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黒 猫
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ここのところ天候が悪く空にはいつも少し濁った雲が漂っている。こんな天気が続くと気分も同じく鬱とした状態となってしまう。
もれなく俺達も憂鬱な気持ちで学校から帰宅中であった。授業を受けていても教室には日光の光が入らず、中途半端な蛍光灯の灯りでの授業が行われていた。ポカポカ陽気も眠くなり授業を聞く意欲が無くなるが、曇り続きは気持ちが滅入るというものだ。まあどちらにしても勉強は嫌いということだ。
「ん?」俺は耳をすました。
「なに、どうかしたの?」直美が不思議そうな顔で俺を見た。
「直美、なんだか猫の鳴き声が聞こえないか?」今にも消えそうな鳴き声が耳に聞こえる。
「え、そうかな・・・・・・私にはなにも聞こえないけど」直美も耳を澄まして聞こうとしたが彼女には俺が言うその鳴き声が聞こえない様子であった。
やはり俺には何処からか猫の鳴き声が聞こえたような気がした。 その声は今にも消えてしまいそうな小さなものであった。
「なんだか苦しそうな声で・・・・・・あっちだ!」猫の鳴き声は路地の中から聞こえた。俺はその方向に導かれるように走っていく。
「あっ、幸太郎君!ちょと 待ってよ」直美が後ろを追いかけてくる。俺達は路地の中に飛び込みひたすら進んでいく。
「あっ」直美が声をあげた。
「ミャー・・・・・・・」やはりそこには傷ついた黒い猫が倒れていた。
猫は鳴き声を出すのが精一杯で体を動かすことが出来ないようだ。俺は手を伸ばしてその体に触れてみる。猫は苦しそうに激しく呼吸を繰り返している。体には無数の傷があり血で体がかなり汚れていた。
「本当に猫がいたんだ・・・・・・、幸太郎君よく聞こえたわね。でもその猫すごい怪我ね、大丈夫かしら?」直美がしゃがみ込み心配そうに覗き込む。
両手で猫の体を抱き上げる。 猫は一瞬警戒した様子ではあったがすぐに脱力した。
「直美・・・・・・・家に連れて返ってもいいかな?」俺は直美の顔を見ながら確認した。
「うん、私は別に構わないけど、でも・・・・・・お母さんに見つかったら・・・・・・きっと怒られるよ」直美は少し俯きながら呟いた。
「でも、このままだと死んでしまうよ。・・・・・・この猫」俺の腕の中で猫は苦しそうな顔を見せている。どうしてもこのままにして帰ることは出来ない。
「分かったわ、でもやっぱり見つからないようにしないと・・・・・お母さん達には内緒よ」彼女は少し渋々ながらも承諾した。
俺の両親は去年の夏、突然の交通事故で二人共亡くなってしまった。
身寄りの無かった俺は遠い親戚であった直美の家に引き取られた。 彼女の家族は両親と彼女のお姉さん、そして妹の五人家族であった。叔父さん、叔母さんと姉妹達は俺を本当の家族のように受け入れてくれた。
この町には小さい頃一緒に何度か両親につれられて来た事があった。その時遊んだ男の子の友達がいた。彼の名前は確かミー君だったと思う。夏休みなど遊びに来た時は男同士で裏山や公園の中を駆けずり回ったものだ。俺はこの町で彼に再会出来る事を密かに楽しみにしているのだが、未だ彼との再会は果たせていない。
「それじゃあ、俺と直美の二人だけの秘密だな」
「ええ!」直美は何故か嬉しそうに顔を赤らめて頷いた。俺と彼女は、同い年の高校一年生。俺が引き取られた直後は初対面のように彼女の対応はよそよそしいものであった。俺も直美の記憶はあまり無くて始めは対応に苦慮したものだ。彼女の二人の姉妹の事は、よく覚えているのだがなぜか彼女の記憶は曖昧であった。
久しぶりに再会した(?)直美の成長は著しかった。 背は俺の目線位まで伸び、髪を腰の辺りまで伸ばし後ろで束ねている。その長い髪を纏《まと》めている桃色のリボンがチャームポイントのようだ。 目は大きくまつ毛が長い、鼻も高く唇も綺麗な形をしている。胸が大きく成長してウエストもくびれて女の子らしい魅力的な体型である。制服のスカートが短いので正面でしゃがみ込まれると少し目のやり場に困る。
最近は、学校の登下校を一緒にするようになり彼女も抵抗なく俺と話をしてくれるようになった。家の中にお父さん以外の男性がいなかったので、最初の頃は男に対しての免疫がなかったのであろう。
