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Ⅱ.拓かれる秘境国
交渉‐逆鱗に触れる‐
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「バル君の言う通り。キースを僕の席に座らせて、あの老害に一泡吹かせようとしたのは間違いじゃないよ。じゃあ次は僕の番だ。君達が僕に持ってきた大事な話とやらを聞かせてくれるかな?」
にこやかな目を俺に向けられた。その余裕ぶりが彼の威厳であり相手を威圧する。
俺は生唾を飲み込んでいる。
相手は王なのだから気に入らなければ牢屋にぶち込むことも出来るし、最悪死刑執行とて一声である。
だがやんわり伝えても意味がない。ここは強い思いだということも分かって貰う必要があった。
俺は緊張を紛らすためにも水を一口飲んでから告げることにした。
まずは重要な一言。
「セルジオの内戦をやめさせようと思います」
「ほう?」
これだけでは王はまだ核心を捉えていない様子だ。
「その暁にはニューリアンとセルジオで条約を結んでいただきたいのです」
「条約……講和条約ということで良いのかな?」
「はい。その通りです」
するとマルク王は腕を組みながら唸った。
「ううむ、分からんな。講和条約というのはふつう争い合う国同士が仲直りすると決めて結ぶものだけど。セルジオの内戦停止に何故うちの国が手を出す必要がある?」
「セルジオ南北が争う理由は分かりませんが、ニューリアンのシャーロットを欲していることには間違いありません」
そこまで言うとマルク王が察したようだ。「では君達は」と、強い声で俺の言葉を奪った。
「シャーロットを戦利品にしようとでも言うのか」
腕を組んだままじっと俺のことを睨んでいた。
あまり見ることのない、にこやかとは真逆の怒る目でだ。
真意を一突きで仕留められた俺は、ぐっと奥歯を噛み締めて次の言葉を頭の中で練り込む。
ここで押し退かされていてはならないのだ。
「南北のどちらかを勝たせ、再び一つの国としてまとめさせます。そして新王の下にシャーロットを置けば、セルジオとニューリアンの安定が望めます」
「ならん!!」
マルク王が机を殴ったことで、テーブルのナッツがすべてぶちまけられた。
「失望だ! よりによって君が最悪の提案を持ちかけてくるとは甚だ忌まわしい!」
「安定とはセルジオ、ニューリアンだけの問題ではありません」
「他の国がどうして爆ぜようが関係ない! これは我が家の取り決めだ! 部外の者が利益のためにうちの娘を利用するならば、君とて容赦しないぞ!」
「貴族狩りという物騒な動きもある中、軍隊を持たず各国と根強いメアネル家は、彼らにとって恰好であると思うからこそです!」
熱くなるマルク王に負けじと最終は俺も声が大きくなってしまった。
ナッツがばらまかれたテーブルを挟む俺とマルク王は、共に立ち上がっておりゼイゼイと息を荒げている。
メアネル家は育て上げた立派な娘を貴族のもとへ出すことが主流だ。
それであるのに、シャーロットを出すことに対しマルク王が息を荒げて怒る理由はもとより知っていた。
戦の天才アルゴブレロ王と、まだ若きその息子のキース。このふたりが一騎打ちをすればどちらが勝つかは明確だ。
マルク王はアルゴブレロにシャーロットを渡すのをとても嫌がっていた。
「……どっちを勝たせるつもりなんだ」
「アルゴブレロ王です」
俺から静かに告げるとマルク王は怒りに身を震わせた。
「この非道共を牢屋に入れておけ」
近くのニューリアン兵士に言いつけ、その兵士が俺達のもとへ寄ろうとする。
ノックも無しに扉が開け放たれて「お父様、待って!」とシャーロットが中に入った。
おそらく扉の外で話を聞いていたのだ。スカートを絡ませながらマルク王へとすがりついている。
加えて俺からも待ったをかけていた。シャーロットが入室してくるのと同時にだ。
「シャーロット姫をアルゴブレロ王の妻にさせる気は毛頭ありません」
マルク王を静かに座らせるシャーロットが驚いた顔で俺のことを見た。
ニューリアン兵士が俺の両手に縄をかけ始めるところであるが、彼女は「どういうこと?」と話を聞いてくれそうだ。
「王女では無く、大使としてニューリアンとセルジオの親善外交を務めさせたいのです」
「大使……」
マルク王は小さく口にした後、めまいを起こして額を抑えていた。
「お父様しっかりして!」
「あ、ああ……大丈夫だよ。頭に昇った血が今引いてきただけだ」
使用人に冷たい水とこんな時に飲む決まった薬を運ばせる。
俺やカイセイを牢屋に入れるのは一旦無しになり、手を縛ろうとした兵士はもとの位置に戻った。
「もう、お父様。急に感情的になったりしないで」
「すまなかったよ」
親子の落ち着いた会話が目の前でされている。
その様子を何を思うでもなく眺めていると「あなたもよ?」とシャーロットが急にこっちを向いた。
「話の順序が違っていたら、こうはならなかったわ。お父様の怒るポイントぐらい察しが付くでしょう?」
「俺がどこから話そうが良いだろう。ちゃんと順を追って説明していた」
「違うわよ。馬鹿ね。相手がどう思うかを考えながら喋んなさいよって言っているの!」
「はぁ? そんな面倒なことが出来るか!」
