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バーニング・エンジェルズ・アライブ(ヒーロー編)
気持ち悪いです……。
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数日の間、病欠という事で、俺は学校を休学している。
「はぁ~・・・・・・」ミサキの口からは、ため息しか出てこない・・・・・・。 ため息をすると不幸になるとよく聞くが、昔の人の言葉は本当なのだとミサキは考えていた。
あの騒動から数日が経過したが、原因は全くもって不明なのであるがミサキの体は、本来の男の岬樹の姿に戻らないままになっていた。 他のバーニ達は、カプセルを服用せずとも自由に姿を変更できるのでこのような事は無いとのことであった。
男の姿に戻らないか限り、ミサキの体の機能も女性そのものであった。 トイレ、入浴は自分の目に入らないように目隠しをしながら行っている。
女性とのお付き合いの経験も皆無の彼にとっては、刺激の強すぎる日々が続き、彼、いや彼女の頬はゲッソリとこけていた。
ミサキは、直美と一緒に買い物に出かけていた。
男の体でのデートであれば、心も弾むのであろうが女の体のままでは気分は半減するというものだ。もしかして、このまま体が元に戻らないのでは無いかと落ち込んでいた時に、気晴らしに買い物にでも行こうと直美に声をかけられた。
最初の頃は、女の姿で街に出るなどとんでもないと思ったが、強引な直美に連れ出された。
街に出るのに、バトルスーツのままでは目立つということで、テレビのアイドルが着ていた服を思い浮かべて、右肩を握りしめた。ミサキの体は紫色の光を発して可愛い服に変身した。 黒のTシャツに、ジーンズ地のショートスカート。 頭にはキュートなキャップが乗っている。
「凄く可愛い!!」直美はミサキの姿を見て歓喜の声を上げた。
ミサキと直美は、電車を乗り継ぎ繁華街に繰り出した。 そこはつい先日、カトリーナという女と戦ったビルの近くであった。
「お嬢さん、お暇ですか?」突然、男に声をかけられる。
男に声をかけられて喜ぶ趣味は無いし、どうせ、英会話の勧誘とか、着物の押し売りと思いぶっきらぼうに返事を返す。
「結構です!あれっ?」見慣れた顔が目の前にある。
「村上、・・・・・・どうして・・・・・・?」それは岬樹と同じクラスの悪友である村上であった。
「えーと、どうして僕の名前をご存じで?もしかして知り合いでしたっけ・・・・・・・?」村上がキョトンとした顔でミサキの顔を見ている。
「いえ!・・・・・・存じません!」ミサキは顔を背けて、直美の後ろに隠れて下を向いた。
「えーと。こちらは・・・・・・・!」村上は直美を見つけて驚愕の声を上げた。
「な、直美様!もしやあなたは、覇王女学院の・・・・・・」村上は2・3歩後ろへたじろいだ。
「あっ、貴方は岬樹さんのお友達の・・・・・・ムラヤマさん?」
「村上です!僕を覚えておいでですか、感激です! それでは、こちらも覇王女学院の・・・・・・」
「直美さん! 行きましょう!」ミサキは直美の手を握り走り出した。
「ちょ、ちょっと・・・・・・・」急な事に、村上は対応できずに、走っていく二人を見送った。
「はぁはぁ、ミサキさん、少し待って!それじゃあ村田さん、さよなら!」直美が精一杯の声を上げた。
「村上でーす」遠くで彼の声が聞こえたような気がした。
「ちょっと待ってください!私、今はバーニでは無いのでそんなに早く走れません!」息を切らして、直美は告げた。今の彼女の状態は、パソコンに例えて言ってみればスリープモードのようなものでありバーニの能力は封印されているのだそうだ。
「あっ、すいません!俺、気が付かなくて・・・・・・」ミサキが、バーニである自分のペースで走ったので、直美は宙に浮いたような状態になっていた。
「もう、知りません!」直美は少し拗ねたように後ろを向いた。
「ご、ごめんなさい! ぼ、俺・・・・・・」ミサキは落ち込んだように、手に持ったキャップを握りしめてひたすら謝った。
