上 下
12 / 40

媚 薬

しおりを挟む
 そこはこの界隈では、治安が悪いと有名な歓楽街。

 アーケードのある商店街に平行するように、風俗店やスナック、ガールズバーなどが入店する商業ビルが立ち並ぶ。

 その中でも、一際目立って古いビルがある。まず、好奇心で飛び込むような客はいないであろう。万が一、好奇心で入ってしまったとしても、後で後悔してしまうことは必須である。

『レッド・ブラッド』その店は、このビルの4階にあった。

「片山ちゃん、どうしたのその怪我?」女は金髪の包帯男に声をかける。男の名前は片山というらしい。

「……」金髪の男は答えたくないようで、沈黙している。テーブルの上に置いてあるハイボールの入ったジョッキを一気に飲み干す。

「ツー!!」口の中の傷にアルコールが滲みるようだ。

「ママ~、こいつさ~、女にちょっかい出して、オッサンにボコボコにされたんすよ~」連れの男が代弁する。オールバックにサングラス、指には明らかに安物の指輪。髑髏《どくろ》の装飾が趣味のようだった。

「へー、女の子に、ちょっかい出して……、それは、それは……」ママと呼ばれる女は、煙草に火をつけそれを咥えた。

 この女は、レッド・ブラッドの経営者、客からはママと呼ばれている。片山達が聞いた話では、歳はすでに六十は、優に越えているということだ。実際は七十に足をかけているかもしれない。

 この店の照明は、かなり薄暗く設定されているようで、彼女の年齢を店内で判別する事は困難だった。この仕事は女を売る仕事であるので、それは仕方ないことなのであろう。
 ママは、肺に溜め込んだ煙を一気に吹き出した。

「うるせえ、あの援交親父こんど見かけたら!!」言いながら、片山は乱暴にジョッキをテーブルにおいた。

「でも、そのオッサン、空手かなんかやってたんだろ。帰って来た時、お前ガタガタ震えてたじゃんか」サングラスの男が小馬鹿にするように言う。その言葉を聞いた片山は、サングラス男の胸ぐらを掴んだ。

「お前、喧嘩売ってんのか?!」

「あん?!」サングラスの男も威嚇気味に返す。

「ちょっと、店で喧嘩はご法度だよ!守れないなら、あんたら出入り禁止にするからね!」ママは、カウンターを激しく叩きながら二人に忠告する。

 一応、高校生の、二人が堂々と酒が飲める店は希少なので、このママと呼ばれる女には正直頭が上がらないようであった。

 二人は、相手の乱れたシャツを整えあいながらソファーに座った。

「片山ちゃん、女が欲しいならいつでも私が相手してやるのに……」ママは急に色気ババアに変身したかのようだった。いつもよりシャツのボタンが、一つ多目に外れている。

「ママさぁ、俺はすぐに股を開く女は嫌なんだよ、やっぱり好きな女は自分で攻略しなくちゃねぇ」片山はハイボールを、もう一口飲んだ。もちろん、この店のママの年齢は片山にとって、許容範囲を大幅に越えているのだが、そこには触れないように、片山なりに気を使っているようである。

「へー、そうなんだ」ママは呆れ顔で、煙草を咥《くわ》えた。ちょっと、不貞腐《ふてくさ》れているようにも見える。

「お前、攻略ってさぁ、あのハンバーガー屋の女の子を強姦《レイプ》しようとしただけだろ!そりゃ、犯罪だぜ、犯罪」サングラス男は大声で笑いながら、軽く片山の頭を叩いた。片山は少し頭にきたが、ママの手前我慢しているようだった。

「バカ野郎、男は積極的にいかないと、女は解らないんだよ!ストーカーと純愛なんて、女の取りようだろうが!要は決めればいいんだよ、決めれば!そうすればこっちのもんだ!あの女も俺にゾッコンになるんだよ!」片山は自分の持論を展開する。ゾッコンという死語にサングラス男とママは、少し呆れているようだった。

「そうだ!片山ちゃん、良いものあげるわ」ママは、言いながら唐突に封筒を出した。それを受けった片山は開封する。

「ん?ドラッグか?」中から、小さく三角に折られた紙包みが出てくる。

「この前来た少しヤバそうな客が置いていったんだけど、飲んだらアレに夢中になる媚薬《くすり》らしいわよ。その、女の子に飲ませてみたらどうかしら?」ママは目を爛々にしながら説明しながら、片山が破った封筒を透かして見た。

「私は試した事ないけれど、凄いらしいわよ。ただし副作用で、飲むと性格が狂暴になるのと、依存性があるらしいから……、あら……」ママの話が終わるのを待たず、片山は紙包み一つ分の媚薬《くすり》を飲み干していた。

「こりゃ、飲みやすいわぁ」片山は、美味しそうに右腕で口の辺りを拭った。

「あああ……」ママとサングラス男は呆れて声を漏らした。

「お前が飲んでどうすんだ!」サングラス男は、もう一度片山の頭を叩いた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...