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媚 薬
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そこはこの界隈では、治安が悪いと有名な歓楽街。
アーケードのある商店街に平行するように、風俗店やスナック、ガールズバーなどが入店する商業ビルが立ち並ぶ。
その中でも、一際目立って古いビルがある。まず、好奇心で飛び込むような客はいないであろう。万が一、好奇心で入ってしまったとしても、後で後悔してしまうことは必須である。
『レッド・ブラッド』その店は、このビルの4階にあった。
「片山ちゃん、どうしたのその怪我?」女は金髪の包帯男に声をかける。男の名前は片山というらしい。
「……」金髪の男は答えたくないようで、沈黙している。テーブルの上に置いてあるハイボールの入ったジョッキを一気に飲み干す。
「ツー!!」口の中の傷にアルコールが滲みるようだ。
「ママ~、こいつさ~、女にちょっかい出して、オッサンにボコボコにされたんすよ~」連れの男が代弁する。オールバックにサングラス、指には明らかに安物の指輪。髑髏《どくろ》の装飾が趣味のようだった。
「へー、女の子に、ちょっかい出して……、それは、それは……」ママと呼ばれる女は、煙草に火をつけそれを咥えた。
この女は、レッド・ブラッドの経営者、客からはママと呼ばれている。片山達が聞いた話では、歳はすでに六十は、優に越えているということだ。実際は七十に足をかけているかもしれない。
この店の照明は、かなり薄暗く設定されているようで、彼女の年齢を店内で判別する事は困難だった。この仕事は女を売る仕事であるので、それは仕方ないことなのであろう。
ママは、肺に溜め込んだ煙を一気に吹き出した。
「うるせえ、あの援交親父こんど見かけたら!!」言いながら、片山は乱暴にジョッキをテーブルにおいた。
「でも、そのオッサン、空手かなんかやってたんだろ。帰って来た時、お前ガタガタ震えてたじゃんか」サングラスの男が小馬鹿にするように言う。その言葉を聞いた片山は、サングラス男の胸ぐらを掴んだ。
「お前、喧嘩売ってんのか?!」
「あん?!」サングラスの男も威嚇気味に返す。
「ちょっと、店で喧嘩はご法度だよ!守れないなら、あんたら出入り禁止にするからね!」ママは、カウンターを激しく叩きながら二人に忠告する。
一応、高校生の、二人が堂々と酒が飲める店は希少なので、このママと呼ばれる女には正直頭が上がらないようであった。
二人は、相手の乱れたシャツを整えあいながらソファーに座った。
「片山ちゃん、女が欲しいならいつでも私が相手してやるのに……」ママは急に色気ババアに変身したかのようだった。いつもよりシャツのボタンが、一つ多目に外れている。
「ママさぁ、俺はすぐに股を開く女は嫌なんだよ、やっぱり好きな女は自分で攻略しなくちゃねぇ」片山はハイボールを、もう一口飲んだ。もちろん、この店のママの年齢は片山にとって、許容範囲を大幅に越えているのだが、そこには触れないように、片山なりに気を使っているようである。
「へー、そうなんだ」ママは呆れ顔で、煙草を咥《くわ》えた。ちょっと、不貞腐《ふてくさ》れているようにも見える。
「お前、攻略ってさぁ、あのハンバーガー屋の女の子を強姦《レイプ》しようとしただけだろ!そりゃ、犯罪だぜ、犯罪」サングラス男は大声で笑いながら、軽く片山の頭を叩いた。片山は少し頭にきたが、ママの手前我慢しているようだった。
「バカ野郎、男は積極的にいかないと、女は解らないんだよ!ストーカーと純愛なんて、女の取りようだろうが!要は決めればいいんだよ、決めれば!そうすればこっちのもんだ!あの女も俺にゾッコンになるんだよ!」片山は自分の持論を展開する。ゾッコンという死語にサングラス男とママは、少し呆れているようだった。
「そうだ!片山ちゃん、良いものあげるわ」ママは、言いながら唐突に封筒を出した。それを受けった片山は開封する。
「ん?ドラッグか?」中から、小さく三角に折られた紙包みが出てくる。
「この前来た少しヤバそうな客が置いていったんだけど、飲んだらアレに夢中になる媚薬《くすり》らしいわよ。その、女の子に飲ませてみたらどうかしら?」ママは目を爛々にしながら説明しながら、片山が破った封筒を透かして見た。
「私は試した事ないけれど、凄いらしいわよ。ただし副作用で、飲むと性格が狂暴になるのと、依存性があるらしいから……、あら……」ママの話が終わるのを待たず、片山は紙包み一つ分の媚薬《くすり》を飲み干していた。
「こりゃ、飲みやすいわぁ」片山は、美味しそうに右腕で口の辺りを拭った。
「あああ……」ママとサングラス男は呆れて声を漏らした。
「お前が飲んでどうすんだ!」サングラス男は、もう一度片山の頭を叩いた。
アーケードのある商店街に平行するように、風俗店やスナック、ガールズバーなどが入店する商業ビルが立ち並ぶ。
その中でも、一際目立って古いビルがある。まず、好奇心で飛び込むような客はいないであろう。万が一、好奇心で入ってしまったとしても、後で後悔してしまうことは必須である。
『レッド・ブラッド』その店は、このビルの4階にあった。
「片山ちゃん、どうしたのその怪我?」女は金髪の包帯男に声をかける。男の名前は片山というらしい。
「……」金髪の男は答えたくないようで、沈黙している。テーブルの上に置いてあるハイボールの入ったジョッキを一気に飲み干す。
「ツー!!」口の中の傷にアルコールが滲みるようだ。
「ママ~、こいつさ~、女にちょっかい出して、オッサンにボコボコにされたんすよ~」連れの男が代弁する。オールバックにサングラス、指には明らかに安物の指輪。髑髏《どくろ》の装飾が趣味のようだった。
「へー、女の子に、ちょっかい出して……、それは、それは……」ママと呼ばれる女は、煙草に火をつけそれを咥えた。
この女は、レッド・ブラッドの経営者、客からはママと呼ばれている。片山達が聞いた話では、歳はすでに六十は、優に越えているということだ。実際は七十に足をかけているかもしれない。
この店の照明は、かなり薄暗く設定されているようで、彼女の年齢を店内で判別する事は困難だった。この仕事は女を売る仕事であるので、それは仕方ないことなのであろう。
ママは、肺に溜め込んだ煙を一気に吹き出した。
「うるせえ、あの援交親父こんど見かけたら!!」言いながら、片山は乱暴にジョッキをテーブルにおいた。
「でも、そのオッサン、空手かなんかやってたんだろ。帰って来た時、お前ガタガタ震えてたじゃんか」サングラスの男が小馬鹿にするように言う。その言葉を聞いた片山は、サングラス男の胸ぐらを掴んだ。
「お前、喧嘩売ってんのか?!」
「あん?!」サングラスの男も威嚇気味に返す。
「ちょっと、店で喧嘩はご法度だよ!守れないなら、あんたら出入り禁止にするからね!」ママは、カウンターを激しく叩きながら二人に忠告する。
一応、高校生の、二人が堂々と酒が飲める店は希少なので、このママと呼ばれる女には正直頭が上がらないようであった。
二人は、相手の乱れたシャツを整えあいながらソファーに座った。
「片山ちゃん、女が欲しいならいつでも私が相手してやるのに……」ママは急に色気ババアに変身したかのようだった。いつもよりシャツのボタンが、一つ多目に外れている。
「ママさぁ、俺はすぐに股を開く女は嫌なんだよ、やっぱり好きな女は自分で攻略しなくちゃねぇ」片山はハイボールを、もう一口飲んだ。もちろん、この店のママの年齢は片山にとって、許容範囲を大幅に越えているのだが、そこには触れないように、片山なりに気を使っているようである。
「へー、そうなんだ」ママは呆れ顔で、煙草を咥《くわ》えた。ちょっと、不貞腐《ふてくさ》れているようにも見える。
「お前、攻略ってさぁ、あのハンバーガー屋の女の子を強姦《レイプ》しようとしただけだろ!そりゃ、犯罪だぜ、犯罪」サングラス男は大声で笑いながら、軽く片山の頭を叩いた。片山は少し頭にきたが、ママの手前我慢しているようだった。
「バカ野郎、男は積極的にいかないと、女は解らないんだよ!ストーカーと純愛なんて、女の取りようだろうが!要は決めればいいんだよ、決めれば!そうすればこっちのもんだ!あの女も俺にゾッコンになるんだよ!」片山は自分の持論を展開する。ゾッコンという死語にサングラス男とママは、少し呆れているようだった。
「そうだ!片山ちゃん、良いものあげるわ」ママは、言いながら唐突に封筒を出した。それを受けった片山は開封する。
「ん?ドラッグか?」中から、小さく三角に折られた紙包みが出てくる。
「この前来た少しヤバそうな客が置いていったんだけど、飲んだらアレに夢中になる媚薬《くすり》らしいわよ。その、女の子に飲ませてみたらどうかしら?」ママは目を爛々にしながら説明しながら、片山が破った封筒を透かして見た。
「私は試した事ないけれど、凄いらしいわよ。ただし副作用で、飲むと性格が狂暴になるのと、依存性があるらしいから……、あら……」ママの話が終わるのを待たず、片山は紙包み一つ分の媚薬《くすり》を飲み干していた。
「こりゃ、飲みやすいわぁ」片山は、美味しそうに右腕で口の辺りを拭った。
「あああ……」ママとサングラス男は呆れて声を漏らした。
「お前が飲んでどうすんだ!」サングラス男は、もう一度片山の頭を叩いた。
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