振り返るといつもの君がいたような気がした。僕が助けた少女は有名なシンガーソングライターだった。『君の歌と僕の夢……。』

君とダイビング

「撮影は順調かい？」遅れて綾が姿を見せた。桃子の様子を見に来たようであった・

「あっ、小野寺社長！亮ちゃんが････････」桃子は不安そうな顔で綾を見た。少し泣き出しそうな感じであった。

「亮介君がどうかしたのか？そういえば姿が見えないようだが･･･････」綾は桃子の付き添いをするように命じた亮介の姿が見えない事に気が付いた。

「スーツアクターの方が怪我をして････････、それで校舎から飛び降りるアクションを亮ちゃんが代わりに飛び降りる事になって･･･････」亮介のスタントを見た事の無い桃子は気が気ではない様子であった。

「ああ、彼なら大丈夫だよ。そんなアクションなら簡単にこなすよ」綾は桃子を安心させるように彼女の肩を軽く叩いた。

「ああ、小野寺社長！勝手に済まんが瀧山君をお借りするよ。きちんとギャラは払わせてもらうよ」神山監督は軽く右手を挙げて挨拶をした。しかし、綾は監督の真意を読んでいた。きっと彼は亮介のスタントの能力を確かめようとしているのであろう。スーツアクターをしていたという男性を見たが、怪我をしているのも本当なのかと疑った位だ。

「ちょっと、時間がかかているな」東村監督が少しイラついているようであった。

「きっと怖気づいたんですよ。あいつ････････」白川が嫌らしい笑い顔で呟いた。それを見て桃子が今にも殴り掛かりそうな勢いで睨みつけた。さすがに白川は目を逸らした。

「アクションシーンは、アクション監督の生川君に任せているんだが･･･････」東山監督は腕を組んで校舎の上を見つめていた。

「監督！アクションを始めるそうです！」スタッフが屋上のカメラの画像を中継しているモニターの前でスマホで会話をしている。

「そうか！」監督を筆頭に皆がモニターの前に集まる。

　モニターの前にパネルが表示される、撮影シーンと時間が表示されている。後で撮った画像を編集しやすいようにタイトルをつけているようだ。

　学生服を着た男の背中が映る。戦闘員役の役者が亮介に襲い掛かる。彼はそれをうまくかわす。

「うん、上手いな････････彼」東山監督がポツリと呟く。その言葉を聞いて白川は顔をむっとさせる。「そろそろダイビングだな････････、んっ････････なに！？」東山監督は驚きの声を上げた。

「りょ、亮ちゃん！？」校舎の上に背を向けた学生服姿の男の姿。彼は全く振り向きもせずに飛び降りた。そのまま勢いよく落下し、マットの上に背中から着地した。

「大丈夫か！！」屋上の上から声が聞こえる。アクション監督が上から見下ろして叫んだ。

「大丈夫です！！」亮介は両手で頭の上に大きな丸を作った。

「亮ちゃん！！」桃子は亮介に抱きつくように飛びついた。「心配したんだよ！私、本当に怖かったんだよ！！」桃子は泣いている。

「ありがとな、金ちゃん」亮介は桃子の頭を優しく撫でた。

「君！どうして！！どうして、後ろ向きで飛び降りたんだ！マットの場所の確認はどうやったんだ！？」東山監督が興奮した面持ちで駆け寄ってきた。

「上でアクション監督と相談したんですけど、マットの位置を確認して振り向いたら不自然だなって話になりまして････････、あの場合は後ろ向きでそのまま落ちる方が自然だなって」亮介は頭を掻いた。

「しかし、そんな危険なことを彼は君に要求したのか！？」東山監督は屋上を少し睨みつけるように見た。

「いいえ、アクション監督は振り返ってからって言われたんですが、僕がやりますって･･･････」近くで綾がニコリとほほ笑んでいた。

「君はとんでも無い奴だな･････････」東山監督は呆れたようであった。

「ちっ！」白川が少し離れた場所で悔しそうに大きな舌打ちをした。