飛び散ったナッツをそのままに俺とシャーロットは言い合う。
「お二人とも、ここで喧嘩をするのはお止め下さい」
カイセイが言うと、体調が回復したマルク王が少し笑い声を出していた。
にこやかな目を俺に向けられた。その余裕ぶりが彼の威厳であり相手を威圧する。
俺は生唾を飲み込んでいる。
相手は王なのだから気に入らなければ牢屋にぶち込むことも出来るし、最悪死刑執行とて一声である。
だがやんわり伝えても意味がない。ここは強い思いだということも分かって貰う必要があった。
俺は緊張を紛らすためにも水を一口飲んでから告げることにした。
まずは重要な一言。
「セルジオの内戦をやめさせようと思います」
「ほう?」
これだけでは王はまだ核心を捉えていない様子だ。
「その暁にはニューリアンとセルジオで条約を結んでいただきたいのです」
「条約……講和条約ということで良いのかな?」
「はい。その通りです」
するとマルク王は腕を組みながら唸った。
「ううむ、分からんな。講和条約というのはふつう争い合う国同士が仲直りすると決めて結ぶものだけど。セルジオの内戦停止に何故うちの国が手を出す必要がある?」
「セルジオ南北が争う理由は分かりませんが、ニューリアンのシャーロットを欲していることには間違いありません」
そこまで言うとマルク王が察したようだ。「では君達は」と、強い声で俺の言葉を奪った。
「シャーロットを戦利品にしようとでも言うのか」
腕を組んだままじっと俺のことを睨んでいた。
あまり見ることのない、にこやかとは真逆の怒る目でだ。
真意を一突きで仕留められた俺は、ぐっと奥歯を噛み締めて次の言葉を頭の中で練り込む。
ここで押し退かされていてはならないのだ。
「南北のどちらかを勝たせ、再び一つの国としてまとめさせます。そして新王の下にシャーロットを置けば、セルジオとニューリアンの安定が望めます」
「ならん!!」
マルク王が机を殴ったことで、テーブルのナッツがすべてぶちまけられた。
「失望だ! よりによって君が最悪の提案を持ちかけてくるとは甚だ忌まわしい!」
「安定とはセルジオ、ニューリアンだけの問題ではありません」
「他の国がどうして爆ぜようが関係ない! これは我が家の取り決めだ! 部外の者が利益のためにうちの娘を利用するならば、君とて容赦しないぞ!」
「貴族狩りという物騒な動きもある中、軍隊を持たず各国と根強いメアネル家は、彼らにとって恰好であると思うからこそです!」
熱くなるマルク王に負けじと最終は俺も声が大きくなってしまった。
ナッツがばらまかれたテーブルを挟む俺とマルク王は、共に立ち上がっておりゼイゼイと息を荒げている。
メアネル家は育て上げた立派な娘を貴族のもとへ出すことが主流だ。
それであるのに、シャーロットを出すことに対しマルク王が息を荒げて怒る理由はもとより知っていた。
戦の天才アルゴブレロ王と、まだ若きその息子のキース。このふたりが一騎打ちをすればどちらが勝つかは明確だ。
マルク王はアルゴブレロにシャーロットを渡すのをとても嫌がっていた。
「……どっちを勝たせるつもりなんだ」
「アルゴブレロ王です」
俺から静かに告げるとマルク王は怒りに身を震わせた。
「この非道共を牢屋に入れておけ」
近くのニューリアン兵士に言いつけ、その兵士が俺達のもとへ寄ろうとする。
ノックも無しに扉が開け放たれて「お父様、待って!」とシャーロットが中に入った。
おそらく扉の外で話を聞いていたのだ。スカートを絡ませながらマルク王へとすがりついている。
加えて俺からも待ったをかけていた。シャーロットが入室してくるのと同時にだ。
「シャーロット姫をアルゴブレロ王の妻にさせる気は毛頭ありません」
マルク王を静かに座らせるシャーロットが驚いた顔で俺のことを見た。
ニューリアン兵士が俺の両手に縄をかけ始めるところであるが、彼女は「どういうこと?」と話を聞いてくれそうだ。
「王女では無く、大使としてニューリアンとセルジオの親善外交を務めさせたいのです」
「大使……」
マルク王は小さく口にした後、めまいを起こして額を抑えていた。
「お父様しっかりして!」
「あ、ああ……大丈夫だよ。頭に昇った血が今引いてきただけだ」
使用人に冷たい水とこんな時に飲む決まった薬を運ばせる。
俺やカイセイを牢屋に入れるのは一旦無しになり、手を縛ろうとした兵士はもとの位置に戻った。
「もう、お父様。急に感情的になったりしないで」
「すまなかったよ」
親子の落ち着いた会話が目の前でされている。
その様子を何を思うでもなく眺めていると「あなたもよ?」とシャーロットが急にこっちを向いた。
「話の順序が違っていたら、こうはならなかったわ。お父様の怒るポイントぐらい察しが付くでしょう?」
「俺がどこから話そうが良いだろう。ちゃんと順を追って説明していた」
「違うわよ。馬鹿ね。相手がどう思うかを考えながら喋んなさいよって言っているの!」
「はぁ? そんな面倒なことが出来るか!」
飛び散ったナッツをそのままに俺とシャーロットは言い合う。
「お二人とも、ここで喧嘩をするのはお止め下さい」
カイセイが言うと、体調が回復したマルク王が少し笑い声を出していた。
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