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葵静香
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空手の部活動の時間が始まる。
いつものように勇希が前に立ち号令をかけながら基本動作を始める。
その彼女の動きに合わせて部員達も動作する。 途中、勇希は部員達の間を移動しながら彼らの細かい姿勢などを確認し指導した。
「う!」勇希の胸の辺りが痛む感覚がする。彼女は目を閉じながら胸の辺りを摩る。
「紅・・・・・・先輩?」響樹は彼女の異変を感じて声を掛ける。
「だ、大丈夫、生川! 続きをお願い」勇希は、男子部員の生川に指示した。
生川は茶帯を締めながら「オッス!」と元気よく返答をした。
「先輩・・・・・・」響樹が心配そうに見つめる。
「少し、外の空気に当たってくるわ。 大丈夫だから、心配しないで」勇希は軽く微笑んでから外に出て行った。
「・・・・・・・」響樹はその姿を目で追った。
「おい! 不動、稽古に集中しろ!」生川の罵声が聞こえる。
響樹は渋々動作を続ける。生川は指導を任されて、得意げに気合を上げていた。
ただ、その基本動作は勇希の動きには到底足元にも及ばないものであった。
道場の外に出た勇希は大きく深呼吸をした。
近くの水道で頭から水を浴びて 少し気分が楽になった気がする。
「随分と面白い、舞踊だな」勇希の背後から声が聞こえる。 何処かで聞いたことのある声だと思いながら勇希は振り向いた。
「あ、あなたは、昨日の!?」勇希の視線の先には、昨日と同じ姿をした青い髪の少女が立っていた。「あなたは一体何者なの?」勇希は体を少女に向けた。
青い少女は校舎の壁に体を預けながら、勇希の行動を見つめていた。
「人に物を尋ねるのであれば、己が先に名乗るのが常識であろう」青い少女は目を見開きながら言った。
「わ、私は、紅 勇希・・・・・・・」
「紅か・・・・・・、なかなかいい名だな。私の名は『葵 静香』。侍《さむらい》だ」静香はおそらく刀の入った袋を目の前に突き出しながら名乗った。
「さむら・・・・・・い、ですか?」この娘は、少し危ない奴なのかと勇希は思った。
「ん、お前のその目・・・・・・・もしや」静香と名乗った少女は勇希の瞳をキッと睨む。
「なに・・・・・・」その視線の鋭さに勇希は少し後ろにたじろいだ。
「あの不動という姓の男、名はなんというのだ」
「あの男?・・・・・・ああ、不動君ね。 不動 響樹君よ」
「響樹か・・・・・・・また、似たような名を名のりおって・・・・・・・」
「そう言えば、さっき聞き捨てならない事を言ったわね」勇希は静香の発した言葉に、少し引っかかっていた。
「何のことだ」
「舞踊って、私達の空手の事を言っているの?」勇希の目は、今まで無いほどの鋭いものになっていた。
「空手というのか。・・・・・・あれは舞踊ではないのか? なかなか見事であったぞ!」静香は悪気の無い様子であった。
「・・・・・・まあ、いいわ。 それより貴方は何者なの?不動君と知り合いなの?」突き詰めていくと口論になりそうであったので勇希は話題を変えることにした。彼女は昨日から気になっていた疑問を口にした。正直いうと、その事が頭から離れずに昨晩はほとんど眠ることが出来なかった。それが本日の体調不良の一因でもあった。
「私は、あの男の・・・・・・許婚だ」静香は少し口元に笑みを浮かべながら呟いた。
「許婚? ・・・・・・えー?!」勇希は驚愕で卒倒しそうになるのを堪えた。
「そうだ」
「でも、貴方は不動君の名前も知らなかったじゃないの!」何度も彼女は響樹に少女の存在を確認したが、彼は知らないと言うのみであった。嘘をついている雰囲気でもなかった。
「それは・・・・・・色々事情があるのだ。 あの男と私は、昔から契りを交わした仲だ」静香は少し勝ち誇ったような態度であった。少し胸を前に突き出しているように見える。
「昔って、幼馴染って事?」勇希の目の辺りが少し引きつる。
「少し違うが・・・・・・・まあ、その様なものだ」
「契りって、まさか・・・・・・」勇希は目を見開き呆然としていた。少女が発した『契り』という言葉が頭の中でクルクル回り続ける。
「そうだ、あの男は・・・・・・・毎晩、私の体を・・・・・・う、う」静香は背を向けて嗚咽を漏らした。小刻みに体が震えている。
少し演技が入ったような仕草であったが、勇希には十分な衝撃を与えたことには間違いがなかった。
道場の中から空手着姿の白帯び部員が歩いてくる。
「紅先輩、大丈夫ですか?」練習の合間に響樹が勇希の様子を伺いに来た。
彼の目の前には、女二人の修羅場が形成されている。
「うう・・・・・・・」勇希が目に涙を溜めている。
響樹は、そんなに具合が悪いのかと思い心配そうな表情で、勇希を見つめた。
パシッ!