「ウフフ!」後ろを向いたまま、笑い声が聞こえた。
「えっ、ウフフ?」振り向いた直美は、可愛く微笑んでいた。
「私こそ、ごめんなさい。 でも、ミサキさん・・・・・・・、落ち込んだ顔も可愛いですね」直美は、少しだけしゃがみ、ミサキの顔を下から見上げた。
「もう、知らない!」ミサキは少し女の子のような反応をしてしまった。
「可愛いいいいい!!」やはり直美は、あちら側の方なのかと、ミサキは少し疑心暗鬼になっていた。
「お嬢さん達、お暇ですか?」また、声をかけられる。 また、村上かと思いミサキは振り向いた。
「もう、いいって・・・・・・」そこにいたのは、見覚えの無い素行の悪そうな男達であった。
「ねえ、君綺麗だね~!これから僕たちと遠くにいかない!」男達は執拗に声をかける。
「・・・・・・」ミサキと直美は無視したまま、人混みの中を歩いていく。
「ちょっと、良い仕事紹介するよ!」黒服男が少女の肩を掴んだ。
「カラオケだけでのいいからさ!一緒にいかないか?」
「・・・・・・もぉ~、うるさい! 俺達の事はほっておいてくれ!」肩に乗った黒服男の手を払いのけた。
「あっ、ボーイッシュなの?可愛いな、そのショートパンツ」男は舌なめずりするように、ミサキの足をジッと蛇のような視線で見ていた。
「もう止めてください!」直美も少し頭に血が上ってきた様子である。
「子供じゃないんだからさあ、解かるだろう。お金もいっぱい稼げちゃうぜ」男は唇を尖らせてキスでも求めるような仕草をする。
「いい加減にしないと、本当に痛い目を見るぞ!」ミサキはキッとした目で睨みつけて、近づいてきた男の黒服男の顔面を手で押しのけた。
「怒った顔もかわいいー!」黒服男に引く気配は無い。
「優しくしてるからって、つけあがるんじゃねえよ!」男はミサキの腕を掴み引っ張っていこうとする。その先には、いかにも黒塗りで車高を下げた車が後部ドアを開けて待ち構えている。
「お前も一緒に来い!」もう一人が直美の腕を掴んだ。
「このっ・・・・・・!」ミサキが歯を食いしばり、怒った表情を見せた。同時に瞳が紫色に染まり、全身から紫色のオーラのような光がかすかに発生する。
「お前達、いい加減にしておけ!」一人の青年が男の肩を掴み静止する。
「なんだ、お前は!引っ込んでいろ!」肩の手を払い退けてから、黒服男は青年の顔面めがけて拳を振り投げてくる。
青年は利き手で受けると相手の軸足を払いのけたかと思うと、合気道の技のように男を投げた。
「ぐっ・・・・・・いてててて!」青年は倒れた男の手首を捻り動けないように関節を極めている。
「なにしやがる!」もう一人の男が上段蹴りを放ってきた。空手か何かの心得がある様子だ。
青年は、眼前に近づいてきた蹴りを、頭を軽く傾けてかわし空いている手で流した。蹴った黒服男は半回転をして青年に背を向けた。
上着の襟を掴んで引き倒し、倒れている男の上に重ねた。下敷きになった黒服男が「ギャフン!」と犬のような声を上げた。上に重なった男の鳩尾に軽く突きを入れた。
「うげっ!」悲鳴をあげて上に乗っていた男は悶絶した。
ミサキ達は一瞬の出来事に唖然とした様子だった。
「大丈夫ですか?」青年はミサキ達の傍により声をかけた。
「有難うございます!」直美は精一杯頭を下げてお礼を言った。
「あっ、あんたは・・・・・・!」ミサキはその青年の顔に見覚えがあった、先日のカトリーナ騒ぎの時にナオミと一緒にいた男だ。
「どうしたの、ミサキちゃん、あっ!」どうやら直美も気が付いた様子であった。直美は、今の自分の姿が彼の知っている姿と違う事を思い出した。
「いいえ、どういたしまして・・・・・・ 」狩屋は二人の少女の安否を確認して微笑んだ。
「ハァハァハア・・・・・・!急に、どうしたの?」狩屋の後を追って少女が息を切らせながら駆け寄ってきた。
「あっ御免!この子達が、チンピラに絡まれてから・・・・・・」狩屋は少女の方を振り返った。つられてミサキと直美も少女に目をやった。
