92 / 172
Ⅱ.拓かれる秘境国
多忙な旧友
しおりを挟む
「……なぁ」
「なんだい?」
「セルジオの話は聞いているか?」
「セルジオ?」
「分国しそうだという話だ」
するとリュンヒンが突然「ぶっ」と吹き出して笑った。
「妙に真剣に何かと思ったら、君は一体いつの話をしているんだ」
その後もしばらく笑われることになる。
真面目に切り出しただけに小っ恥ずかしくなり、俺はヤケクソでリュンヒンに言い訳を並べていた。
リュンヒンは言い訳を軽々かわして、このように告げる。
「セルジオが二つになるかもしれないという話はもう二年前からずっと言われている。そもそもその原因を作ったのは君じゃないか。許嫁と無事に結ばれてさえすれば、こんなに事が深まることもなかったろう?」
俺がシャーロットと婚約破棄したことをリュンヒンはもちろん知っていた。
他人事であると、サイドテーブルに用意されてある果物からリンゴを手にとって丸かじりしている。
俺はそのシャクシャクという音を聞かされた。
「やっぱり俺のせいなのか?」
「ああそうだね」
また一口かじって咀嚼した。
「メアネル・シャーロットとアルゴブレロの婚式は大騒動になるだろうさ。僕はそんなの見たくないよ。美女と野獣にも程がある」
的確な例えに俺はつい想像を膨らませてしまった。
「……だな。俺も呼ばれたくない」
「未練があるなら全然間に合うと思うけど。マルク王もそれを一番に望んでいるだろう」
「ああ。つい最近に話を持ちかけられた」
「じゃあ話が早いじゃないか。こんなところに来ている場合じゃないね」
バナナも剥いて食っている。
まさか夕食の代わりにする気なのかと思うくらい、リュンヒンはそこの果物を食べ続けていた。
「さあ休憩は終わりだ。ほら帰った帰った」
リュンヒンは皮やヘタを集め席を立って言う。
俺はこのソファーに根が生えてしまったからそのままの体制だ。
それに戻れば間違いなくカイセイが怒っているので立つ気にならん。
「もうここに住みたい気持ちだ」
「馬鹿なことを言わないで出ていくんだ。僕は君とは違って忙しいんだから」
ぼんやり眺めていた写真も急にぶんどられてしまう。それに代わって怒り顔のリュンヒンに見下されていた。
仕方ないと俺は重たい背中を引き剥がし、窓の方を見た。
外は夕日である。部屋には明るい電気が付いているため、時間帯はまるで気にならなかった。
「トンネル完成は四年後だって言ったっけ?」
「そうだ。長く感じるか?」
「いや? かなり短いと思うね。四年も経てば世界は大きく変わっているだろう」
そこへノックが鳴りメルチ兵士が顔を覗かせた。
「すみません接客中でしたか」
「いいや。もう彼は帰るところだから」
扉付近のやり取りで、いよいよ俺のことを追い出そうという気配がする。
まあ、夜道は危険であるし、俺もそろそろ行こうと尻を上げた。
「じゃあな」と手を挙げるとリュンヒンも同じように手を挙げた。
そのまま顔を出した兵士に玄関まで送ってもらおうとしたら、廊下のところで「バル」と声がかかった。
振り返ればリュンヒンが部屋から出て俺を呼び止めているのだ。
「なんだ。何も盗んでないぞ」
上等な軍服と、幾つもの勲章を身に着けたリュンヒンはわずかに微笑んだ。
「今日は来てくれて嬉しかったよ。気を付けて」
軽く手を振り自分の部屋へと戻っていった。
俺は、気味が悪いな、などと思いながら再び帰りの道を進んだ。
自国に帰ってからも俺は、リュンヒンが最後何をしたかったのかと疑問が消えなかったのである。
すっかり日暮れだ。さすがに遅い時間になってしまい、送ってくれた馬も機嫌を悪くした。
城の玄関のところで馬がいなないていると、その音により何人かの兵士がやってくる。
かくしてその中には、あの男もいるのである。
「ずいぶんと遅い帰りでしたね」
怒りをこらえた声で俺に言うのであった。
俺は御者に運賃を手渡しながら「そうだな」と返事をしている。
「伝言を渡したはずだが?」
「ええ、貰いましたとも。それにしては遅すぎませんかというお話です。一体どちらに行っておられたのです?」
馬の機嫌が直ると御者と共に来た道を引き返し帰っていった。
俺は疲れたので部屋で休もうと城の中に足を入れる。
「ちょっとお待ち下さい」
しかしカイセイが袖を引くのであった。
「この匂い……メルチのお茶では」
「お前は犬か!」
鼻を近づけられた袖を引き離し、俺は早足で城の中を駆け巡る。だがカイセイは俺の部屋の扉までしつこく付いて来た。
さすがに扉を閉めたら中までは追って来なくなり。
俺はふぅと一息付き、そのままベッドに横になるのである。
「なんだい?」
