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やっと会えたね。
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二人の結婚から、数年の月日が経った。
利樹はいつまで経っても、まどかに夢中で、嫁離れ出来ない男と友人達からバカにされていた。
「そんな事では子供が生まれたら大変だぞ、女は子供が出来たら、女じゃ無くなるんだから」よくこういう事を言われるが、それなら子供なんか要らないと利樹は、ずっと思っていた。
しかし、ついにその日はやって来てしまったのだった。
産婆さんの家の廊下を、利樹は行ったり来たりウロウロしている。時折、床に座ったりするが、居心地が悪いようで、立ち上がり、またウロウロ……、これを繰り返している。
「あー、鬱陶しい!こういう時は、男はなにも出来ないんだから、どしっと構えておくものよ!」利樹の母は、彼をたしなめるように言った。
「う、ううう」襖の向こうで、まどかの息む声が聞こえる。その声を聞いて利樹は更に不安になったようだ。
「なあ、母さん、長すぎないか……、なんかあったんじゃ……、まどか、大丈夫かなぁ……」半べそを書いたような顔で母を見る利樹。母は、情けない男だと自分の息子に幻滅する思いであった。
「お前ねぇ、大変なのはまどかちゃんなんだから、生まれてくる子供とまどかちゃんを大黒柱として、どっしりして待ってやりなさい」
「でもなぁ……まどかぁ……」こんなことで、この子は本当に父親になれるのかと母は少し心配になってきた。
「おぎゃー」
突然、赤ん坊の声が屋敷の中を響きわたる。元気で健康そうな泣き声。
「やったー!う、生まれたー!」利樹は両腕を振り上げて絶唱した。結構年齢のいった、産婆さんがゆっくりと障子を開ける。
「生まれたよ、元気な男の子だよ」彼女が言い終わるより先に、利樹は部屋に飛び込んだ。
「ま、まどか!大丈夫か!?」利樹にとっては、赤ん坊よりもまどかの事が心配のようだった。
十月十日、自分のお腹の中で子を育てる母親と、生まれてから父親の自覚が芽生えてくる男との違いであろう。
まどかは、赤ん坊を胸に抱き天使の微笑みを浮かべている。
「か、可愛いいなぁ~、よく頑張ったなぁ~」利樹の視線は、まどかの顔に注がれているようだった。
「パパが可愛いだって」まどかは、赤ん坊の頬にそっとキスをした。
まだ赤ん坊に少し、嫉妬を感じる利樹。その様子を後ろから見ている母親は、呆れてため息をついていた。
「そ、そうだ、名前、名前はどうするかな!男らしい名前がいいかな……、大五郎とか!」こういうセンスは全くない男だった。
「名前はね、私、前から決めていたの……」まどかは、人差し指を赤ん坊の手に重ねる。 赤ん坊は、その指を精一杯の力で握りしめた。
「ムツキ……、睦樹くん……」まどかは噛みしめるようにその名前を口にした。
「ムツキ、ムツキか……、コンドウムツキ……、虐められるんじゃないか……その名前……」利樹はなんだか納得しかねる顔でまどかを見た。
「大丈夫よ。この子はね、本当に強い子なんだから……」なんだか、赤ん坊がニヤリと微笑んだような気がした。
「そっ、そうか……、まどかが、そう言うなら……、そうだな!近藤睦樹!いい名前だ!」利樹は、自分を納得させるように何度も、睦樹の名前を連呼した。
その、様子をまどかは優しい瞳で見つめていた。
「ずっと一緒だよ。今度は私がちゃんと、貴方を守ってあげるからね」
そして、赤ん坊に向かって微笑みながら呟いた。
「やっと会えたね……、睦樹さん」
外は、二人が出会ったあの日と同じように雨が降っていた。
終わり
利樹はいつまで経っても、まどかに夢中で、嫁離れ出来ない男と友人達からバカにされていた。
「そんな事では子供が生まれたら大変だぞ、女は子供が出来たら、女じゃ無くなるんだから」よくこういう事を言われるが、それなら子供なんか要らないと利樹は、ずっと思っていた。
しかし、ついにその日はやって来てしまったのだった。
産婆さんの家の廊下を、利樹は行ったり来たりウロウロしている。時折、床に座ったりするが、居心地が悪いようで、立ち上がり、またウロウロ……、これを繰り返している。
「あー、鬱陶しい!こういう時は、男はなにも出来ないんだから、どしっと構えておくものよ!」利樹の母は、彼をたしなめるように言った。
「う、ううう」襖の向こうで、まどかの息む声が聞こえる。その声を聞いて利樹は更に不安になったようだ。
「なあ、母さん、長すぎないか……、なんかあったんじゃ……、まどか、大丈夫かなぁ……」半べそを書いたような顔で母を見る利樹。母は、情けない男だと自分の息子に幻滅する思いであった。
「お前ねぇ、大変なのはまどかちゃんなんだから、生まれてくる子供とまどかちゃんを大黒柱として、どっしりして待ってやりなさい」
「でもなぁ……まどかぁ……」こんなことで、この子は本当に父親になれるのかと母は少し心配になってきた。
「おぎゃー」
突然、赤ん坊の声が屋敷の中を響きわたる。元気で健康そうな泣き声。
「やったー!う、生まれたー!」利樹は両腕を振り上げて絶唱した。結構年齢のいった、産婆さんがゆっくりと障子を開ける。
「生まれたよ、元気な男の子だよ」彼女が言い終わるより先に、利樹は部屋に飛び込んだ。
「ま、まどか!大丈夫か!?」利樹にとっては、赤ん坊よりもまどかの事が心配のようだった。
十月十日、自分のお腹の中で子を育てる母親と、生まれてから父親の自覚が芽生えてくる男との違いであろう。
まどかは、赤ん坊を胸に抱き天使の微笑みを浮かべている。
「か、可愛いいなぁ~、よく頑張ったなぁ~」利樹の視線は、まどかの顔に注がれているようだった。
「パパが可愛いだって」まどかは、赤ん坊の頬にそっとキスをした。
まだ赤ん坊に少し、嫉妬を感じる利樹。その様子を後ろから見ている母親は、呆れてため息をついていた。
「そ、そうだ、名前、名前はどうするかな!男らしい名前がいいかな……、大五郎とか!」こういうセンスは全くない男だった。
「名前はね、私、前から決めていたの……」まどかは、人差し指を赤ん坊の手に重ねる。 赤ん坊は、その指を精一杯の力で握りしめた。
「ムツキ……、睦樹くん……」まどかは噛みしめるようにその名前を口にした。
「ムツキ、ムツキか……、コンドウムツキ……、虐められるんじゃないか……その名前……」利樹はなんだか納得しかねる顔でまどかを見た。
「大丈夫よ。この子はね、本当に強い子なんだから……」なんだか、赤ん坊がニヤリと微笑んだような気がした。
「そっ、そうか……、まどかが、そう言うなら……、そうだな!近藤睦樹!いい名前だ!」利樹は、自分を納得させるように何度も、睦樹の名前を連呼した。
その、様子をまどかは優しい瞳で見つめていた。
「ずっと一緒だよ。今度は私がちゃんと、貴方を守ってあげるからね」
そして、赤ん坊に向かって微笑みながら呟いた。
「やっと会えたね……、睦樹さん」
外は、二人が出会ったあの日と同じように雨が降っていた。
終わり
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