黒い髪のポニーテール、大きな胸と縊れた腰、程よいお尻。膝上のスカートから覗くカモシカのように美しい二本の足。そして・・・・・・少女は見慣れた制服を着ていた。
少女は、両手を膝の上に添えながら、息を切らしている。
「なんだ、彼女がいるんだ・・・・・」ミサキは少し安堵の表情をした。ただ、直美はかなりガッカリしているだろうと思いつつ彼女の様子を確認した。 だが、ミサキの思惑は外れて、意外と直美は平気そうな顔をしているように感じた。
「彼女だなんて・・・・・・こいつは、俺の妹だよ!」狩屋はミサキの言葉を聞いて否定しながら、隣の少女の頭を優しく撫でた。
「本当ですか、でも妹はたしか有紀さんだけじゃなかったのですか?」直美は以前通っていた学校で、狩屋の妹の有紀とは仲の良い友人であった。ただ、その頃の直美は、今の姿ではなかったので、狩屋には認識されたいないようである。
「ああ、本当に妹だよ・・・・・・・、俺達三人兄妹で、有紀の他にもう一人妹がいるんだ。あれ、でもどうして有紀の事を知っているの?」狩屋は不思議そうな顔をして直美の顔を見た。
「あっ、いいえ、防工に友達がいるものですから、大久保さんとか・・・・・・・、ナオミさんとか」後ろの一歩下がりながら返答した。
狩屋の妹である有紀からは、もう一人姉妹がいることは一度も聞いたことが無かった。
「そうなんだ、美穂ちゃんと有紀の友達だったんだ」狩屋の顔が緩んだ。
「はじめまして、次女の妹の瑞希です」初めて会ったのに屈託の無い笑顔で狩屋の妹、瑞希みずきは挨拶をした。
(あれ、こいつは・・・・・・)ミサキは、瑞希の顔を見てハッと気が付いた。 狩屋 瑞希、同じクラスの同級生だ。 よくよく見ると見慣れた制服は、岬樹の通う西高のものであった。
(あっ!)先日、岬樹のことをキモイと言ったのもこの『狩屋 瑞希』であった。そして、生徒達の中から鋭い目つきで、バーニ達を見つめていたのもこの娘だった。
「貴女は、どこかで・・・・・・?」瑞希が、何かに気が付いたように口を開いた。
(えっ、気づかれた! ・・・・・・いや、今は女の体のはず!)ミサキは、瑞希が自分に気が付いたのかと驚いた。
「おほほほほ、気のせいですわ」ミサキの大根役者ぶりに直美は呆れた。
「覇王女学院の・・・・・・、総持寺さんですよね?」瑞希は少し興奮気味に声をあげた。
「えっ、お前このお嬢さんと知り合いなのか?」狩屋は瑞希の顔を見た。
「このお方は、覇王女学院の六星ビーナスで有名な総持寺直美様よ!」瑞希の興奮は冷めやらない様子であった。 それにしても、色々なキャッチコピーを思いつくものだとミサキは感心する。
直美は顔を赤らめて小さくなっていた。
「ふーん、そうなんだ! ヨロシクね。君も直美さんか・・・・・・・それと」狩屋がミサキの方を見ると鬼のような形相にミサキの顔が変わっていた。
「ミ・サ・キ・で・す! ヨ・ロ・シ・ク!」犬が威嚇するような顔で、ミサキは自分の名前を言った。
「あっ、どうも・・・・・・」狩屋は、少し後ろにたじろいだ。
「この辺は、ああいう連中が多いから、気をつけたほうがいいよ」狩屋は警察官らしい口調で注意を促した。
「先ほどは、本当にありがとうございました・・・・・・」直美は丁寧に頭を下げた。
「総持寺さん達は、買い物ですか?」瑞希が声をかけた。
「ええ、ついでに映画でも見ようかなって・・・・・・」直美は瑞希の質問に答えた。
「偶然ですね! 私達も映画を見に来たのです。 総持寺さん達なら、面白い映画見るのでしょうね・・・・・・。 それに引き換え兄ときたら、ゾンビ物ばかりで・・・・・・」瑞希は残念そうな顔をして両手を上げた。
「そ、そうなんですか・・・・・・、それは変わったご趣味ですね」直美は愛想笑いを瑞希に返した。
直美の鞄の中にゾンビの映画のチケットが入っていることをミサキは知っている。
「うっ!」ミサキが直美の服を引っ張った。
「どうしたんですか? ミサキさん・・・・・・」直美は、狩屋達との時間を邪魔するなと言わんばかりに不快感をしめした。
