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ミニカに乗って……。
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近藤《こんどう》利樹《としき》は、太陽の光が照りつける川の土手を買ったばかりの愛車「三菱 ミニカ」に乗って1人ドライブしていた。
本日、彼の仕事は休みである。
雲ひとつ無い空に、気分は晴れやかだった。
ただ、ひとつ残念なことは、この愛車ミニカの助手席に座らせる女性はまだいない。
真新しいシートを、利樹は愛しそうに触った。
真新しいヘッドレスには新車であることを意味する透明なビニールがついたままであった。
上下水道の配管工事を仕事としている利樹にとって、工具・配管を常備する為の自動車は必須だ。
しかし、勤めている会社は従業員用に高価な車など支給してはくれない。
利樹は少ない給料をやりくりして、この白い三菱ミニカを購入した。
このミニカの中も、そのうち仕事の道具で、一杯になるのであろう。
彼の周りでも、二十歳そこそこで自動車を所有しているものは珍しい。
日産のスカイラインに憧れたが、値段に手が届かないのと、車体が仕事向きでは無いことで断念した。それでも、あまり人に誇れる物の無い利樹にとって、それは唯一の自慢だった。
しかし暑い、暑すぎる。このミニカの中は灼熱地獄といってもおかしくないくらいの温度であった。
「ああ、もう死にそう……」言いながら、ミニカのブレーキを軽く踏み減速し、川の土手にある駐車スペースに停まった。ドアに設置されているノブをクルクル回す。それに連動して、窓ガラスがゆっくりと開いていく。
「おっ、窓を開けると結構いい風が吹いてるんだな」ミニカの窓から身を乗り出して、土手を吹く風を感じながら、首からかけていたタオルで、額の汗を拭った。少しだけミニカの車内の気温も落ち着いたようだ。
「ん?なんだ」利樹は、小指で鼻の穴をほじりながら、川のほとりに目を移す。
岸のすぐそばに人が倒れているように見えた。くそ暑くて川で水遊びでもしているのかと一瞬思ったが、どうやらそうではないらしい。人がうつ伏せになって倒れているようだった。身動きをする様子はない。
利樹は、慌ててミニカから飛び降りると、土手をかけ降りて川のほとりに近づいていった。
白い上下のワンピースを着た女が、うつ伏せの状態で倒れている。
「だ、大丈夫ですか!?」声をかけるが反応がない。少し衣服は濡れているようだが溺れたという感じではなかった。
「まさか死んでるのか?」警察に知らせる事も考えたが、このままこの場所を放置してもいいものかと躊躇する。
「う、ううん」唐突に女から、うめきのような声が聞こえる。
「い、生きている!」利樹は倒れている女の身体を仰向けにして、頭の後ろに手を回し、意識を確認する。
「お、重い!」力が抜けた人の体はその体重以上に重く感じる。
胸元に視線を送り、その膨らみに一瞬恥ずかしがるが、そんな場合ではないと気を取り直し、呼吸をしているか確認する意味で優しく手を触れる。
胸の辺りがゆっくり上下した。確かに息をしている。
生きている事を確認し安堵すると同時に利樹はその女の顔に釘付けになった。
「なんて、綺麗なんだ……」まさにそれは一目惚れだった。
利樹は、持っていたタオルを川の水に浸し、強く絞ってから女の顔についた汚れをかるく拭き取ってから額にのせてあげた。少しだけ楽になったのか彼女がフーっとため息をついた。その甘い吐息に利樹は驚く。
このまま、この場所にいては、日差しの厳しさが体に悪いだろうと思い、意識の戻りそうのない女の身体を両腕で持ち上げると、ひとまずミニカの後部座席にゆっくりと寝かせた。
ミニカに初めて女性を乗せたと少しテンションが上がる。そんな場合ではないと、利樹は頭を左右に振った。
よく見ると、女の体には細かい傷、ケガがあるようなのでバイ菌が入る恐れがあると判断し、治療をする為に家に連れて帰った。
本日、彼の仕事は休みである。
雲ひとつ無い空に、気分は晴れやかだった。
ただ、ひとつ残念なことは、この愛車ミニカの助手席に座らせる女性はまだいない。
真新しいシートを、利樹は愛しそうに触った。
真新しいヘッドレスには新車であることを意味する透明なビニールがついたままであった。
上下水道の配管工事を仕事としている利樹にとって、工具・配管を常備する為の自動車は必須だ。
しかし、勤めている会社は従業員用に高価な車など支給してはくれない。
利樹は少ない給料をやりくりして、この白い三菱ミニカを購入した。
このミニカの中も、そのうち仕事の道具で、一杯になるのであろう。
彼の周りでも、二十歳そこそこで自動車を所有しているものは珍しい。
日産のスカイラインに憧れたが、値段に手が届かないのと、車体が仕事向きでは無いことで断念した。それでも、あまり人に誇れる物の無い利樹にとって、それは唯一の自慢だった。
しかし暑い、暑すぎる。このミニカの中は灼熱地獄といってもおかしくないくらいの温度であった。
「ああ、もう死にそう……」言いながら、ミニカのブレーキを軽く踏み減速し、川の土手にある駐車スペースに停まった。ドアに設置されているノブをクルクル回す。それに連動して、窓ガラスがゆっくりと開いていく。
「おっ、窓を開けると結構いい風が吹いてるんだな」ミニカの窓から身を乗り出して、土手を吹く風を感じながら、首からかけていたタオルで、額の汗を拭った。少しだけミニカの車内の気温も落ち着いたようだ。
「ん?なんだ」利樹は、小指で鼻の穴をほじりながら、川のほとりに目を移す。
岸のすぐそばに人が倒れているように見えた。くそ暑くて川で水遊びでもしているのかと一瞬思ったが、どうやらそうではないらしい。人がうつ伏せになって倒れているようだった。身動きをする様子はない。
利樹は、慌ててミニカから飛び降りると、土手をかけ降りて川のほとりに近づいていった。
白い上下のワンピースを着た女が、うつ伏せの状態で倒れている。
「だ、大丈夫ですか!?」声をかけるが反応がない。少し衣服は濡れているようだが溺れたという感じではなかった。
「まさか死んでるのか?」警察に知らせる事も考えたが、このままこの場所を放置してもいいものかと躊躇する。
「う、ううん」唐突に女から、うめきのような声が聞こえる。
「い、生きている!」利樹は倒れている女の身体を仰向けにして、頭の後ろに手を回し、意識を確認する。
「お、重い!」力が抜けた人の体はその体重以上に重く感じる。
胸元に視線を送り、その膨らみに一瞬恥ずかしがるが、そんな場合ではないと気を取り直し、呼吸をしているか確認する意味で優しく手を触れる。
胸の辺りがゆっくり上下した。確かに息をしている。
生きている事を確認し安堵すると同時に利樹はその女の顔に釘付けになった。
「なんて、綺麗なんだ……」まさにそれは一目惚れだった。
利樹は、持っていたタオルを川の水に浸し、強く絞ってから女の顔についた汚れをかるく拭き取ってから額にのせてあげた。少しだけ楽になったのか彼女がフーっとため息をついた。その甘い吐息に利樹は驚く。
このまま、この場所にいては、日差しの厳しさが体に悪いだろうと思い、意識の戻りそうのない女の身体を両腕で持ち上げると、ひとまずミニカの後部座席にゆっくりと寝かせた。
ミニカに初めて女性を乗せたと少しテンションが上がる。そんな場合ではないと、利樹は頭を左右に振った。
よく見ると、女の体には細かい傷、ケガがあるようなのでバイ菌が入る恐れがあると判断し、治療をする為に家に連れて帰った。
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