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Ⅰ.ネザリア・エセルの使命
港‐狙い狙われる命‐
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エセルはゆっくりと口を開く。
「……父から命を受けておりました。結婚相手の王子を殺せと。それが出来たならお前はネザリアの血を継ぐ者になれると、そのように言われて私は国を渡って来たのです。でも完遂できなければ死ぬのは私なんです。父は必ず私を見つけて殺すでしょう。母も父に殺されましたし、あとは私が居なくなればあの方を止める人間が居なくなる」
王を止める人間?
「私や母は民間で集まり訴訟を起こしていました。戦争を続け苦しくなる市民を一切見ようとしないカイリュ王に、反対の意識を向けていたんです。そんな時に私の消息不明の父が、実はその王であることが判明。それでも絶望をチャンスと捉えて”いつか”を待っていました」
しかし結婚が決まる、と。
「こちらに来てからもずっと悩んでいます。今もどうすれば良いのか分かりません。あなたを殺せば私はカイリュ王の傍でまた”いつか”を待てる。でも私はあなたを殺したくなんか無い。私が殺したいのはネザリア・カイリュだけなのに……!」
彼女の目からぽろぽろ溢れる涙を受け止められず、ただ落ちていくのを見ているだけとは俺はなんて情けないんだろうな。そっと抱きしめてやらなくても、エセルは自分の足でちゃんと立てているのに、俺の方が倒れてしまいそうだ。
「リトゥもグルなのか?」
「私の思いは話してあります。でもリトゥは私が半庶民であることは知りません。あの国で私は長い期間床に伏していたとされていますので、リトゥはいつも私の体を心配してくれているのです」
なるほど、それであのように過保護なのだなと思う。俺は困り果てて鼻を鳴らした。
ずっと遠くの海の端を眺めている。空気も読まずにのどかな風景だ。波の音が繰り返されるが、隣で聞こえる鼻のすする音の方に知らず耳が傾いてしまう。
まさか本当にこの混じり気の無い娘から、殺すだの殺したくないだのを聞くとは思わなかった。いや一度二度は思ったかもしれないが、どこかで実現しないだろうと高を括っていたのだ。過信し過ぎたな俺も。こんなもの運が良くてで命拾いしたに過ぎない。
彼女の迷いはよく分かった。置かれている状況が深刻であることも重要だ。だが俺はこの国の王子として安易に殺されるわけにはいかないのだ。俺がいくら彼女のことを好いていたとしても、そんなのは許されることじゃない。
聞いたことを整理し天秤にかけていたが、俺はもう一つ聞かなくてはいけないことがあったと思い出した。服の上からそっとポケットに触れる。
「あと、あれはどういう意味だ。”生きる”とは何か決心でも付いたのか?」
「……あれは」
エセルが言い出した時、背後から俺の名を呼ぶ声が聞こえてきた。振り返って見ると追いかけてきたカイセイが走ってきている。カイセイはエセルがいることが遠目で確認できたようで安堵の表情を見せた。
「ご無事でしたか。よかったです」
だが、こちらに来るにつれ重い空気を感じ取ると、途端に真面目な顔に戻った。
「バル様。一旦城に戻りましょう。まだここに何者か潜んでいるやもしれません」
「ああ、そうだな。行くぞエセル」
カイセイが翻し俺も後に続こうとした。しかしエセルはそこに留まったままで動こうとせず、城に戻るのを躊躇っている様子であった。もし彼女が意図せず港に連れられたのであればこうはならない。
振り返り静かに言う。
「お前も来るんだ」
「でも……」
「お前は俺の妻だろう。城に戻るぞ」
エセルが渋々付いて来る。すぐそこに見えている馬の位置まで、ずいぶん長い距離のように思える道のりであった。傍でエセルの息を感じながら足早に向かっている。
一応辺りに注意をしていたつもりであった。だがエセルがちゃんと付いてきているかも気がかりで、ふと横の雑木林の茂みに目を向けた時には、そこで弓を構えた人物が潜んでいたのに気付くのが遅れた。