「元に、戻りそう・・・・・・」小さな声で、ミサキが呟いた。
「えっ?何?」直美は聞き返した。
「男に戻りそうなんだよ!」両手を握りしめてミサキはアピールした。
「どうかしたの?」ミサキ達の様子を見ながら、狩屋は訝いぶかしげに聞いた。
「おっ、おトイレに行きたいので・・・・・・、失礼します!」ミサキは直美の手を握りしめると一目散に走っていった。
「あっ、ちょっと!待って・・・・・・!」直美は有無を言う暇も無く連行されていった。
「凄いな・・・・・・」狩屋は目の前から消えた、少女達に唖然としていた。
「あの、ミサキっていう子・・・・・・、どこかで・・・・・・」瑞希は頬杖ほおづえをついて首を傾げた。
ミサキは、人影の無い駐車場に飛び込み、車の陰に隠れた。 ミサキの体が輝きながら、男の体に変化した。
「ふ~、やっと元に戻った・・・・・・」岬樹は安堵のため息をついた。
「岬樹さん・・・・・・、その格好・・・・・・、可愛くないです・・・・・・」直美は汚い物を見るような顔をしながら、岬樹の体を指差した。
「えっ?」男に戻った岬樹は自分の体を見た。
先ほどまで、ミサキが可愛く着こなしていた服を、今にも弾けそうな感じで身に纏っていた。
「いやーん・・・・・」岬樹は股間の辺りを手で隠しながら、直美から背を向けた。
「気持ち悪いです・・・・・・」直美はゲンナリした顔で感想を述べた。
「はぁ~・・・・・・」ミサキの口からは、ため息しか出てこない・・・・・・。 ため息をすると不幸になるとよく聞くが、昔の人の言葉は本当なのだとミサキは考えていた。
あの騒動から数日が経過したが、原因は全くもって不明なのであるがミサキの体は、本来の男の岬樹の姿に戻らないままになっていた。 他のバーニ達は、カプセルを服用せずとも自由に姿を変更できるのでこのような事は無いとのことであった。
男の姿に戻らないか限り、ミサキの体の機能も女性そのものであった。 トイレ、入浴は自分の目に入らないように目隠しをしながら行っている。
女性とのお付き合いの経験も皆無の彼にとっては、刺激の強すぎる日々が続き、彼、いや彼女の頬はゲッソリとこけていた。
ミサキは、直美と一緒に買い物に出かけていた。
男の体でのデートであれば、心も弾むのであろうが女の体のままでは気分は半減するというものだ。もしかして、このまま体が元に戻らないのでは無いかと落ち込んでいた時に、気晴らしに買い物にでも行こうと直美に声をかけられた。
最初の頃は、女の姿で街に出るなどとんでもないと思ったが、強引な直美に連れ出された。
街に出るのに、バトルスーツのままでは目立つということで、テレビのアイドルが着ていた服を思い浮かべて、右肩を握りしめた。ミサキの体は紫色の光を発して可愛い服に変身した。 黒のTシャツに、ジーンズ地のショートスカート。 頭にはキュートなキャップが乗っている。
「凄く可愛い!!」直美はミサキの姿を見て歓喜の声を上げた。
ミサキと直美は、電車を乗り継ぎ繁華街に繰り出した。 そこはつい先日、カトリーナという女と戦ったビルの近くであった。
「お嬢さん、お暇ですか?」突然、男に声をかけられる。
男に声をかけられて喜ぶ趣味は無いし、どうせ、英会話の勧誘とか、着物の押し売りと思いぶっきらぼうに返事を返す。
「結構です!あれっ?」見慣れた顔が目の前にある。
「村上、・・・・・・どうして・・・・・・?」それは岬樹と同じクラスの悪友である村上であった。
「えーと、どうして僕の名前をご存じで?もしかして知り合いでしたっけ・・・・・・・?」村上がキョトンとした顔でミサキの顔を見ている。
「いえ!・・・・・・存じません!」ミサキは顔を背けて、直美の後ろに隠れて下を向いた。
「えーと。こちらは・・・・・・・!」村上は直美を見つけて驚愕の声を上げた。
「な、直美様!もしやあなたは、覇王女学院の・・・・・・」村上は2・3歩後ろへたじろいだ。
「あっ、貴方は岬樹さんのお友達の・・・・・・ムラヤマさん?」
「村上です!僕を覚えておいでですか、感激です! それでは、こちらも覇王女学院の・・・・・・」
