『汚れなき血の色は誇りの証』と自負する血気盛んな連中らによる本物の関所があるのだ。
「とにかく見て回るしか無い」
 ここは謎が残るがマルク王の言う通りに動くことにしよう。
 俺達はローブで顔を隠した。三頭の馬は言われた通りの道を走らせ、急ぐよう手綱を引いた。
 途中で振り返ると、真っ赤な旗はまだ俺たちを見ているようだ。
 あれはセルジオ戦士の決意であるのだろうが、外部者からすれば対敵意識を突きつける威嚇の色にも見えた。

 痩せた土が広がるだけの遠く見渡せる平地である。敵が居ても分かるし、逆に敵からも俺達のことは丸見えだ。
 肝を冷やしながらとにかくスピードで駆け抜け、山脈の麓で向きを変えた。
 我が国を囲むような剣山の山脈ではなく、大きなコブを並べただけの山脈だった。
 幾つかトンネルが開通していたり、山肌に畑をこしらえていたりと、開発が進んでいるようである。
「お前の言う通り、戦いは川岸でされているみたいだな。ここはあまりに平和だ」
 馬を止めて少し周りの景色を眺めた。
 家ひとつ建たぬ低い草がぽつぽつ生えるこの土地に、野生のヤギの群れが行き先を迷っているばかりだ。
 畑をするにも土が枯れすぎているから人間などは好んで寄り付かん。
「都心から離れすぎましたか? こんな場所に関所なんて無いでしょう」
「うーむ。山脈を辿れと言っていたが……」
 軽く馬を歩かせながらも不安になるばかりであった。
 そろそろこの山脈が北の方角を向き、このまま辿っていくとセルジオ北部まで行ってしまうぞというところ。
 道を間違えたか引き返そうかと口々に話していると、山脈のトンネルから一台の馬車が出てくるのが前方に見えた。
 何を運んでいるかは知らんが、ずいぶんと大荷物を二匹の馬に運ばせているのである。
「武器でしょうか?」
「いや。それにしては運び方が雑だ」
 決して悪い道では無いのに、その馬車はガタガタ揺れながら大急ぎで都市部へ駆けていく。
 俺達の馬もその馬車を見失わないようにと後に続いた。
 押し固めた道のような筋には、馬車から落ちたと思われる鉄板のようなガラクタが落ちている。

 急ぐ馬車が向かった先には小屋があった。
 都市部までにはまだ距離があり、その小屋はぽつんと一軒建っているのである。
 何度も増築と改造を繰り返した手芸品のような建物であり、何やら文字の剥げた看板を掲げていた。
 馬車はその道の上に置いたままで、人間は建物内に入ったようだ。俺も馬から降りて入ってみることにする。
「……らっしゃい」
 入るなり不機嫌な声で出迎えられた。
 中は灯りが付けられていなく、外の日差しだけで灯りを賄っていて薄暗い。
 何の店かは分からんがカウンターがあり、店主とおそらく御者である若い男が会話をしていた途中だった。
「セルジオ都市部に入りたい。関所モドキと言われているのはここか?」
 尋ねると店主が怪しむ目つきで俺のことを見てくる。
 肌色も分からん暗い店内だが、店主の顔にある無数のピアスが不気味に光っている。
 無口でじっと睨みを効かされており言葉が通じんのかと思った。
「あれはお前んとこの馬か?」
 ようやく喋ってくれたと思うと、俺のことを通り越して窓から三頭の馬のことを見て言っているようだ。
「ああ、そうだが」
 飼い主では無いが、乗ってきたのだから、そうだと答えた。
 すると店主がレジ台から金を集めて袋に入れだした。
 小ぶりな袋は先客の御者に。もうひとつ一回り大きな袋は俺にだろう。それぞれカウンターに置いた。
「三頭まとめた値段だ。都市に行きたいなら金を仕舞って付いて来な」
 店主はレジ台の鍵を閉めて店を出て行く。
 金袋をくすねるみたいに懐へ仕舞った御者も、店主と共に店の外へ出て行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

処理中です...