上 下
36 / 56

強制退去

しおりを挟む
「と、突然ですが、このマンションを追い出される事になりました」近隣の部屋から騒音が煩いとの苦情が殺到しているとのことであった。

「えっ、まさか・・・・・・・私達のせい・・・・・・?」勇希は冷や汗を流しながら聞いた。 静香とシンディは気にも留めない様子で、テレビゲームで対戦している。

 シンディの引越しは終了して、住居は確保出来たはずなのだが、何故か寝泊りを響樹の部屋で繰り返していた。 宿無しの静香もこの部屋を拠点としている。

 そして、勇希も彼女達の存在が気になり、何かしら理由をつけては響樹の部屋に入り浸っていた。

 思春期満開の男子達の住むマンションでは、妬みひがみ以外の何物でもなかった。
 静香は、響樹の部屋で生まれて初めてテレビゲームに触れた。

 格闘ゲームの刃を持ったキャラクターが気に入ったようで、対戦ゲームにのめり込んでいる。 同じくシンディはブーメランを持ったキャラクターで応戦する。二人の罵声にも似た声は、部屋中を響き渡っていた。

「ええ、・・・・・・い、いいえそういう訳では・・・・・・」響樹は誤魔化そうとしたが、バレバレであった。

「いつまで、ここに住めるの?」
「えっと、一ヶ月です。 来月末日までに出て行くようにと言われまして・・・・・・」どうやら、男子学生向け単身マンションに、女を連れ込んだ事による契約違反のようであった。
「ど、どうするの? 」勇希は心配そうに響樹の顔を見つめる。

「いい考えがあるわ!」シンディがコントローラーをこねくり回しながら呟く。

「本当か?!」響樹の顔がほころぶ。どんな打開策が提案されるのか期待した。 その横で、どんなとんでもない話が飛び出すのか勇希は呆れていた。

「私の家で同棲すればいいじゃない」シンディが可愛らしく微笑んだ。

「ど、同棲ってシンディ、何を言っているのよ? それでも貴方、先生なの?!」勇希は顔を赤くして目を見開いた。

「どうせい? なんだ、それは旨いのか?」静香はコントローラーを叩きながら興味を示した。

「良いじゃないの。ちょうど私の家は部屋が余っているから、それに静香の部屋も用意できるわ。 この狭い部屋で三つ巴の生活を続けるよりは、よっぽど健全でしょ」シンディはニヤリと笑った。シンディは引越ししてからも、響樹の家に入り浸り状態であった。

「で、でも・・・・・・」勇希は少し不安そうな顔をして響樹を見た。
「シンディ! 本当にいいの! いやー助かるよ!」響樹は手放しで喜んでいる。

 先日の引越しを手伝った時にシンディの家は確認している。 確かに一人で住むには広すぎる一戸建ての住居であった。

 二階建て、トイレは二ヵ所。ベッドルームにはシャワー完備であった。部屋数も結構余裕があったことを勇希は思い出していた。

「任せといて、これで決まりね!」シンディが胸を叩きながら言った。

「ドウセイか、それは何時食べるのだ?」静香がまた見当はずれの質問をしていた。
「で、でも・・・・・・」勇希は唇をアヒルのように尖らせた。

「勇希先輩どうかしましたか?」響樹は勇希が拗ねている意味が解らなかった。

「も、もう、知らない!」言いながら勇希は背を向けた。

 ひとまず、このマンションを追い出されても住むところを確保出来た事に、響樹は安堵した。

勇希が何に怒っているのかは解らないが、触らぬ神に祟りなしということでそっとしておくことにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

はずれスキル『模倣』で廃村スローライフ!

さとう
ファンタジー
異世界にクラス丸ごと召喚され、一人一つずつスキルを与えられたけど……俺、有馬慧(ありまけい)のスキルは『模倣』でした。おかげで、クラスのカースト上位連中が持つ『勇者』や『聖女』や『賢者』をコピーしまくったが……自分たちが活躍できないとの理由でカースト上位連中にハメられ、なんと追放されてしまう。 しかも、追放先はとっくの昔に滅んだ廃村……しかもしかも、せっかくコピーしたスキルは初期化されてしまった。 とりあえず、廃村でしばらく暮らすことを決意したのだが、俺に前に『女神の遣い』とかいう猫が現れこう言った。 『女神様、あんたに頼みたいことあるんだって』 これは……異世界召喚の真実を知った俺、有馬慧が送る廃村スローライフ。そして、魔王討伐とかやってるクラスメイトたちがいかに小さいことで騒いでいるのかを知る物語。

キモヲタ男爵奮戦記 ~ 天使にもらったチートなスキルで成り上がる……はずだったでござるよトホホ ~

帝国妖異対策局
ファンタジー
【 キモヲタの我輩が、変態治癒スキルを駆使して成り上がる……はずでした。】 「んぼぉおおおおおおおおおおおお❤ いだいだだぎもぢぃぃぃのぉおおおお❤」  足裏を襲う強烈な痛みと、全身に広がる強烈な快感に、エルフ女性はアヘ顔ダブルピースを浮かべながら、キモヲタの前で痙攣し始めました。(第2話より) 「天使様から頂いたチートな能力を駆使して、高潔で美しいエルフの女性を危機から救うも、何故か彼女から命を狙われるようになり、死にかけていたケモミミ耳少女を救うも、何故か命を狙われるようになり、騎士団の団長を救ったら魔族収容所に送られて――とにかくこの異世界ときたら理不尽この上ないでござるよぉおお!」 ★二つのチート能力を授かったキモヲタが異世界を華麗に駆け抜ける(笑)物語。 ×性描写はありませんがアヘ顔はあります。 ○きわどい描写ありますが、キモヲタは完結までDTです!(謎の宣言) それとアヘ顔はあります! ★ナレーションさんが不慣れなので時折ネタバレしちゃいます。

幼女に転生したらイケメン冒険者パーティーに保護&溺愛されています

ひなた
ファンタジー
死んだと思ったら 目の前に神様がいて、 剣と魔法のファンタジー異世界に転生することに! 魔法のチート能力をもらったものの、 いざ転生したら10歳の幼女だし、草原にぼっちだし、いきなり魔物でるし、 魔力はあって魔法適正もあるのに肝心の使い方はわからないし で転生早々大ピンチ! そんなピンチを救ってくれたのは イケメン冒険者3人組。 その3人に保護されつつパーティーメンバーとして冒険者登録することに! 日々の疲労の癒しとしてイケメン3人に可愛いがられる毎日が、始まりました。

処理中です...