直美はスカートのポケットから綺麗な白いハンカチを取り出すと猫の体を包むように巻いてくれた。
もれなく俺達も憂鬱な気持ちで学校から帰宅中であった。授業を受けていても教室には日光の光が入らず、中途半端な蛍光灯の灯りでの授業が行われていた。ポカポカ陽気も眠くなり授業を聞く意欲が無くなるが、曇り続きは気持ちが滅入るというものだ。まあどちらにしても勉強は嫌いということだ。
「ん?」俺は耳をすました。
「なに、どうかしたの?」直美が不思議そうな顔で俺を見た。
「直美、なんだか猫の鳴き声が聞こえないか?」今にも消えそうな鳴き声が耳に聞こえる。
「え、そうかな・・・・・・私にはなにも聞こえないけど」直美も耳を澄まして聞こうとしたが彼女には俺が言うその鳴き声が聞こえない様子であった。
やはり俺には何処からか猫の鳴き声が聞こえたような気がした。 その声は今にも消えてしまいそうな小さなものであった。
「なんだか苦しそうな声で・・・・・・あっちだ!」猫の鳴き声は路地の中から聞こえた。俺はその方向に導かれるように走っていく。
「あっ、幸太郎君!ちょと 待ってよ」直美が後ろを追いかけてくる。俺達は路地の中に飛び込みひたすら進んでいく。
「あっ」直美が声をあげた。
「ミャー・・・・・・・」やはりそこには傷ついた黒い猫が倒れていた。
猫は鳴き声を出すのが精一杯で体を動かすことが出来ないようだ。俺は手を伸ばしてその体に触れてみる。猫は苦しそうに激しく呼吸を繰り返している。体には無数の傷があり血で体がかなり汚れていた。
「本当に猫がいたんだ・・・・・・、幸太郎君よく聞こえたわね。でもその猫すごい怪我ね、大丈夫かしら?」直美がしゃがみ込み心配そうに覗き込む。
両手で猫の体を抱き上げる。 猫は一瞬警戒した様子ではあったがすぐに脱力した。
「直美・・・・・・・家に連れて返ってもいいかな?」俺は直美の顔を見ながら確認した。
「うん、私は別に構わないけど、でも・・・・・・お母さんに見つかったら・・・・・・きっと怒られるよ」直美は少し俯きながら呟いた。
「でも、このままだと死んでしまうよ。・・・・・・この猫」俺の腕の中で猫は苦しそうな顔を見せている。どうしてもこのままにして帰ることは出来ない。
「分かったわ、でもやっぱり見つからないようにしないと・・・・・お母さん達には内緒よ」彼女は少し渋々ながらも承諾した。
俺の両親は去年の夏、突然の交通事故で二人共亡くなってしまった。
身寄りの無かった俺は遠い親戚であった直美の家に引き取られた。 彼女の家族は両親と彼女のお姉さん、そして妹の五人家族であった。叔父さん、叔母さんと姉妹達は俺を本当の家族のように受け入れてくれた。
この町には小さい頃一緒に何度か両親につれられて来た事があった。その時遊んだ男の子の友達がいた。彼の名前は確かミー君だったと思う。夏休みなど遊びに来た時は男同士で裏山や公園の中を駆けずり回ったものだ。俺はこの町で彼に再会出来る事を密かに楽しみにしているのだが、未だ彼との再会は果たせていない。
「それじゃあ、俺と直美の二人だけの秘密だな」
「ええ!」直美は何故か嬉しそうに顔を赤らめて頷いた。俺と彼女は、同い年の高校一年生。俺が引き取られた直後は初対面のように彼女の対応はよそよそしいものであった。俺も直美の記憶はあまり無くて始めは対応に苦慮したものだ。彼女の二人の姉妹の事は、よく覚えているのだがなぜか彼女の記憶は曖昧であった。
久しぶりに再会した(?)直美の成長は著しかった。 背は俺の目線位まで伸び、髪を腰の辺りまで伸ばし後ろで束ねている。その長い髪を纏《まと》めている桃色のリボンがチャームポイントのようだ。 目は大きくまつ毛が長い、鼻も高く唇も綺麗な形をしている。胸が大きく成長してウエストもくびれて女の子らしい魅力的な体型である。制服のスカートが短いので正面でしゃがみ込まれると少し目のやり場に困る。
最近は、学校の登下校を一緒にするようになり彼女も抵抗なく俺と話をしてくれるようになった。家の中にお父さん以外の男性がいなかったので、最初の頃は男に対しての免疫がなかったのであろう。
直美はスカートのポケットから綺麗な白いハンカチを取り出すと猫の体を包むように巻いてくれた。
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