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短編集 ③
去り行くあなたへ
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「あと5分・・・・・・・・、あと5分・・・・・・・!」美紀は腕時計のデジタルの数字を睨みつけながらその言葉を口にしていた。駅へ向かう長い階段を駆け上がり激しい呼吸で肩を揺らす。
美紀は本当の気持ちを正樹に告げることが出来なかった。そしてその思いを永遠に秘めたまま、彼との別れを黙認するつもりであった。
しかし、その気持ちはスマホに保存された一枚の写真によって覆《くつが》えらされた。
二人で写った写真。誰かに撮ってもらったのか記憶はあやふやであったが、放課後の教室であった。緊張する面持ちの正樹と少し冷めたような顔の美紀。二人はクラスの誰もがお似合いのカップルとして公認していた。
駅の改札が見えてきた。美紀はホームに入る為に入場券を購入する。慌てる気持ちで動転して財布の中の小銭をうまく掴めない。
それは突然だった。正樹の父親の都合により、遠方に引っ越す事になると告げられた。
美紀はその言葉に驚いた。美紀の父親は役所に勤めていて転勤は無縁であった。故に美紀も転校どころか引っ越しも経験した事がなかった。
切符を手にすると自動改札を通り抜けると上りのホームに走る。
「あと一分!」もう間に合わない事は必至であった。でも正樹に一言伝えたい気持ちを胸に美紀は走る。電車が発進する合図のメロディーが流れる。
「あっ!美紀!!」クラスメートが彼女の名を呼ぶ。「早くしないと!正樹の電車でちゃうよ!!」
美紀は息を切らせながらホームにたどり着いた。と同時に正樹の乗る電車のドアが閉まった。彼は美紀の存在に気が付いて目を見開いた。
「ま、正樹くん!!」走りだす電車を追いかける。
正樹は電車の中を走り、窓が開く場所を探す。
「私、私!本当は、正樹君の事・・・・・・・、大っ嫌いだったの!!」正樹が聞こえないようで訝し気に目を細めた。そして窓を開ける。
「これでせいせいするわ!さようなら!!」言いながら立ち止まると美紀は大きく手を振る。正樹の執拗なアプローチと周りの勘違いにより、いつの間にか相思相愛のように噂だけ独り歩きしていたが、美紀にはそんな気持ちは小指の先日ほども無かった。
「え、ええと・・・・・・、ありがとう!美紀!!連絡するからな!!」どうも美紀の言葉は届いておらず勘違いしているようであった。
「いつも適当に人に合わせる、・・・・・・・あなたのそういう所が嫌いなのよ・・・・・・・。呼び捨てにすんなよ・・・・・・」美紀はスマホをポケットから取り出すと、連絡先のリストを表示する。そして、無言のまま正樹のリストを選び着信拒否に設定した。
その様子を見ていたクラスメートたちは唖然としていた。
それから何度か正樹から手紙が送られてきたが、美紀がそれを読む事は一度も無かった。
美紀は本当の気持ちを正樹に告げることが出来なかった。そしてその思いを永遠に秘めたまま、彼との別れを黙認するつもりであった。
しかし、その気持ちはスマホに保存された一枚の写真によって覆《くつが》えらされた。
二人で写った写真。誰かに撮ってもらったのか記憶はあやふやであったが、放課後の教室であった。緊張する面持ちの正樹と少し冷めたような顔の美紀。二人はクラスの誰もがお似合いのカップルとして公認していた。
駅の改札が見えてきた。美紀はホームに入る為に入場券を購入する。慌てる気持ちで動転して財布の中の小銭をうまく掴めない。
それは突然だった。正樹の父親の都合により、遠方に引っ越す事になると告げられた。
美紀はその言葉に驚いた。美紀の父親は役所に勤めていて転勤は無縁であった。故に美紀も転校どころか引っ越しも経験した事がなかった。
切符を手にすると自動改札を通り抜けると上りのホームに走る。
「あと一分!」もう間に合わない事は必至であった。でも正樹に一言伝えたい気持ちを胸に美紀は走る。電車が発進する合図のメロディーが流れる。
「あっ!美紀!!」クラスメートが彼女の名を呼ぶ。「早くしないと!正樹の電車でちゃうよ!!」
美紀は息を切らせながらホームにたどり着いた。と同時に正樹の乗る電車のドアが閉まった。彼は美紀の存在に気が付いて目を見開いた。
「ま、正樹くん!!」走りだす電車を追いかける。
正樹は電車の中を走り、窓が開く場所を探す。
「私、私!本当は、正樹君の事・・・・・・・、大っ嫌いだったの!!」正樹が聞こえないようで訝し気に目を細めた。そして窓を開ける。
「これでせいせいするわ!さようなら!!」言いながら立ち止まると美紀は大きく手を振る。正樹の執拗なアプローチと周りの勘違いにより、いつの間にか相思相愛のように噂だけ独り歩きしていたが、美紀にはそんな気持ちは小指の先日ほども無かった。
「え、ええと・・・・・・、ありがとう!美紀!!連絡するからな!!」どうも美紀の言葉は届いておらず勘違いしているようであった。
「いつも適当に人に合わせる、・・・・・・・あなたのそういう所が嫌いなのよ・・・・・・・。呼び捨てにすんなよ・・・・・・」美紀はスマホをポケットから取り出すと、連絡先のリストを表示する。そして、無言のまま正樹のリストを選び着信拒否に設定した。
その様子を見ていたクラスメートたちは唖然としていた。
それから何度か正樹から手紙が送られてきたが、美紀がそれを読む事は一度も無かった。
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