君と会う日はいつもの雨。雨の日に巻き起こる不思議な出会い。時を越えてあなたに会いに行きます。『晴れの日、あなたに会いたい……。』

上条 樹

文字の大きさ
32 / 40

日 記

しおりを挟む
 あの出来事から、ほぼ一年の月日が流れた。

 また、あの頃のように、暑い夏がやって来た。

 あれからも雨が降ると、まどかは無性に睦樹に会いたくなる。彼女は、あの出来事を忘れられずにいた。

 いや、彼女は一生忘れる事の出来ないであろう、もはや呪縛となっていると言ってもいいだろう。

 あの日からずっと、雨が降る度に、あの公園に足を運んでしまう。会える筈の無い睦樹の面影を探しながら……。

「まーどか」聞き慣れた声が呼ぶ。その声の主を探すと、背後に傘をさした昌子が立っていた。

「昌子ちゃんか……」まどかは酷くガッカリしたような表情を浮かべ、肩をガックリと落とした。

「昌子ちゃんかぁ……って、あー、失礼しちゃうな!もしかして、近藤先輩だと思った!?」

「……」まどかにとって、まだ疑心暗鬼な部分もあるのだが、事件後、昌子から聞いた話によると、彼女は、交通事故に巻き込まれた事が原因で、タイム・リープを経験してこの時代にやって来たということだ。

 そして、前に暮らしていた時代では、睦樹と恋人同士だったと告げられた。

 突拍子の無い話しではあったが、彼女の話は全て事実に基づいたものであった。昔、事故で亡くなったという睦樹の彼女『篠原昌子』の話。

 彼の生い立ちの話、まどかの知らない彼の事をたくさん知る昌子に少し嫉妬すら覚えた。

「昌子ちゃん……」まどかは悲しそうな瞳で昌子の顔を見た。その目を見て昌子は悟ったよう語りだした。

「まどか、悲しいだろうけど、これは運命なんだよ。あなたと先輩は本来出会うはずの無い運命だったの。交わる事が許されない……、それは、私も同じなんだよ……」まるで人生を悟りきったような口調が、とても女子高生とは思えない。

 時間が人を育てるのではなく、経験を通して人格は成長していくものなのだ。

 昌子はまどかの頭を優しくなでた。その優しさにまどかは大粒の涙を流した。

「泣いたら負けじゃなかったっけ?」その涙に誘われるかのように昌子もうっすらと涙を浮かべた。

「私はもう、負けてるよ」そういうと、まどかは大きな声を出してワンワンと泣き出した。

 まどかが、家に帰ると母は、リビングの机の上に腕組みをし、頭を乗せて眠っている。
その傍らには、空のビール缶が数本散らばっている。一年前のあの出来事から、母はアルコールに逃げ込んでいるようだった。

 その姿を蔑むような目で見ながら、まどかは階段を上り自分の部屋へ逃げ込むように入った。

 あの後、まどかは昌子の記憶を頼りに、睦樹の関係者を探し彼の叔父が近くに今も暮らしていることをつきとめた。

 そして、睦樹の叔父さんを訪ねる機会を得た。

 叔父さんは、すでに70歳を過ぎたお爺さんだった。自分が睦樹の娘であることを告げると、最初は驚いたようだったが、懐かしいと言って歓迎してくれた。

 彼の話によると、睦樹が急逝した後、まどかの母は、今の父と再婚したそうだ。
 実の子でない他人の子供を、まどかの父は認知して育ててくれた。睦樹の叔父は、それに対して感謝の意思を示した。

 再婚を前に、母は前夫である睦樹の遺品の全て洗いざらいを叔父に預けたそうだ。

 遺品を少し位はもっていたほうが良いのではと叔父は助言したらしいが、母にとって、新しい生活に古い思い出は邪魔だったのであろう。まあ、良いように取れば新しい旦那に気を使ったというとこだろう。

 まどかの叔父宅への訪問は、頻度を増して週に2、3度の割合になっていった。
 はじめは迷惑かなと彼女もおもったが、歳を取り話す相手も少なくなった叔父にとっては、良い刺激になっているようだった。

 叔父は、まどかが来訪する度に睦樹の思い出の品を見せてくれた。

「これが、睦樹のお父さんとお母さんの写真じゃ」金色の台紙に写る男女の写真。
 男性は燕尾服を着ている、女性は黒を基調にした着物、その写真をじっくり見て、まどかは驚いた。

「睦樹……、い、いいえ、これはお父さんじゃないのですか?」燕尾服の男性は、亡くなった睦樹にそっくりであった。

 少し違うところといえば、睦樹よりも少しお調子者ぽい印象を受ける。

「そうだろ、睦樹はお前のじいさんにそっくりだったんだ……、それに」言いながら叔父は、隣に写る女性の顔を指差した。

「こっちは、あんたにそっくりだ……」なんだか懐かしそうに叔父は、まどかの顔を見た。そう、睦樹の母は、まどかと同一人物ではないかと疑うほど似ていた。

「……!」それを見たまどかと昌子は絶句していた。それは似ているというレベルではなかった。そこに写っている睦樹の母は、この一年で女として成長したまどかそのものであった。

「世の中には、3人瓜二つの人がいるとよく聞くが、あんたは兄貴の嫁さんに、本当にそっくりだ。今、こうして話したら、昔に戻ったような気分になるわ。まあ、あんたのお婆ちゃんになるから、似ていてもおかしくはないかな」叔父は、写真を見つめながら、そう言った。その眼は愛情に満ち溢れたような眼であった。

 まどかは、この叔父が睦樹の母、まどかの祖母に、淡い恋心でも抱いていたのかなと感じた。

 その後も叔父は睦樹の思い出話をたくさん話してくれた。そして睦樹の両親のことについても……。

 睦樹の両親が外部の者のタバコの不始末で亡くなった事、祖母の話によるとそれは近所に住んでいた不良学生によるものだという事、両親が亡くなった後、祖父母が彼の世話をしていたが、病院に連れていくのが遅れて、発熱により死にそうになった話。

 中学生の時に仲の良かった女の子が亡くなった話。この話が出た時、たまたま一緒に訪れていた昌子は出されていた硬い煎餅をかじりながら天井を見つめていた。

「今日は、ありがとうございました。お父さんの話をたくさん聞けて楽しかった」まどかは、精一杯のお辞儀をして失礼しようする。

「ちょっと、待ちなさい……」叔父はそう言いながら一冊の本を差し出した。古びた表示に文字が書かれている。

『Diary note』

「日記ですか……」まどかは恐る恐るそれを受け取った。

「それは、睦樹の日記じゃ。幸恵さんが持ってきた荷物に紛れ込んでいたんだが……、渡して良いものかどうか迷ったんだが、ワシが持っていても仕方がない。たぶん幸恵さんもその日記の事は知らんと思うがな……」

「へぇー、面白そう」横から昌子が興味津々で覗いている。

 その視線から、日記を隠すようにまどかは、引き寄せた。

「本当に、これ私が貰ってもいいんですか?」

「ああ、老い先短いワシが持っているよりも、あんたがもっているほうが、睦樹も喜ぶだろうよ」叔父はそう言うと、右手を上げて手刀を切った。

「ありがとうございます」まどかと昌子は深々と頭を下げてからその場を、去ろうとする。

 その背後で叔父は、聞こえるか聞こえないか分からないような小さな声で、その言葉を発した。


「……ところで、あんたは本当に睦樹の娘なのか?」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

君の名を

凛子
恋愛
隙間風は嵐となる予感がした――

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...