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一話

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「ねぇそこのお兄さん、そうそこの君よ。」

深夜二時ごろ残業帰りの俺に何者から声を掛けられた。振り向くとそこには俺より少し若いくらいで二十歳くらいの美しい女性がいた。俺はこんな時間に若い女性が出歩いていることに不思議に思いながら彼女に反応した。

「私に何か用でしょうか?」

「うん、私ね、おなかすいちゃった。」

彼女は妖艶な笑みを浮かべながら言った。

(は?何が言いたいのか全く分からない。腹が減ってることを俺に言ってどうするつもりだろう?何かたかっているのか?それともコンビニの場所でも聞きたいのだろうか?)

「コンビニならそこの角を右に曲がってまっすぐ行くとありますよ。」

そういってその場から去ろうとすると、彼女は俺の手首をつかんで引き留めた。

「な、何するんですか?」

「コンビニの食事はあんまりおいしくないよね?」

「でも今の時間じゃこの辺のレストランは閉まっていますよ。」

「そんなものよりずっとおいしそうなものがあるじゃない。私の目の前に。」

彼女はにやりと嗤うと顔をグイっと近づけてきた。

俺は恐怖を感じて逃げ出そうとしたが、手を握られて逃げることができない。

「フフッ今更逃げようとしても遅いのよ。まあ初めに話しかけられたときに逃げても逃がさないけどね。それじゃあいただきまーす♪」

彼女は俺の首筋目掛けて噛みついた。俺の全身に鋭い痛みが走った。

「ううっ!」

俺はその痛みに歯を食いしばって耐えていると、すぐに痛みは退いていった。そしてその代わりにものすごい快感に襲われた。そしてその快感によって頭がクラっとしてきて立つのが辛くなってきたころになって彼女がやっと俺の首筋から離れた。

「君の血、思った通りとってもおいしかったよ。ごちそうさまでした♪」

「思った通り?俺はあなたに会ったのは初めてだと思いますけど…」

「確かにあなたと会ったのは初めてよ。」

「じゃあなんで俺の血がおいしいって知ってたんですか?」

彼女はふっと笑って言った。

「吸血鬼族はねぇ嗅覚が人間の比じゃないほど鋭いのよ。それとさぁ君、吸血されているとき、ものすごく気持ちよかったでしょ?」

「……」

俺は恥ずかしかったので何も言わなかった。

「あれ?君だんまりはよくないよぉ。君が答えないなら君の体に直接聞いてみようかなぁ?カプッ。」

今度は皮膚のかなり浅めのところに噛みつかれたようであまり痛みはなく、すぐに先ほどのような快感が俺の中を伝わった。

「んんっ!ぅう…」

思わず声を漏らしてしまった。

「ほら、やっぱり気持ちいいんでしょ?分かってるよ。正直に言ってごらん?」

「は、はい、気持ちよかったです。」

「そう、それはよかった。それでこれからもあなたの血を頂きに来てもいいかしら?」

吸血鬼の彼女は小悪魔的な笑みを浮かべて言った。

「いや、それはちょっと…」

「何?不満なの?あんなに気持ちよさそうに吸血されていたのに。」

吸血鬼の彼女は唇についた俺の血をペロッと魅惑的になめてから言った。

「俺もいつも同じ時間に仕事がおわるとは限らないし、それに血を吸われ続けたらただでさえクタクタなのに貧血にもなってしまう。」

「それについては安心してくれても大丈夫よ。吸血鬼は人間の生活に支障が出るほど吸血したりはしないわ。まぁ、人間を怖がらせるためにわざと必要以上に吸ったりする吸血鬼や、人間の血をすべて吸い尽くすことを生きがいにしている吸血鬼はいるけど、少なくとも私はそうじゃないから安心してくれていいわよ。」

「それに…」

吸血鬼の彼女は口を俺の耳元に近づけて息を吹きかけるように言った。

「あなたも気持ちよくなれるんだからいいじゃない?あなたみたいにさえない社畜はどうせ人間の女の子とそういうこと、したことないでしょ?私とそういう関係になってみない?」

吸血鬼の彼女はそういうと俺の耳をペロッと舐めた。俺はそれに対してゾクッと肩を震わせた。

「どうなってみない?」

「分かったよ!なればいいんだろう!」

俺は吸血鬼の彼女と関係を持ちたいと思ったことを悟られないように強い口調で言った。

「それはよかったわ。これからもごちそうになるわね。」

吸血鬼の彼女は俺の気持ちに気づいたのか気づかずにかそういって夜の闇に消えていった。

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