「打つな!」
矢は放たれたが命中しなかった。俺の腹辺りを真横に抜けて鋭い音が背中で鳴った。狙撃手は次の矢を取ろうとせず、口を開けたままで怯えているように見える。俺はその人物から目を離さずにカイセイの名を呼んだ。すると、俺の肩には重いものがもたれかかってくる。
「うう……」
エセルだ。かろうじて俺の腕を掴んでいたが、すぐにずりずりと足から崩れていくのである。呼びかけると共にその背に受けた矢が見えた。ここで見たばかりの繊細な矢であった。
「バル様!」
「カイセイ、エセルを頼む。毒入かもしれん、早く!」
意識が昏倒しているエセルをカイセイに託し、俺はその茂みでガタガタ震える者の元へ向かった。そこにいた男はその場から逃げ出そうとするが、足が動かないのか土を手で掻いて逃れようとする。俺が男のところへ着くと、泡ぶくを吹きながら首を振っている。
「俺じゃない! 俺じゃない!!」
護身用の剣を抜き取り男の首に突きつけると、さらに同じことを何度も連呼した。
「誰の指示だ」
「ち、ちがう! 外したんだ! 俺はエセル様を打ったんじゃない!」
この場に及んで妙なことを言い出す。男のことを睨みつつ、ちらっと抱きかかえている弓矢を見た。接ぎ木で作られたボロい弓矢であった。
「お前が嘘を付いていないのであれば、狙ったのは俺だと言うことか」
男は指先まで震わせるだけで答えなかった。というよりも、答えられない風に状態が変わっていった。自身の過失に震え上がっていると思われたが、次第に病状的な震えに移っていく。そのうちに男はひとりで苦しみ、やがて血色の涎を吐きながらピタリと動かなくなった。
青白くなった男の矢筒を覗いて弓矢を一本取り上げた。見るからに歪んだ安い矢であった。もしかしたら自分で作ったのかもしれない。考えを巡らせていると駆けてくる足音が近付く。
「エセル様は城へ運ばせました。私達も戻りましょう」
カイセイが鎧を付けた馬を連れて来た。
「この男は」
「さっき自分で死んだ。見覚えあるか?」
カイセイは角度を変えながら確認し、分からない。と言う。
「例の乗組員だったかもしれませんが顔までは……」
「そうか。仕方ないな」
馬に乗りながら、さっきの男が外した矢を目で探していた。それはかなり離れた場所の地面に突き刺さっており、木枝のようにポッキリ根本から折れていた。あの死んだ男が俺のことを狙い、それとは違う何者かがエセルを狙っていたのは確定だ。
そしてエセルが言う通り、ネザリア王が娘を殺そうとしているのであれば、敵はネザリアから送り込まれたのだと推測できる。よりによってお家騒動を他国に持ち込ませてくるとは、ネザリア国王は随分とイカレている。
* * *
機嫌が直らんまま医務室に来た。怪我人を治療したり休ませたりする部屋であるが、どうしてこんなに部屋数が多いし家具も似たものばかりで勝手がまるで分からん。
換気の為なのか扉が取り除かれた空間に足を踏み入れて、ここじゃない。ここでもない。と、リトゥやエーデンがいると思われる部屋を探している。
「こんな部屋で何か用事ですかな?」
ひんやりとする無音の部屋で、突如声がして俺は肩を震わせた。廊下からエーデンが覗いてニヤニヤしている。こうして白衣を身につけているとしゃんとした風に見えそうであるが、エーデンの場合は一層幽霊に近づいた気がする。
「驚かさないでくれ。心臓が止まったらどうするのだ。休める状況では無いのだぞ」
エーデンはまるで危機感も感じずにヘラヘラと微笑していた。負傷者も運び込まれているというのに何故こんなに気楽でいられるんだ。
「リトゥさんならすぐ隣ですよ」
「……わざわざ教えてくれなくても知っている」
得意げな顔を睨んでおき、教えてくれたとおり隣の部屋に移った。ベッドにリトゥがいるし、途中離れたカイセイも待機していた。それでカイセイには「遅かったですね」などと言われる。
