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10-16 鈍感王女は狂犬騎士を従える(完)
しおりを挟む女王とその婚約者の結婚式は盛大に祝われた。その晴れ舞台に出席していたセーリスは姉から、妹と王国の英雄の結婚式はどんなものにしようか、などと言われてしまった。無論、静かに身内だけで、なんて無理な話だろう。
式後に行われる招待客のみのパーティで、主役からは結構離れた庭園の隅にセーリスとヘニルはいつものように肩を並べていた。
「いやぁ、近いうちにあんな綺麗な服着たセーリス様が拝めるって知ってたら、もっと早く結婚する気になってたと思うんですけどね~」
「調子良いこと言って」
「ほんとですよー?」
後ろからセーリスを抱きしめ、ヘニルはそっと腹を撫でる。最近手が空くたびにこうしてセーリスに触れては、彼は幸せそうに笑うのだ。
「まだ早いって言ってるでしょ。目に見えて大きくなるのはもう数ヶ月先」
「そうですけど、俺にはここに“ある”って分かりますよ。元は俺の中にあったものが」
きっとそれが神族の力なのだろう。今はその大半がヘニルの身体に残ったままだというが、それも子供の成長と共に薄れていくはずだ。
「女子か男子か、問題はそこですよ」
「どっちでも、絶対ヘニルが溺愛する未来が見えるわ」
「そりゃそうでしょう! セーリス様と俺の子なら、めっちゃ可愛いに決まってます」
それに、とヘニルは続け、彼女の頬にキスをする。
「最初に産まれるのがどっちだろうと、最終的には両方産んで貰いますから」
暗にまだ子供を作る気だと言うヘニルに、セーリスはにこりと笑う。夫婦同然の日々にもすっかり慣れて、後は式の日程を待つだけだ。
そうしていると、二人の耳に不躾な会話が聞こえてくる。
「全く、宮宰は何を考えているのだ。貴重な第二世代をこんなに早く引退させるなど……」
「第二王女の相手など他にいくらでも居るでしょうに、よりにもよって……」
ようやく表沙汰となったセーリスとヘニルの結婚に、特に臣下達は良い顔をしていない。王国を離れられないデルメルに代わり、原初を打ち倒すほどの力を持つヘニルの存在はそれほど大きな期待を集めていたのだ。
対して民衆の方は沸き立っている。当然それは広まっていた噂が事実だったからだろう。最近は街を歩いていると、式はまだだというのにやたらと祝いの言葉を貰うようになった。
「……締めてきていいですか、いいですよね?」
怒りを顔に出してヘニルはセーリスに問う。
けれど彼女は首を横に振った。
「捨て置きなさい。相手をする必要も無いわ」
「え、マジですか」
ばっさりと切り捨てるセーリスにヘニルは戸惑う。
「だってそうでしょ。ヘニルは神族である以前に、私に忠誠を誓う私の騎士なんだから。デルメル様だって認めてくれたし、もう決定事項なんだから恨み言にいちいち反応しても時間の無駄よ」
以前であればすぐに中傷に怯え硬直していたセーリスだが、最近は最早そんな素振りは見せない。寧ろ、正面切って相手を言い負かしてしまうことさえあるのだ。
「セーリス様ってばほんと、逞しくなりましたねぇ……」
小さくプルプルと震えていたあの頃がちょっと懐かしいと思いながらも、ヘニルは安堵する。元々芯の強さはあるお人なのだと、少しだけ得意げになりながら。
「セーリス様!」
ヘニルには聞き覚えのない声が彼女を呼ぶ。向こうから駆けて来たのは一人の女性だ。今では王城に慣れたヘニルが見たことのない顔であれば、恐らく平民の招待客だろう。
「こんな時にすいません! 力作で、是非ともすぐにお見せしたくて! あ、私忍び込んでるんです、それ、目を通しておいてくださいねそれでは!」
さっさとセーリスに紙の束のようなものを渡すと、その女性は即座に踵を返して走り去っていく。
まさか潜ってきた人物とは思わず、その後姿を見送りながらヘニルは呆然とした。
「な、なんだったんですか、今の」
「ようやく出来上がったみたい。さぁヘニル、これを見て」
意気揚々と貰った紙束をヘニルに差し出し、セーリスは興奮した様子で目を輝かせる。
「……これ」
「随分待たせてごめんなさい。私も約束、ちゃんと果たしてみせたわよ」
その紙束は脚本のようだ。それも演劇の。
表紙に書かれているタイトルからその内容を理解し、ヘニルは驚いた様子で彼女の顔を見た。
「王国の、とある王女様と、流浪の神族の恋のお話。まぁ、結構無理言って作ってもらったものだけど、劇場の方はかなり食い付きが良くて……お姉様もデルメル様も協力してくれたの」
なんでもヘニルとセーリスの恋の謎が明らかになるのだから、絶対に売れるとかなんとか。まさか、と思ったが、こればっかりは公演してみないことには分からないだろう。
「こうして形になると恥ずかしいけど……こ、後世まで語り継いでもらいましょう」
顔を赤くして、いつぞやのヘニルの言葉を照れながら言うセーリスに、彼もじわりと笑みを浮かべる。溢れる喜びのままに左腕で軽々と彼女を抱き上げると、すぐに甘い口付けを交わした。
「とっても、嬉しいです。さすがは俺のセーリス様ですね」
幸せそうに笑い合って、二人は抱きしめ合う。いつまでもこうして笑い合っていたいと、そう心の底から願いながら。
そんな風に仲睦ましいセーリスとヘニルだったが、主役の女王夫婦そっちのけの二人のいちゃつきぶりに、後でデルメルからキツいお叱りを受けたのは言うまでもない。
王国の鈍感な王女の成長と、彼女を愛した狂犬のような騎士との恋の物語は、劇場で大人気を博し王国の人々に広く親しまれた。
どれほど時が経っても彼女たちの物語は忘却されることなく、それは新しい王が誕生した箱庭大陸にまで伝わったそうな。
鈍感王女は狂犬騎士を従える 了
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なんかもぉヘニル頑張ってーーー!!!と思いながら毎日読んでます(笑)
セーリスは鈍感なとこ、とても可愛いけど…早く気づいてあげてください…!!
毎日の更新ありがとうございます♡
これからも執筆頑張ってください(*´ω`*)
感想ありがとうございます!
メイン二人、気に入ってもらえたようで何よりデス
楽しんでいただけているなら幸いでございます!
今後ともがんばっていきます( ᐛ )و グッ