響樹の頬を猛烈な痛みが襲う。
「最低! 馬鹿! 変態!」勇希は目から涙が零れ落ちる。彼女はその場から逃げるように走り去っていった。
「先輩?! へ、変態って?」響樹は勇希に叩かれた頬を押さえながら、叫んだ。 少し脳震盪のような症状に襲われて脚がもつれそうになる。 その場には、響樹と静香が二人取り残されていた。
「ハハ・・・・・・・ハハハハハ!」静香が堪えきれず豪快な笑い声を上げる。
「なにが可笑しいんだ?!」響樹は怒りを静香に向けた。
「私の言葉を信じて泣くとは、ウブな乙女だ」
「な、なんなんだ・・・・・・君は、誰だ!」響樹は見慣れない少女を目にして、怪訝そうな顔をした。
「私の事を憶えていないか ・・・・・・・まあ、仕方が無い」静香は腕を組みながら少し不満そうな顔をした。
「く!」響樹は、静香を無視して勇希を追いかけようとするが、その行く手を静香の持つ刀袋が制止する。
「なにをする!」響樹は静香の刀袋を振り払い前に出ようとした。
「お前は、あの乙女に関わるな・・・・・・・ あの乙女は多分・・・・・・お前はまた、私のような女を増やすつもりなのか!」静香が激しい口調で叫ぶ。
「な、なにを訳の判らないことを・・・・・・」静香の言葉の意味が判らず、響樹は彼女を無視するかのように、勇希が逃亡していった方向に向かって走り出した。
「ちっ!」静香は舌打ちをした。
いつものように勇希が前に立ち号令をかけながら基本動作を始める。
その彼女の動きに合わせて部員達も動作する。 途中、勇希は部員達の間を移動しながら彼らの細かい姿勢などを確認し指導した。
「う!」勇希の胸の辺りが痛む感覚がする。彼女は目を閉じながら胸の辺りを摩る。
「紅・・・・・・先輩?」響樹は彼女の異変を感じて声を掛ける。
「だ、大丈夫、生川! 続きをお願い」勇希は、男子部員の生川に指示した。
生川は茶帯を締めながら「オッス!」と元気よく返答をした。
「先輩・・・・・・」響樹が心配そうに見つめる。
「少し、外の空気に当たってくるわ。 大丈夫だから、心配しないで」勇希は軽く微笑んでから外に出て行った。
「・・・・・・・」響樹はその姿を目で追った。
「おい! 不動、稽古に集中しろ!」生川の罵声が聞こえる。
響樹は渋々動作を続ける。生川は指導を任されて、得意げに気合を上げていた。
ただ、その基本動作は勇希の動きには到底足元にも及ばないものであった。
道場の外に出た勇希は大きく深呼吸をした。
近くの水道で頭から水を浴びて 少し気分が楽になった気がする。
「随分と面白い、舞踊だな」勇希の背後から声が聞こえる。 何処かで聞いたことのある声だと思いながら勇希は振り向いた。
「あ、あなたは、昨日の!?」勇希の視線の先には、昨日と同じ姿をした青い髪の少女が立っていた。「あなたは一体何者なの?」勇希は体を少女に向けた。
青い少女は校舎の壁に体を預けながら、勇希の行動を見つめていた。
「人に物を尋ねるのであれば、己が先に名乗るのが常識であろう」青い少女は目を見開きながら言った。
「わ、私は、紅 勇希・・・・・・・」
「紅か・・・・・・、なかなかいい名だな。私の名は『葵 静香』。侍《さむらい》だ」静香はおそらく刀の入った袋を目の前に突き出しながら名乗った。
「さむら・・・・・・い、ですか?」この娘は、少し危ない奴なのかと勇希は思った。
「ん、お前のその目・・・・・・・もしや」静香と名乗った少女は勇希の瞳をキッと睨む。
「なに・・・・・・」その視線の鋭さに勇希は少し後ろにたじろいだ。
「あの不動という姓の男、名はなんというのだ」
「あの男?・・・・・・ああ、不動君ね。 不動 響樹君よ」
「響樹か・・・・・・・また、似たような名を名のりおって・・・・・・・」
「そう言えば、さっき聞き捨てならない事を言ったわね」勇希は静香の発した言葉に、少し引っかかっていた。