さぞ沈んでいるのかと思いきや全員そうでも無いようだ。後からふらふらとエーデンもやってきて、あまり揃うことのない珍しいメンバーにどう声を掛けようか迷った
「エセルから事は聞いた。ネザリアとの関係も使命も知っている。それを踏まえてリトゥからの話も聞きたい」
皆に聞こえるように告げたが、これはリトゥに向けての言葉だ。しかしリトゥは少しも動いたりせず聞こえている反応すらしなかった。彼女は誰にも顔を向けること無く、じっと前を見ているだけである。俺の下には謙りたく無いという意思をここでも示しているのだろうか。
今度はちゃんとリトゥに向けて告げる。
「お前に話す気が無いのなら、俺はエセルをネザリアに帰すつもりだ。命の危険を承知で傍に置いておけるわけがないからな。俺の使命はあいつと良好な関係を築くだけに終わらない。俺には他に守らなければならないものが沢山あるのだ」
「……」
このような脅しでは動かんか。ではリトゥに最後のチャンスを与えることにする。カイセイとエーデンが黙って見守る中、次は肩の力を抜いて平然のように言う。
「まあ。出会って数日の姫に特別な思い入れも無いし、あっちの国であいつが殺されようが、良いように使われようが俺には関係の無いことだしな」
これでせいせいする。と言ったところで、リトゥが口を開いた。「この外道」と。それを聞いて一歩踏み込むカイセイを俺は片手で制する。俺に楯突いてくるのは良いが、側近を怒らせるのは勘弁してもらいたい。これでも俺はリトゥに敵視を向けていないのだから。
やっとリトゥが取り合ってくれそうであるし、俺はリトゥの足元にどっこらしょと座る。簡易的なベッドがギイギイ言った。
「……そう。そんな外道な俺でも、お前やエセルより力はあるはずだ」
「えっ」
独り言のつもりで呟いていたがリトゥが反応した。俺がニヤけ顔を上げると、エーデンとカイセイも少し口元を緩ませていた。どうやら皆の意見は一致したようだな。あとは目を真ん丸にしているリトゥの気持ちだけだ。
「だから話せ。俺はあいつを手放したくない。きっと助けられる手段を見つけてやる」
リトゥは静かに頷いた。
「……父から命を受けておりました。結婚相手の王子を殺せと。それが出来たならお前はネザリアの血を継ぐ者になれると、そのように言われて私は国を渡って来たのです。でも完遂できなければ死ぬのは私なんです。父は必ず私を見つけて殺すでしょう。母も父に殺されましたし、あとは私が居なくなればあの方を止める人間が居なくなる」
王を止める人間?
「私や母は民間で集まり訴訟を起こしていました。戦争を続け苦しくなる市民を一切見ようとしないカイリュ王に、反対の意識を向けていたんです。そんな時に私の消息不明の父が、実はその王であることが判明。それでも絶望をチャンスと捉えて”いつか”を待っていました」
しかし結婚が決まる、と。
「こちらに来てからもずっと悩んでいます。今もどうすれば良いのか分かりません。あなたを殺せば私はカイリュ王の傍でまた”いつか”を待てる。でも私はあなたを殺したくなんか無い。私が殺したいのはネザリア・カイリュだけなのに……!」
彼女の目からぽろぽろ溢れる涙を受け止められず、ただ落ちていくのを見ているだけとは俺はなんて情けないんだろうな。そっと抱きしめてやらなくても、エセルは自分の足でちゃんと立てているのに、俺の方が倒れてしまいそうだ。
「リトゥもグルなのか?」
「私の思いは話してあります。でもリトゥは私が半庶民であることは知りません。あの国で私は長い期間床に伏していたとされていますので、リトゥはいつも私の体を心配してくれているのです」
なるほど、それであのように過保護なのだなと思う。俺は困り果てて鼻を鳴らした。
ずっと遠くの海の端を眺めている。空気も読まずにのどかな風景だ。波の音が繰り返されるが、隣で聞こえる鼻のすする音の方に知らず耳が傾いてしまう。
まさか本当にこの混じり気の無い娘から、殺すだの殺したくないだのを聞くとは思わなかった。いや一度二度は思ったかもしれないが、どこかで実現しないだろうと高を括っていたのだ。過信し過ぎたな俺も。こんなもの運が良くてで命拾いしたに過ぎない。
彼女の迷いはよく分かった。置かれている状況が深刻であることも重要だ。だが俺はこの国の王子として安易に殺されるわけにはいかないのだ。俺がいくら彼女のことを好いていたとしても、そんなのは許されることじゃない。
聞いたことを整理し天秤にかけていたが、俺はもう一つ聞かなくてはいけないことがあったと思い出した。服の上からそっとポケットに触れる。
「あと、あれはどういう意味だ。”生きる”とは何か決心でも付いたのか?」
「……あれは」
エセルが言い出した時、背後から俺の名を呼ぶ声が聞こえてきた。振り返って見ると追いかけてきたカイセイが走ってきている。カイセイはエセルがいることが遠目で確認できたようで安堵の表情を見せた。
「ご無事でしたか。よかったです」
だが、こちらに来るにつれ重い空気を感じ取ると、途端に真面目な顔に戻った。
「バル様。一旦城に戻りましょう。まだここに何者か潜んでいるやもしれません」
「ああ、そうだな。行くぞエセル」
カイセイが翻し俺も後に続こうとした。しかしエセルはそこに留まったままで動こうとせず、城に戻るのを躊躇っている様子であった。もし彼女が意図せず港に連れられたのであればこうはならない。
振り返り静かに言う。
「お前も来るんだ」
「でも……」
「お前は俺の妻だろう。城に戻るぞ」
エセルが渋々付いて来る。すぐそこに見えている馬の位置まで、ずいぶん長い距離のように思える道のりであった。傍でエセルの息を感じながら足早に向かっている。
一応辺りに注意をしていたつもりであった。だがエセルがちゃんと付いてきているかも気がかりで、ふと横の雑木林の茂みに目を向けた時には、そこで弓を構えた人物が潜んでいたのに気付くのが遅れた。
「打つな!」
矢は放たれたが命中しなかった。俺の腹辺りを真横に抜けて鋭い音が背中で鳴った。狙撃手は次の矢を取ろうとせず、口を開けたままで怯えているように見える。俺はその人物から目を離さずにカイセイの名を呼んだ。すると、俺の肩には重いものがもたれかかってくる。
「うう……」
エセルだ。かろうじて俺の腕を掴んでいたが、すぐにずりずりと足から崩れていくのである。呼びかけると共にその背に受けた矢が見えた。ここで見たばかりの繊細な矢であった。
「バル様!」
「カイセイ、エセルを頼む。毒入かもしれん、早く!」
意識が昏倒しているエセルをカイセイに託し、俺はその茂みでガタガタ震える者の元へ向かった。そこにいた男はその場から逃げ出そうとするが、足が動かないのか土を手で掻いて逃れようとする。俺が男のところへ着くと、泡ぶくを吹きながら首を振っている。
「俺じゃない! 俺じゃない!!」
護身用の剣を抜き取り男の首に突きつけると、さらに同じことを何度も連呼した。
「誰の指示だ」
「ち、ちがう! 外したんだ! 俺はエセル様を打ったんじゃない!」
この場に及んで妙なことを言い出す。男のことを睨みつつ、ちらっと抱きかかえている弓矢を見た。接ぎ木で作られたボロい弓矢であった。
「お前が嘘を付いていないのであれば、狙ったのは俺だと言うことか」
男は指先まで震わせるだけで答えなかった。というよりも、答えられない風に状態が変わっていった。自身の過失に震え上がっていると思われたが、次第に病状的な震えに移っていく。そのうちに男はひとりで苦しみ、やがて血色の涎を吐きながらピタリと動かなくなった。
青白くなった男の矢筒を覗いて弓矢を一本取り上げた。見るからに歪んだ安い矢であった。もしかしたら自分で作ったのかもしれない。考えを巡らせていると駆けてくる足音が近付く。
「エセル様は城へ運ばせました。私達も戻りましょう」
カイセイが鎧を付けた馬を連れて来た。
「この男は」
「さっき自分で死んだ。見覚えあるか?」
カイセイは角度を変えながら確認し、分からない。と言う。
「例の乗組員だったかもしれませんが顔までは……」
「そうか。仕方ないな」
馬に乗りながら、さっきの男が外した矢を目で探していた。それはかなり離れた場所の地面に突き刺さっており、木枝のようにポッキリ根本から折れていた。あの死んだ男が俺のことを狙い、それとは違う何者かがエセルを狙っていたのは確定だ。
そしてエセルが言う通り、ネザリア王が娘を殺そうとしているのであれば、敵はネザリアから送り込まれたのだと推測できる。よりによってお家騒動を他国に持ち込ませてくるとは、ネザリア国王は随分とイカレている。
* * *
機嫌が直らんまま医務室に来た。怪我人を治療したり休ませたりする部屋であるが、どうしてこんなに部屋数が多いし家具も似たものばかりで勝手がまるで分からん。
換気の為なのか扉が取り除かれた空間に足を踏み入れて、ここじゃない。ここでもない。と、リトゥやエーデンがいると思われる部屋を探している。
「こんな部屋で何か用事ですかな?」
ひんやりとする無音の部屋で、突如声がして俺は肩を震わせた。廊下からエーデンが覗いてニヤニヤしている。こうして白衣を身につけているとしゃんとした風に見えそうであるが、エーデンの場合は一層幽霊に近づいた気がする。
「驚かさないでくれ。心臓が止まったらどうするのだ。休める状況では無いのだぞ」
エーデンはまるで危機感も感じずにヘラヘラと微笑していた。負傷者も運び込まれているというのに何故こんなに気楽でいられるんだ。
「リトゥさんならすぐ隣ですよ」
「……わざわざ教えてくれなくても知っている」
得意げな顔を睨んでおき、教えてくれたとおり隣の部屋に移った。ベッドにリトゥがいるし、途中離れたカイセイも待機していた。それでカイセイには「遅かったですね」などと言われる。
さぞ沈んでいるのかと思いきや全員そうでも無いようだ。後からふらふらとエーデンもやってきて、あまり揃うことのない珍しいメンバーにどう声を掛けようか迷った
「エセルから事は聞いた。ネザリアとの関係も使命も知っている。それを踏まえてリトゥからの話も聞きたい」
皆に聞こえるように告げたが、これはリトゥに向けての言葉だ。しかしリトゥは少しも動いたりせず聞こえている反応すらしなかった。彼女は誰にも顔を向けること無く、じっと前を見ているだけである。俺の下には謙りたく無いという意思をここでも示しているのだろうか。
今度はちゃんとリトゥに向けて告げる。
「お前に話す気が無いのなら、俺はエセルをネザリアに帰すつもりだ。命の危険を承知で傍に置いておけるわけがないからな。俺の使命はあいつと良好な関係を築くだけに終わらない。俺には他に守らなければならないものが沢山あるのだ」
「……」
このような脅しでは動かんか。ではリトゥに最後のチャンスを与えることにする。カイセイとエーデンが黙って見守る中、次は肩の力を抜いて平然のように言う。
「まあ。出会って数日の姫に特別な思い入れも無いし、あっちの国であいつが殺されようが、良いように使われようが俺には関係の無いことだしな」
これでせいせいする。と言ったところで、リトゥが口を開いた。「この外道」と。それを聞いて一歩踏み込むカイセイを俺は片手で制する。俺に楯突いてくるのは良いが、側近を怒らせるのは勘弁してもらいたい。これでも俺はリトゥに敵視を向けていないのだから。
やっとリトゥが取り合ってくれそうであるし、俺はリトゥの足元にどっこらしょと座る。簡易的なベッドがギイギイ言った。
「……そう。そんな外道な俺でも、お前やエセルより力はあるはずだ」
「えっ」
独り言のつもりで呟いていたがリトゥが反応した。俺がニヤけ顔を上げると、エーデンとカイセイも少し口元を緩ませていた。どうやら皆の意見は一致したようだな。あとは目を真ん丸にしているリトゥの気持ちだけだ。
「だから話せ。俺はあいつを手放したくない。きっと助けられる手段を見つけてやる」
リトゥは静かに頷いた。
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