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Reincarnation (輪廻転生)
あなたに会いたい
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二人が家を出た後、真理子は仏壇の前に呆然として座っていた。その白い頬には数滴の涙の筋が浮かんでいた。
先ほどあの少年に抱き締められた出来事を思い出して、体の体温が一・二度ほど少し上がっているような気がする。夫が亡くなってからこんな感覚になった事など今までなかった。いや無意識のうちにそういう気持ちは捨ててきていたのかもしれない。
「ごめんなさい……、あの子に抱き締められた時、私……あなたに抱かれているような気がして驚いたわ……。でも、あなたが早く逝ってしまうから悪いのよ、秀則さん……」真理子は少し目に涙を浮かべてガクリと項垂れてしまった。
秀則があの交通事故で亡くなってから数年の月日が流れていた。
真理子は、時が経っても亡くなった夫への思いは断ち切れないままでいた。
正直言うと夫が亡くなった後、彼女の両親や秀則の両親が心配して早く再婚をすることを勧められた。そして彼女には再婚の話がいくつもあったが、娘の気持ちを考えるとその気にはならなかった。いや、それは言い訳であって本当は自分自身が秀則の事を忘れる事が出来ないでいたのだ。決して出来た夫でも父親でもなかったが彼女にとってはかけがえのない男性であった。
彼女は四十を少し過ぎていたが年齢の割に見た目も若く美しく三十代に間違われる事がザラではなかった。そして若く美しい未亡人に言い寄ってくる男達も沢山いた。
多少その中には心惹かれる男性がいたことも確かではあった。しかし、その誘惑も彼女は全て経ちきってきた。他の男性と契りを交わす事など亡き夫への裏切りだと思い頑なにその貞操を守り続けてきたのだ。
それなのに先ほど抱き締められた少年の突然の包容に彼女は流されそうになってしまった。頑なに守り続けてきた気持ちを簡単に打ち砕かれてしまった。
あの時抱かれた少年の胸の中は懐かしい夫、秀則を思い出させるものであった。
あの時、娘の美穂が帰って来なければ、あの少年と唇を重ねて合わせてしまったかもしれない。思春期の少年の性衝動に流されそうになった事で、秀則への懺悔と自分への嫌悪感で落ち込んでしまった。
彼女は仏壇の中で微笑む亡き夫の遺影を少し恨めしいような顔をして呟く。
「どうして、私よりも先に逝ってしまったの……。秀則さん、あなたにもう一度会いたい。もう一度、私の体を抱いて欲しい……」真理子は号泣しながら、その場に泣き崩れながら自分の体を両手で抱きしめた。
しかし、仏壇の中の夫が彼女に応えることはなかった。
どれだけの時間が流れただろうか、いつの間にか彼女はその場で軽く眠ってしまっていたようであった。眠ったせいか気持ちはかなり落ち着いたようであった。
ガチャ・・・・・・、ガチ・・・・・・・。
その時唐突に玄関のほうから物音がする。
「あら、美穂達かしら……鍵でも忘れたのかしら……」真理子は、頬の涙を拭い呼吸を整えながら玄関に向かった。そして、下履きを履き玄関の鍵を解錠して扉を開けた。
「どうしたの……鍵を持っていかなかった……!?」開いたドアの向こうには見知らぬ男の姿があった。突然扉が開いた事に驚いたのか男は大きく目を見開いた。同じく真理子も目を見開いて男の姿を見る。男のその手には鋭い刃物が握りしめられていた。
先ほどあの少年に抱き締められた出来事を思い出して、体の体温が一・二度ほど少し上がっているような気がする。夫が亡くなってからこんな感覚になった事など今までなかった。いや無意識のうちにそういう気持ちは捨ててきていたのかもしれない。
「ごめんなさい……、あの子に抱き締められた時、私……あなたに抱かれているような気がして驚いたわ……。でも、あなたが早く逝ってしまうから悪いのよ、秀則さん……」真理子は少し目に涙を浮かべてガクリと項垂れてしまった。
秀則があの交通事故で亡くなってから数年の月日が流れていた。
真理子は、時が経っても亡くなった夫への思いは断ち切れないままでいた。
正直言うと夫が亡くなった後、彼女の両親や秀則の両親が心配して早く再婚をすることを勧められた。そして彼女には再婚の話がいくつもあったが、娘の気持ちを考えるとその気にはならなかった。いや、それは言い訳であって本当は自分自身が秀則の事を忘れる事が出来ないでいたのだ。決して出来た夫でも父親でもなかったが彼女にとってはかけがえのない男性であった。
彼女は四十を少し過ぎていたが年齢の割に見た目も若く美しく三十代に間違われる事がザラではなかった。そして若く美しい未亡人に言い寄ってくる男達も沢山いた。
多少その中には心惹かれる男性がいたことも確かではあった。しかし、その誘惑も彼女は全て経ちきってきた。他の男性と契りを交わす事など亡き夫への裏切りだと思い頑なにその貞操を守り続けてきたのだ。
それなのに先ほど抱き締められた少年の突然の包容に彼女は流されそうになってしまった。頑なに守り続けてきた気持ちを簡単に打ち砕かれてしまった。
あの時抱かれた少年の胸の中は懐かしい夫、秀則を思い出させるものであった。
あの時、娘の美穂が帰って来なければ、あの少年と唇を重ねて合わせてしまったかもしれない。思春期の少年の性衝動に流されそうになった事で、秀則への懺悔と自分への嫌悪感で落ち込んでしまった。
彼女は仏壇の中で微笑む亡き夫の遺影を少し恨めしいような顔をして呟く。
「どうして、私よりも先に逝ってしまったの……。秀則さん、あなたにもう一度会いたい。もう一度、私の体を抱いて欲しい……」真理子は号泣しながら、その場に泣き崩れながら自分の体を両手で抱きしめた。
しかし、仏壇の中の夫が彼女に応えることはなかった。
どれだけの時間が流れただろうか、いつの間にか彼女はその場で軽く眠ってしまっていたようであった。眠ったせいか気持ちはかなり落ち着いたようであった。
ガチャ・・・・・・、ガチ・・・・・・・。
その時唐突に玄関のほうから物音がする。
「あら、美穂達かしら……鍵でも忘れたのかしら……」真理子は、頬の涙を拭い呼吸を整えながら玄関に向かった。そして、下履きを履き玄関の鍵を解錠して扉を開けた。
「どうしたの……鍵を持っていかなかった……!?」開いたドアの向こうには見知らぬ男の姿があった。突然扉が開いた事に驚いたのか男は大きく目を見開いた。同じく真理子も目を見開いて男の姿を見る。男のその手には鋭い刃物が握りしめられていた。
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