「セルジオの話は聞いているか?」
「セルジオ?」
「分国しそうだという話だ」
するとリュンヒンが突然「ぶっ」と吹き出して笑った。
「妙に真剣に何かと思ったら、君は一体いつの話をしているんだ」
その後もしばらく笑われることになる。
真面目に切り出しただけに小っ恥ずかしくなり、俺はヤケクソでリュンヒンに言い訳を並べていた。
リュンヒンは言い訳を軽々かわして、このように告げる。
「セルジオが二つになるかもしれないという話はもう二年前からずっと言われている。そもそもその原因を作ったのは君じゃないか。許嫁と無事に結ばれてさえすれば、こんなに事が深まることもなかったろう?」
俺がシャーロットと婚約破棄したことをリュンヒンはもちろん知っていた。
他人事であると、サイドテーブルに用意されてある果物からリンゴを手にとって丸かじりしている。
俺はそのシャクシャクという音を聞かされた。
「やっぱり俺のせいなのか?」
「ああそうだね」
また一口かじって咀嚼した。
「メアネル・シャーロットとアルゴブレロの婚式は大騒動になるだろうさ。僕はそんなの見たくないよ。美女と野獣にも程がある」
的確な例えに俺はつい想像を膨らませてしまった。
「……だな。俺も呼ばれたくない」
「未練があるなら全然間に合うと思うけど。マルク王もそれを一番に望んでいるだろう」
「ああ。つい最近に話を持ちかけられた」
「じゃあ話が早いじゃないか。こんなところに来ている場合じゃないね」
バナナも剥いて食っている。
まさか夕食の代わりにする気なのかと思うくらい、リュンヒンはそこの果物を食べ続けていた。
「さあ休憩は終わりだ。ほら帰った帰った」
リュンヒンは皮やヘタを集め席を立って言う。
俺はこのソファーに根が生えてしまったからそのままの体制だ。
それに戻れば間違いなくカイセイが怒っているので立つ気にならん。
「もうここに住みたい気持ちだ」
「馬鹿なことを言わないで出ていくんだ。僕は君とは違って忙しいんだから」
ぼんやり眺めていた写真も急にぶんどられてしまう。それに代わって怒り顔のリュンヒンに見下されていた。
仕方ないと俺は重たい背中を引き剥がし、窓の方を見た。
外は夕日である。部屋には明るい電気が付いているため、時間帯はまるで気にならなかった。
「トンネル完成は四年後だって言ったっけ?」
「そうだ。長く感じるか?」
「いや? かなり短いと思うね。四年も経てば世界は大きく変わっているだろう」
そこへノックが鳴りメルチ兵士が顔を覗かせた。
「すみません接客中でしたか」
「いいや。もう彼は帰るところだから」
扉付近のやり取りで、いよいよ俺のことを追い出そうという気配がする。
まあ、夜道は危険であるし、俺もそろそろ行こうと尻を上げた。
「じゃあな」と手を挙げるとリュンヒンも同じように手を挙げた。
そのまま顔を出した兵士に玄関まで送ってもらおうとしたら、廊下のところで「バル」と声がかかった。
振り返ればリュンヒンが部屋から出て俺を呼び止めているのだ。
「なんだ。何も盗んでないぞ」
上等な軍服と、幾つもの勲章を身に着けたリュンヒンはわずかに微笑んだ。
「今日は来てくれて嬉しかったよ。気を付けて」
軽く手を振り自分の部屋へと戻っていった。
俺は、気味が悪いな、などと思いながら再び帰りの道を進んだ。
自国に帰ってからも俺は、リュンヒンが最後何をしたかったのかと疑問が消えなかったのである。
すっかり日暮れだ。さすがに遅い時間になってしまい、送ってくれた馬も機嫌を悪くした。
城の玄関のところで馬がいなないていると、その音により何人かの兵士がやってくる。
かくしてその中には、あの男もいるのである。
「ずいぶんと遅い帰りでしたね」
怒りをこらえた声で俺に言うのであった。
俺は御者に運賃を手渡しながら「そうだな」と返事をしている。
「伝言を渡したはずだが?」
「ええ、貰いましたとも。それにしては遅すぎませんかというお話です。一体どちらに行っておられたのです?」
馬の機嫌が直ると御者と共に来た道を引き返し帰っていった。
俺は疲れたので部屋で休もうと城の中に足を入れる。
「ちょっとお待ち下さい」
しかしカイセイが袖を引くのであった。
「この匂い……メルチのお茶では」
「お前は犬か!」
鼻を近づけられた袖を引き離し、俺は早足で城の中を駆け巡る。だがカイセイは俺の部屋の扉までしつこく付いて来た。
さすがに扉を閉めたら中までは追って来なくなり。
俺はふぅと一息付き、そのままベッドに横になるのである。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる