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十二話

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「ねぇあなた、悪いのだけれど逆月と二人っきりで話したいことがあるからしばらくの間家から出ててもらえないかしら?」

特にすることもなく時間を持て余していた俺に三日月が思い立ったように言った。

「え?ああ、まぁいいですけど。」

俺を追い出して話すような事なのだから、俺に聞かれてはまずいことなのだろう。それか三日月の過去のトラウマの話でもするのか?

どちらにしてもなんのことを話すのかを尋ねるのは野暮だろう思った俺は腰を上げて部屋から出ようとした。

「ごめんなさいね。これ、ほんのお詫びの気持ちよ。」

三日月は俺に封筒を差し出した来た。中を確認してみると一万円札が5枚ほど入っていた。

「これで遊んできて頂戴。」

「いやいや、こんなもの受け取れないよ。ただでさえ三日月さんにお世話になっているのに…」

俺はその封筒を三日月に返した。

というのも、実際俺は会社に勤めていた時には自由に使える時間がなく、給料の多くは貯金に回していたし、学生時代の貯金も合わさって数か月程度なら生活できるくらいの貯金があるのでお金には困っていない。

「遠慮しなくていいのよ。私はお金が有り余っているし、使いどころもないからあなたが使ってくれた方が助かるわ。それに私はあなたの大切な血液をもらっているし、それのお礼とも思って受け取ってくれないかしら?」

これ以上引き下がっても面倒だと思ったので俺はそのお金を受け取ることにした。

「夕方には帰ってくる。何かあったら連絡してくれ。」

「わかったわ。申し訳ないわね。」



______________________________________




「ねぇお姉ちゃん、お兄さんに外出してもらってまで私に話したいことって何かな?」

「それはね、逆月、あなた私をあの家に連れ戻すためにここに来たのでしょう?言っておくけど私は、あの家に戻るつもりは微塵もないわ。ましてやツェペシュ家の当主なんかには絶対になるつもりはないわ。お母様にはそう伝えておいてくれるかしら?」

「そうなんだ、じゃあお姉ちゃん、私がここでお姉ちゃんを無理やりあの家に連れて帰るって言ったらどうするつもりなの?」

「そうね、それでも帰るつもりはないわ。あなたに負けたのなら私は潔く死ぬわね。」

「お姉ちゃんは頑固だね。」

逆月はくすっと笑った。

「でもね、安心してねお姉ちゃん。私はお姉ちゃんを連れ戻しに来たわけじゃないの。」

「え?どういう事かしら?」

「お姉ちゃんの反応が面白かったからついからかっちゃった。ごめんね。」

逆月はイタズラっぽい表情をした。

「あまり私をなめないほうがいいわよ。」

三日月がムッとした表情になった。

「本当はね、お姉ちゃんとお話がしたかったの。昔はお母様にお姉ちゃんを連れ戻して来いって言われて探していたけど、最近はお姉ちゃんは今どうしているんだろう、会いたいなぁと思って探してたの。それでお姉ちゃんに教えてあげたいことが見つかったから。」

「お母様のことじゃないとなると全く見当がつかないわ。何かしら?」

「それはね、人間のことなの。私たちは昔屋敷で働いている召使のことくらいしか人間のことを知らなかったから、人間なんて所詮は食糧や労働力で取り換えの効くものと思っていたけど、実際はそんなことはなかったの。人間の世界に出てみると、人間たちは独自の世界を持っているし、個々の力は私たちに遠く及ばないけれど、人間たちは私たちと違って団結することができる。それに人間たちは私たちと違って他を思いやることができる。私たちは家の権力争いばっかり。私、人間が羨ましいな。」

逆月は少し悲しそうな表情をした。

「ねぇお姉ちゃん、お姉ちゃんの話も聞かせてくれないかな?」



「私はあれからあまり他とは関わらないようにして生きてきた。人間たちに私の正体を知られたりしたらどんな目に合うかもわからないし、それに、ツェペシュ家の関係者に居場所を知られたりしたら、今度は逃げられないだろうし、私はあの家の都合のいいように意識を改造されてしまうかもしれない。そんな恐怖から私はこそこそと暮していたわ。でも最近私はたまたま彼の血液の匂いを嗅いで我慢ができなくなってしまった。普段は輸血パックで飢えを防いでいて、自分の痕跡を残さないようにしていたけどね。彼の血液の匂いは私の体が本能から求めているといった感じでこれまでに一度も味わったことがない不思議な感覚だったわ。そして私は気づいたら彼に声を掛けて、襲い掛かっていた。そして彼の血液は私のすべてを満たしていくようなそんな感じよ。それから私は彼のことしか考えられなくなってしまった。それで彼の後をこっそりとずっとずっとストーキングしたりしてたわ。彼は会社でひどい扱いを受けている、彼は毎日2から3時まで仕事をして朝早くから会社に行っている、調べれば調べるほど彼が可哀そうに思えてきた、いや彼のことを保護したくなってきたの。だから彼を会社から連れ去ってここに連れてきた。今思えば私は彼のことを気遣うっていうっていうのは建前で本当は私だけが彼を求めるのは不安だから彼を私に依存させようとしてたんだと思う。今私は彼のことを誰にも渡したくないし、独占したい、もっと言えば閉じ込めてしまいたいとも思っているわ。私はこういう吸血鬼なのよ…自分で自分が嫌になるわ。」

三日月は自嘲気味に笑った。

「このことは彼には言わないでくれるかしら?」



「お姉ちゃん、変わったね…」
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