「直美さん! 行きましょう!」ミサキは直美の手を握り走り出した。
「ちょ、ちょっと・・・・・・・」急な事に、村上は対応できずに、走っていく二人を見送った。
「はぁはぁ、ミサキさん、少し待って!それじゃあ村田さん、さよなら!」直美が精一杯の声を上げた。
「村上でーす」遠くで彼の声が聞こえたような気がした。
「ちょっと待ってください!私、今はバーニでは無いのでそんなに早く走れません!」息を切らして、直美は告げた。今の彼女の状態は、パソコンに例えて言ってみればスリープモードのようなものでありバーニの能力は封印されているのだそうだ。
「あっ、すいません!俺、気が付かなくて・・・・・・」ミサキが、バーニである自分のペースで走ったので、直美は宙に浮いたような状態になっていた。
「もう、知りません!」直美は少し拗ねたように後ろを向いた。
「ご、ごめんなさい! ぼ、俺・・・・・・」ミサキは落ち込んだように、手に持ったキャップを握りしめてひたすら謝った。
「ウフフ!」後ろを向いたまま、笑い声が聞こえた。
「えっ、ウフフ?」振り向いた直美は、可愛く微笑んでいた。
「私こそ、ごめんなさい。 でも、ミサキさん・・・・・・・、落ち込んだ顔も可愛いですね」直美は、少しだけしゃがみ、ミサキの顔を下から見上げた。
「もう、知らない!」ミサキは少し女の子のような反応をしてしまった。
「可愛いいいいい!!」やはり直美は、あちら側の方なのかと、ミサキは少し疑心暗鬼になっていた。
「お嬢さん達、お暇ですか?」また、声をかけられる。 また、村上かと思いミサキは振り向いた。
「もう、いいって・・・・・・」そこにいたのは、見覚えの無い素行の悪そうな男達であった。
「ねえ、君綺麗だね~!これから僕たちと遠くにいかない!」男達は執拗に声をかける。
「・・・・・・」ミサキと直美は無視したまま、人混みの中を歩いていく。
「ちょっと、良い仕事紹介するよ!」黒服男が少女の肩を掴んだ。
「カラオケだけでのいいからさ!一緒にいかないか?」
「・・・・・・もぉ~、うるさい! 俺達の事はほっておいてくれ!」肩に乗った黒服男の手を払いのけた。
「あっ、ボーイッシュなの?可愛いな、そのショートパンツ」男は舌なめずりするように、ミサキの足をジッと蛇のような視線で見ていた。
「もう止めてください!」直美も少し頭に血が上ってきた様子である。
「子供じゃないんだからさあ、解かるだろう。お金もいっぱい稼げちゃうぜ」男は唇を尖らせてキスでも求めるような仕草をする。
「いい加減にしないと、本当に痛い目を見るぞ!」ミサキはキッとした目で睨みつけて、近づいてきた男の黒服男の顔面を手で押しのけた。
「怒った顔もかわいいー!」黒服男に引く気配は無い。
「優しくしてるからって、つけあがるんじゃねえよ!」男はミサキの腕を掴み引っ張っていこうとする。その先には、いかにも黒塗りで車高を下げた車が後部ドアを開けて待ち構えている。
「お前も一緒に来い!」もう一人が直美の腕を掴んだ。
「このっ・・・・・・!」ミサキが歯を食いしばり、怒った表情を見せた。同時に瞳が紫色に染まり、全身から紫色のオーラのような光がかすかに発生する。
「お前達、いい加減にしておけ!」一人の青年が男の肩を掴み静止する。
「なんだ、お前は!引っ込んでいろ!」肩の手を払い退けてから、黒服男は青年の顔面めがけて拳を振り投げてくる。
青年は利き手で受けると相手の軸足を払いのけたかと思うと、合気道の技のように男を投げた。
「ぐっ・・・・・・いてててて!」青年は倒れた男の手首を捻り動けないように関節を極めている。
「なにしやがる!」もう一人の男が上段蹴りを放ってきた。空手か何かの心得がある様子だ。
青年は、眼前に近づいてきた蹴りを、頭を軽く傾けてかわし空いている手で流した。蹴った黒服男は半回転をして青年に背を向けた。
上着の襟を掴んで引き倒し、倒れている男の上に重ねた。下敷きになった黒服男が「ギャフン!」と犬のような声を上げた。上に重なった男の鳩尾に軽く突きを入れた。