「何のことだ」
「舞踊って、私達の空手の事を言っているの?」勇希の目は、今まで無いほどの鋭いものになっていた。
「空手というのか。・・・・・・あれは舞踊ではないのか? なかなか見事であったぞ!」静香は悪気の無い様子であった。
「・・・・・・まあ、いいわ。 それより貴方は何者なの?不動君と知り合いなの?」突き詰めていくと口論になりそうであったので勇希は話題を変えることにした。彼女は昨日から気になっていた疑問を口にした。正直いうと、その事が頭から離れずに昨晩はほとんど眠ることが出来なかった。それが本日の体調不良の一因でもあった。
「私は、あの男の・・・・・・許婚だ」静香は少し口元に笑みを浮かべながら呟いた。
「許婚? ・・・・・・えー?!」勇希は驚愕で卒倒しそうになるのを堪えた。
「そうだ」
「でも、貴方は不動君の名前も知らなかったじゃないの!」何度も彼女は響樹に少女の存在を確認したが、彼は知らないと言うのみであった。嘘をついている雰囲気でもなかった。
「それは・・・・・・色々事情があるのだ。 あの男と私は、昔から契りを交わした仲だ」静香は少し勝ち誇ったような態度であった。少し胸を前に突き出しているように見える。
「昔って、幼馴染って事?」勇希の目の辺りが少し引きつる。
「少し違うが・・・・・・・まあ、その様なものだ」
「契りって、まさか・・・・・・」勇希は目を見開き呆然としていた。少女が発した『契り』という言葉が頭の中でクルクル回り続ける。
「そうだ、あの男は・・・・・・・毎晩、私の体を・・・・・・う、う」静香は背を向けて嗚咽を漏らした。小刻みに体が震えている。
少し演技が入ったような仕草であったが、勇希には十分な衝撃を与えたことには間違いがなかった。
道場の中から空手着姿の白帯び部員が歩いてくる。
「紅先輩、大丈夫ですか?」練習の合間に響樹が勇希の様子を伺いに来た。
彼の目の前には、女二人の修羅場が形成されている。
「うう・・・・・・・」勇希が目に涙を溜めている。
響樹は、そんなに具合が悪いのかと思い心配そうな表情で、勇希を見つめた。
パシッ!
響樹の頬を猛烈な痛みが襲う。
「最低! 馬鹿! 変態!」勇希は目から涙が零れ落ちる。彼女はその場から逃げるように走り去っていった。
「先輩?! へ、変態って?」響樹は勇希に叩かれた頬を押さえながら、叫んだ。 少し脳震盪のような症状に襲われて脚がもつれそうになる。 その場には、響樹と静香が二人取り残されていた。
「ハハ・・・・・・・ハハハハハ!」静香が堪えきれず豪快な笑い声を上げる。
「なにが可笑しいんだ?!」響樹は怒りを静香に向けた。
「私の言葉を信じて泣くとは、ウブな乙女だ」
「な、なんなんだ・・・・・・君は、誰だ!」響樹は見慣れない少女を目にして、怪訝そうな顔をした。
「私の事を憶えていないか ・・・・・・・まあ、仕方が無い」静香は腕を組みながら少し不満そうな顔をした。
「く!」響樹は、静香を無視して勇希を追いかけようとするが、その行く手を静香の持つ刀袋が制止する。
「なにをする!」響樹は静香の刀袋を振り払い前に出ようとした。
「お前は、あの乙女に関わるな・・・・・・・ あの乙女は多分・・・・・・お前はまた、私のような女を増やすつもりなのか!」静香が激しい口調で叫ぶ。
「な、なにを訳の判らないことを・・・・・・」静香の言葉の意味が判らず、響樹は彼女を無視するかのように、勇希が逃亡していった方向に向かって走り出した。
「ちっ!」静香は舌打ちをした。
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2024年10月追記
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