【完結作品】どうして僕達は出会ってしまったのだろう。二転三転していく三角関係。どんなに想っても、君は僕の……。『ほのかなひかり』

上条 樹

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写真集

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「しもうた……、赤本買うつもりがこんなも買《こ》うてもうた……」なぜかへんな関西弁を使ってしまった。

「光!入るわよ!」突然、ドアを開けて母親が俺の部屋に入ってくる。

「あわわわわ!入る前にノックをしろっていってるだろ!」俺は突然の襲撃に先ほど買った物を床に落としてしまった。

「なにこれ、エロ本?」床に落ちた本を拾い上げてそれを開いた。それを見て俺は何処かに逃げ出したい気持ちになった。

「アホか!今時エロ本なんか何処にも売ってないわ!」そういえばコンビニでもオリンピックに向けてそういう類いの書籍を扱わなくなったと聞く。期間中に訪れる外国人観光客への配慮らしい。

「あら、これ穂乃花ちゃんの写真集じゃないの!なになに、あんたこれ買ったの?」なにやら嬉しそうな顔をして本を開いている。

「なんか……つい……勢いで……」言い訳が見つからなかった。
 先ほど入った書店のゴールデンコーナーとも云うべき場所に大々的にそれは山積みされていた。

『今、話題沸騰中!渡辺穂乃花写真集追加入荷しました!』

「おおおお!」俺は思わず変な声をあげてしまった。本を見てみようと恐る恐る本を手に取り中を見ようとするがビニールで包装されていた。表紙を見ると見慣れた彼女の笑顔、それを凝視してしまう。端から見ればなにやら超能力で念視でもしようとしてると思われてるかもしれない。

「う、うんうん!」大きな咳払いが聞こえた。

「あっ、すいません……」俺は横に体を反らした。
 頭の禿げた中年の親父が穂乃花《ほのか》の写真集を買っていった。なにやら彼女が汚されたような気がして切なくなってしまった。

 そして決意を固めてその本を持って俺はレジへと向かったのだった。

「この本ならお父さんから何冊か送ってきてたわよ。サイン入りのやつ」母のその言葉を聞いてずっこけた。

「それなら早く教えてくれよ!結構高かったんだぞ!」大学入試の赤本を買うお金が無駄に消えてしまった。

「だって、まさか妹の裸に興味があるなんて思わなかったから……」なぜか恥ずかしい物でも見るような目で俺の事を見る。

「アホか!裸なんか写ってないわ!エロ本と違うっちゅうねん!で、何か用があったんだろ!?」母の手から本を奪い取る。

「ああ、お父さんが今晩一緒に食事しないかって、穂乃花ちゃんとひなちゃんも一緒に……、どうする?」最近、母と渡辺直人こと俺の父親は完全に復縁ムードになっているようだ。俺達抜きでも結構頻繁に二人で会っている様子であった。

「俺はパス!」なんだか穂乃花《ほのか》に会うことがストレスになるような気がした。

「そうなの、そんな写真集まで買ってるくせに、本物に会えるのよ」子供の心親知らず、本当にほっといて欲しい。

「もう、いいって」俺は頑なに断った。

「そう、後で後悔しても知らないわよ」言いながら扉を閉めたと思ったらもう一度隙間から顔を覗かせた。

「その本で変なことしたら駄目よ」ニコリと微笑んだ。

「うるへー!」俺は扉に写真集を投げつけた。
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