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知らねえよ!

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「ねえねえ、渡辺さんはどこから転校してきたの?」

「さっき、福岡って言ってたじゃない!あんた人の話聞いてないわね」

「どこに住んでいるの?」

「向こうに彼氏はいたの?」

 転校生恒例の質問攻めである。
 穂乃果は、少しその勢いに圧倒されているようであったが、丁寧に答えているようであった。

 俺は、自分の席の辺りをクラスの女子達に占拠され居場所を奪われた状態であった。席に座ったままいれば、無神経な女子に尻で弾き飛ばされそうになった。
 廊下の窓に腕組をして両手をつくと溜息交じりで晴天の空を見つめる。そらには雲一つなく真っ青な空であった。ああ、川の土手で昼寝してぇと考えていた。

「ねえ、光君。あの人、あの時の人だよね?」友伽里はいつの間にか光と同じような恰好で横に並んでいた。

「知らねえよ!」俺は彼女の質問を煩わしそうにかわす。こんなに彼女の事を疎ましく感じたことは久しく無かった。

「知らない訳ないじゃない!絶対にあの人よ。たしかあの人、人妻だったよね」友伽里は興味本意満開の様子であった。

「知らねえよ!」

「だって、子供がいるんでしょ?」彼女は俺の横顔を軽く覗き込んだ。

「知らねえよ!」俺は目を逸らすように顔を背ける

「でも、幼稚園に子供を連れて行ってたんでしょ?」

「だから、知らねえってば!」

「子持ちの女子高生って凄いよね。旦那さんは社会人かな?」友伽里は、壁を右足で軽く蹴った。

「知らねえよ!お前、この事は絶対に誰にも言うなよ!」強い口調で言った。

「なんでよ、気になるんだったら直接本人に聞けばいいじゃない!」友伽里は、かなり不満そうな表情を見せた。なぜ彼女がこんなに不機嫌になるのかは、光には皆目見当がつかなかった。

「うっ......、機会があれば、それとなく聞いてみるよ」俺は、ズケズケ質問をして変な風に思われるのも御免だと思った。しかし、本音を言えば彼女の事が気になる自分がいることも理解している。

「そう、機会があればね......」なんだか、呆れたように友伽里はつぶやいた。

「だいたい、お前には関係ないだろう!」ちっとぶっきら棒に、吐き捨てるように言った。

「そう言う、あんただって関係ないけどね!」彼女の言うことはもっともであった。
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