「うげっ!」悲鳴をあげて上に乗っていた男は悶絶した。
ミサキ達は一瞬の出来事に唖然とした様子だった。
「大丈夫ですか?」青年はミサキ達の傍により声をかけた。
「有難うございます!」直美は精一杯頭を下げてお礼を言った。
「あっ、あんたは・・・・・・!」ミサキはその青年の顔に見覚えがあった、先日のカトリーナ騒ぎの時にナオミと一緒にいた男だ。
「どうしたの、ミサキちゃん、あっ!」どうやら直美も気が付いた様子であった。直美は、今の自分の姿が彼の知っている姿と違う事を思い出した。
「いいえ、どういたしまして・・・・・・ 」狩屋は二人の少女の安否を確認して微笑んだ。
「ハァハァハア・・・・・・!急に、どうしたの?」狩屋の後を追って少女が息を切らせながら駆け寄ってきた。
「あっ御免!この子達が、チンピラに絡まれてから・・・・・・」狩屋は少女の方を振り返った。つられてミサキと直美も少女に目をやった。
黒い髪のポニーテール、大きな胸と縊れた腰、程よいお尻。膝上のスカートから覗くカモシカのように美しい二本の足。そして・・・・・・少女は見慣れた制服を着ていた。
少女は、両手を膝の上に添えながら、息を切らしている。
「なんだ、彼女がいるんだ・・・・・」ミサキは少し安堵の表情をした。ただ、直美はかなりガッカリしているだろうと思いつつ彼女の様子を確認した。 だが、ミサキの思惑は外れて、意外と直美は平気そうな顔をしているように感じた。
「彼女だなんて・・・・・・こいつは、俺の妹だよ!」狩屋はミサキの言葉を聞いて否定しながら、隣の少女の頭を優しく撫でた。
「本当ですか、でも妹はたしか有紀さんだけじゃなかったのですか?」直美は以前通っていた学校で、狩屋の妹の有紀とは仲の良い友人であった。ただ、その頃の直美は、今の姿ではなかったので、狩屋には認識されたいないようである。
「ああ、本当に妹だよ・・・・・・・、俺達三人兄妹で、有紀の他にもう一人妹がいるんだ。あれ、でもどうして有紀の事を知っているの?」狩屋は不思議そうな顔をして直美の顔を見た。
「あっ、いいえ、防工に友達がいるものですから、大久保さんとか・・・・・・・、ナオミさんとか」後ろの一歩下がりながら返答した。
狩屋の妹である有紀からは、もう一人姉妹がいることは一度も聞いたことが無かった。
「そうなんだ、美穂ちゃんと有紀の友達だったんだ」狩屋の顔が緩んだ。
「はじめまして、次女の妹の瑞希です」初めて会ったのに屈託の無い笑顔で狩屋の妹、瑞希みずきは挨拶をした。
(あれ、こいつは・・・・・・)ミサキは、瑞希の顔を見てハッと気が付いた。 狩屋 瑞希、同じクラスの同級生だ。 よくよく見ると見慣れた制服は、岬樹の通う西高のものであった。
(あっ!)先日、岬樹のことをキモイと言ったのもこの『狩屋 瑞希』であった。そして、生徒達の中から鋭い目つきで、バーニ達を見つめていたのもこの娘だった。
「貴女は、どこかで・・・・・・?」瑞希が、何かに気が付いたように口を開いた。
(えっ、気づかれた! ・・・・・・いや、今は女の体のはず!)ミサキは、瑞希が自分に気が付いたのかと驚いた。
「おほほほほ、気のせいですわ」ミサキの大根役者ぶりに直美は呆れた。
「覇王女学院の・・・・・・、総持寺さんですよね?」瑞希は少し興奮気味に声をあげた。
「えっ、お前このお嬢さんと知り合いなのか?」狩屋は瑞希の顔を見た。
「このお方は、覇王女学院の六星ビーナスで有名な総持寺直美様よ!」瑞希の興奮は冷めやらない様子であった。 それにしても、色々なキャッチコピーを思いつくものだとミサキは感心する。
直美は顔を赤らめて小さくなっていた。
「ふーん、そうなんだ! ヨロシクね。君も直美さんか・・・・・・・それと」狩屋がミサキの方を見ると鬼のような形相にミサキの顔が変わっていた。
「ミ・サ・キ・で・す! ヨ・ロ・シ・ク!」犬が威嚇するような顔で、ミサキは自分の名前を言った。
「あっ、どうも・・・・・・」狩屋は、少し後ろにたじろいだ。
