【完結作品】どうして僕達は出会ってしまったのだろう。二転三転していく三角関係。どんなに想っても、君は僕の……。『ほのかなひかり』

君もそう思うよね。

　夕食が終わり、そろそろ胆試しの時間がやってきた。

　委員会のメンバーは、準備に追われている様子であった。俺は、胆試しのイベントに関しては特に役割も無く、部屋の畳の上に寝転び食後に休憩を謳歌していた。

「皆さん、お楽しみの胆試しの時間がやってまいりました！今から10分後に、ホテルのロビーに集合してください！」このイベントのまとめ役でもある友伽里の声がスピーカーから聞こえ学生達に集合を即した。
　集合の号令を聞いて各部屋から皆集まってくる。ある者はテンションを上げて、ある者はダラダラと歩いていく。お前らはゾンビか……。

「よっこらしょっと･･････」半分眠りの状態であった体を無理に覚醒させて、俺もロビーに向かう。かく言う俺もどちらかと云うとゾンビグループである。

「よっ！」ちょうど階段の辺りで、穂乃果と鉢合わせになる。白いパーカーに青いショートパンツ、あまり日に焼けていない白い四肢が綺麗だ。俺は少し業とらしいかと思われるかもしれないと思いながら、目の前で手刀を切った。

「どうも･･････」なんだかよそよそしい返事ではあった。

「だるいよな･･････、胆試し」素直な感想であった。

「本当ね、もう少しゆっくりさせてくれたらいいのに･･････」どうやら彼女も、このイベントには気が乗らないらしい。同意見であることがなぜか嬉しい。

　階段を下まで降りると、なにやら委員同士でもめている様子であった。

「ちょっと、なにそれ？そんな事、私は聞いてないわよ！」友伽里が一人だけ凄い剣幕で怒っている。

「だって、くじ引きでペアを決めたほうが公平でしょう」同じ委員の桂川と言い争っているようである。

「どうしたんだ？なにかあったのか」俺は仲裁をするつもりなど毛頭ないが興味本意で聞いてみた。

「どうしたもこうしたもないわよ！胆試しのペアは各自好きなもの同士でって委員会で決めたはずなのに、知らない間にルールを変更して、ペアの組み合わせをくじ引きで決めるって言うのよ、そんな事聞いてないわ！」友伽里はかなり頭に来ているようであった。

「だって、好きなもの同士にって公平じゃないわ！強引に押しきられてペアを組む人もいるでしょうし、一緒に行きたい人が重なったらどうするのよ！みんな口には出さないけれど一緒に行きたい人がいる筈よ！」その瞬間、女子達がウンウンと云う風に頷いた後、彼女達の目が一斉に俺に向けられた。どうやら意見を求められているようだ。

「そ、そうだな、桂川の言う通りくじで決めたほうが公平じゃないかな……、それにそのほうが確かに後腐れはないよな」俺がそう言った途端、なぜか女子生徒達の中から歓声があがった。
　堂島がニヤニヤしながら肘で俺の腕をグリグリ押してきた。こいつの行動の意味が解からずに押し返す。

「光君がそう言うなら･･････仕方ないわ……」友伽里はなんだか、納得のいかない顔をしている。

「でも、今からくじ引きを作っていたら、胆試しなんてできないんじゃないの？」堂島が珍しく発言する。その言葉を聞いて友伽里がその通りだと思ったのか一瞬ニヤリとしたような気がした。

「大丈夫よ、ちゃんと用意してあるから」桂川の腕の中には青く四角い正方形の箱があった。その箱の上には丸い穴が開けられており、あきらかに抽選箱であった。彼女の足元には、もう一つピンクの箱が置かれている。

「なんだよ、確信犯じゃねえか」結局は友伽里だけが、蚊帳の外であったということであろう。彼女は少し顔を赤くして怒っている様子である。

　俺は何気なく穂乃果の姿を探す。彼女は興味が無いようでパーカーの帽子を頭に被り、両手をポケットに入れて壁に凭れて立っている。目を瞑ってまるで黙想でもしているようだ。

「それじゃあ箱の中に紙が入っているから、一人一枚ずつ引いてください。男子は青い箱、女子はピンクの箱でお願いします」怒りが収まらない様子の友伽里に変わり、桂川が仕切り始めた。
　その言葉に従い皆順番に箱の中に手を入れて紙を取り出した。

「あっ、番号はまだ見ないでください。後で順番に確認しますから！」桂川が大きな声を張り上げる。
　俺の順番が回ってきた、なぜかロビー中に言葉では表現出来ない感じの緊張が走る。箱の中に手を入れて一番最初に触れた紙を掴み取り出した。

「はい、次は堂島くんよ」

「はいはいはい！」堂島は張り切って箱に手を入れた。

「全員番号を取りましたか？」

「あっ、私まだです･･････」声の方向を見ると、穂乃果が遠慮がちに右手を挙げながら歩いてきた。

「それじゃあ渡辺さんで最後ね」桂川がピンクの箱の穴を穂乃果の方に向けた。

「ありがとう･･････」言いながら彼女は箱の中に手を入れる。

「残り福だと良いわね」桂川はそう言ったが、何が福なのかはさっぱり理解できない。

「じゃあ、順番に番号を読み上げていくから呼ばれたら手を挙げてください･･････、１番」

「はい」1番を引いたと思われる男女が手を挙げる。ちなみに俺の番号は１４番であった。

「それでは、二人ペアになってください。次、2番」

「はーい」また、２番を引いたと思われる男女が手を挙げる。なにやらキャッキャと盛り上がっている様子である。

「３番、はい！」どうやら桂川は、３番の紙を引いたようである。「はいはいはいはい！」同時に、堂島が、激しく自己アピールをしながら両手を挙げた。その瞬間、桂川はなぜか悲しそうな顔で俺のほうを見た。

「･･････次、４番･･･････」明らかに彼女のテンションが下がったようである。番号の発表はどんどん進められている。そして、残りは二組だけであった。どうやら、友伽里もまだ番号を呼ばれていないようである。心なしか彼女の顔が赤くなっている、そしてそのい手も微かに震えているようであった。

「１４番」

「はい」自分の番号を呼ばれて俺は手を挙げる。目の前を見るが誰も手を挙げている様子は無かった。友伽里を見ると、先ほどとは打って変わって少し青ざめたような顔で、俺の背後に視線を送っている。
　彼女のその視線を追うように背後に目をやると、そこには壁に凭れたまま、遠慮がちに右手を上げる穂乃果の姿があった。

「あっ、やっぱり残り福……」桂川がポツリと呟いた。

「あの私は別に番号を交換してもいいわよ……」友伽里の顔を見て鬼気迫る物を感じたのか、穂乃果は番号の書いてある紙を差し出した。

「えっ、本当にいいの？」友伽里の表情が少し弛む。

「駄目よ！それではくじ引きをした意味がないじゃないの！」桂川は腕組をして怒っている。確かに彼女の言うことももっともだと感じる。

「光君も、そう思うよね！」また当然のように意見を振られて仰天する。

「ああ、そうだな」俺の回答はそれしかなかった。