上 下
22 / 40

心 配

しおりを挟む
 まどかは、ぼんやりとしながら夕食を食べている。

 その目が宙を泳いでいるようだった。先日、会った睦樹はなぜか、いつもと雰囲気が違っていたような気がした。あのあとも、特に会話をする事もなく別れたのだが、昌子と何かあったのかなと勘ぐったりもした。

『まさか、昌子ちゃんも睦樹さんを……』まどかは、昌子が相手では勝ち目がないなと思った。自分が男だったのなら、絶対に昌子を選ぶ自信がある。そう思うと、自然と項垂れた状態になり、食欲も減退する。

 あれこれ考えるうちに、唐突に自分が発してしまった言葉を思い出してしまった。

『私、睦樹さんの事、おじさんなんて思っていませんから!』なぜ、あんなことを言ったんだろうか……。思い出すと顔から火が吹き出しそうになるくらい恥ずかしくなる。

『あれって、好きですって、言っているようなもんだよね……、あー恥ずかしい、次から睦樹さんの前で、どんな顔をすればいいんだろ』まどかは、急にニヤニヤと微笑み出した。落ち込んだり、喜んだり変化が激しい。

 そんなまどかの様子を見ながら、母は自分の娘に春がやって来たのだなと感じた。

「なんか嬉しいことでもあったの?その様子、さてはボーイフレンドでもできたの?」
ギクッ!まどかが一瞬硬直したようになった。本当に考えている事が、すぐに顔に出る子だと母は呆れ顔を見せた。

「別にいいんだけどね。そういえば、この間、公園で一緒にいた男の人だけど……」まどかの母は、先日公園で、まどかと睦樹が二人、雨の中でなにやら話をしていたことが気になるようだった。

「え、ああ、あの人……、ちょっとした知り合いよ。たまたま、あそこで一緒にいただけよ」まどかは少し誤魔化すように返した。

誤魔化すのも下手な子だなと、母は思った。

「そうなの、ただの知り合いなの……」意味あり気に母は呟く。

「どうかしたの?」まどかは、今まで見たことの無い母の動揺したような顔を覗きこむ。
「別にいいのだけれど……、どこかで見覚えがあるのよね、あの人……。結構、まどかよりも年上の人みたいだけど、いくつなのあの人?簡単に男の人について行ったりしては駄目よ。男は狼なのよ……」母は手で狼の牙を表現するように爪を立てた。

「またそれ、狼だって!あはは……面白い!」まどかは、ケラケラと笑った。

「本当に、この子は大丈夫かしら……」母は本当に心配そうに、まどかの顔をみた。

「大丈夫、大丈夫!」母の心配を茶化すようにまどかはVサインをした。

それを見た母は深いため息をついた。

『そういえば睦樹さん、何歳《いくつ》なのだろう……』まどかは、次の機会に聞いてみようと思った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました

Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。 どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も… これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない… そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが… 5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。 よろしくお願いしますm(__)m

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...