「この辺は、ああいう連中が多いから、気をつけたほうがいいよ」狩屋は警察官らしい口調で注意を促した。
「先ほどは、本当にありがとうございました・・・・・・」直美は丁寧に頭を下げた。
「総持寺さん達は、買い物ですか?」瑞希が声をかけた。
「ええ、ついでに映画でも見ようかなって・・・・・・」直美は瑞希の質問に答えた。
「偶然ですね! 私達も映画を見に来たのです。 総持寺さん達なら、面白い映画見るのでしょうね・・・・・・。 それに引き換え兄ときたら、ゾンビ物ばかりで・・・・・・」瑞希は残念そうな顔をして両手を上げた。
「そ、そうなんですか・・・・・・、それは変わったご趣味ですね」直美は愛想笑いを瑞希に返した。
直美の鞄の中にゾンビの映画のチケットが入っていることをミサキは知っている。
「うっ!」ミサキが直美の服を引っ張った。
「どうしたんですか? ミサキさん・・・・・・」直美は、狩屋達との時間を邪魔するなと言わんばかりに不快感をしめした。
「元に、戻りそう・・・・・・」小さな声で、ミサキが呟いた。
「えっ?何?」直美は聞き返した。
「男に戻りそうなんだよ!」両手を握りしめてミサキはアピールした。
「どうかしたの?」ミサキ達の様子を見ながら、狩屋は訝いぶかしげに聞いた。
「おっ、おトイレに行きたいので・・・・・・、失礼します!」ミサキは直美の手を握りしめると一目散に走っていった。
「あっ、ちょっと!待って・・・・・・!」直美は有無を言う暇も無く連行されていった。
「凄いな・・・・・・」狩屋は目の前から消えた、少女達に唖然としていた。
「あの、ミサキっていう子・・・・・・、どこかで・・・・・・」瑞希は頬杖ほおづえをついて首を傾げた。
ミサキは、人影の無い駐車場に飛び込み、車の陰に隠れた。 ミサキの体が輝きながら、男の体に変化した。
「ふ~、やっと元に戻った・・・・・・」岬樹は安堵のため息をついた。
「岬樹さん・・・・・・、その格好・・・・・・、可愛くないです・・・・・・」直美は汚い物を見るような顔をしながら、岬樹の体を指差した。
「えっ?」男に戻った岬樹は自分の体を見た。
先ほどまで、ミサキが可愛く着こなしていた服を、今にも弾けそうな感じで身に纏っていた。
「いやーん・・・・・」岬樹は股間の辺りを手で隠しながら、直美から背を向けた。
「気持ち悪いです・・・・・・」直美はゲンナリした顔で感想を述べた。
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セキトネリ
ライト文芸
2025年初冬、ウクライナ戦役が膠着状態の中、ロシア連邦東部軍管区(旧極東軍管区)は突如北海道北部と佐渡ヶ島に侵攻。総責任者は東部軍管区ジトコ大将だった。北海道はダミーで狙いは佐渡ヶ島のガメラレーダーであった。これは中国の南西諸島侵攻と台湾侵攻を援助するための密約のためだった。同時に北朝鮮は38度線を越え、ソウルを占拠した。在韓米軍に対しては戦術核の電磁パルス攻撃で米軍を朝鮮半島から駆逐、日本に退避させた。
その中、欧州ロシアに対して、東部軍管区ジトコ大将はロシア連邦からの離脱を決断、中央軍管区と図ってオビ川以東の領土を東ロシア共和国として独立を宣言、日本との相互安保条約を結んだ。
佐渡ヶ島侵攻(通称サドガシマ作戦、Operation Sadogashima)の副指揮官はジトコ大将の娘エレーナ少佐だ。エレーナ少佐率いる東ロシア共和国軍女性部隊二千人は、北朝鮮のホバークラフトによる上陸作戦を陸自水陸機動団と阻止する。
※このシリーズはカクヨム版「サドガシマ作戦(https://kakuyomu.jp/works/16818093092605918428)」と重複しています。ただし、カクヨムではできない説明用の軍事地図、武器詳細はこちらで掲載しております。
※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
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