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08-09 僅かばかりの本音
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「いや、仕官先を探してたんです」
予想外のその言葉にセーリスは硬直する。
仕官先を探していたとなれば、最初に断ったのは一体なぜだというのか。しかもその後も何回も。
そして仕官の代わりに自分の身体を要求したことも。
「なっ、最初から仕官するつもり、だったってこと……!?」
「親父の言い付けに反してみようって思い付きでしたから。でも正直姫様に会うまで悩みましたよ。そりゃ王国軍は他の国よりゃマシですけど……」
はぁ、と大きくため息をつき、彼は父親の言葉を思い出す。
「ガキの頃に親父から他の神族の話を聞きました。独り立ちしたら絶対に関わるなと言われたのはアスラと、デメテル……デルメルのことですね。やっぱりあいつが一番の悩みどころでした」
「デルメル様は素晴らしい方よ。そりゃあ神族には厳しいかもしれないけど……」
「厳しい、ってレベルじゃないと思いますよ。親父は“デメテルは同族を憎んでいる”と。今だって、迂闊なことすりゃ即頭蓋骨を投石でぶち割られそうなそんな殺気を感じます」
「……なんでデルメル様は神族が嫌いなんだろう。考えたことも無かった」
「多分一生教えてもらえないと思いますから、気にするだけ無駄ですよ」
デルメルの話は置いておいて、と彼は呟く。
「ともかく、仕官するならまだ王国がいいかなー、でも許可してくれっかなーって時に、ちょうど姫様が現れたんです」
「いっぱい断ったじゃない」
「あれは姫様がどういう人なのかなぁって言うのを確かめただけです」
「あんなので分かるの?」
胸が小さいとか姫なのに普通とか、とてもじゃないが許せない言葉の数々を浴びせられた気がする。
「胸が小さい上に器量も悪くてどうもごめんなさいね!」
「え、あ、いやっ、あれは姫様の懐の深さを試したっていうか、ほんとに、今はそんなこと思ってません、ほんとに!」
がばっとセーリスを抱きしめ、ヘニルは慌てて弁明する。それを疑いの目で見つめながら、そういえば過去に性癖が増えたみたいな事を言っていたことを思い出す。
「(貧乳気にしてるのはエロい、だっけ……)」
やはり複雑な心境だった。
「ああして姫様と話して、一夜を過ごして、姫様は大真面目で人の立場に聡くて、頑張り屋でお人好しで、でもすぐに騙されやすそうな危うさがあって」
「…………」
つらつらと自分の評を述べていくヘニルに、セーリスは思わず緊張してしまう。こんな風に褒め言葉に近いものを目の前で言われることは初めてだった。
「……俺が諦めていたことに向き合おうとしていて、あの時の俺にはほんと、姫様が頑張ろうとしている姿は他人事には思えなかったんです」
「ヘニル……?」
彼女の肩口に顔を埋め語る彼の背を撫でてやれば、より一層強く抱きしめられる。すりすりと頬を寄せ、セーリスの髪を優しく指で梳く。
「だから、俺ももう少しだけ頑張ろうって、頑張るなら、この人の側がいいって思って……姫様はようやく見えた光のようなものだったんです」
「え、ちょ、ちょっと評価が過剰じゃない? 私ヘニルに何もしてないんだけど……」
全く身に覚えのないセーリスは焦る。簡単に言えばセーリスが尊敬に値するような、そんな人物だったという感じなのだろうが、それもまた納得がいかない。
「俺が勝手に惚れたようなもんですから。……、姫様に会ってなかったら本当は、死んでしまおうと、そう思ってたんですよ」
覚えのある言葉にセーリスは息を呑む。ヘニルに裏切られたと思った時に、彼女もまた同じようなことを考えたのだ。
ヘニルはゆっくりと顔を上げる。そこにあったのは涙でも苦しそうな表情でもなく、ただ満たされたような、そんな笑みだった。
「ねぇ、姫様」
背に回っていた腕が離れたと思えば、彼の大きな手がセーリスの太腿を撫でる。それに驚いて視線を下へ向ければ、興奮したように下衣を押し上げているそれが目に入る。熱の篭った瞳に晒され、焦がれるような彼の表情から顔を背けなくなる。
「抱かせて、ください」
「節度を持つってさっき言ったじゃない……」
「じゃあ、節度を持つっていう命令の代償ってことで」
ええっ、とセーリスは声を上げてしまう。余りにもいろいろと唐突な出来事に思考が追いつかないまま、ヘニルの口付けが降ってくる。
「んっ」
触れるだけのそれはすぐに離れて、距離を取ろうと仰け反ったセーリスに、すぐさま彼は追い縋る。
「後は、戦地に行く俺への手向けに。一回だけで我慢しますから」
それでもダメかと、ヘニルは小声でそう問いかける。そういえばこの男は明日から王城を離れるのだったと、そう思い出したセーリスは数秒の逡巡の後、彼の嘆願を受け入れるのだった。
予想外のその言葉にセーリスは硬直する。
仕官先を探していたとなれば、最初に断ったのは一体なぜだというのか。しかもその後も何回も。
そして仕官の代わりに自分の身体を要求したことも。
「なっ、最初から仕官するつもり、だったってこと……!?」
「親父の言い付けに反してみようって思い付きでしたから。でも正直姫様に会うまで悩みましたよ。そりゃ王国軍は他の国よりゃマシですけど……」
はぁ、と大きくため息をつき、彼は父親の言葉を思い出す。
「ガキの頃に親父から他の神族の話を聞きました。独り立ちしたら絶対に関わるなと言われたのはアスラと、デメテル……デルメルのことですね。やっぱりあいつが一番の悩みどころでした」
「デルメル様は素晴らしい方よ。そりゃあ神族には厳しいかもしれないけど……」
「厳しい、ってレベルじゃないと思いますよ。親父は“デメテルは同族を憎んでいる”と。今だって、迂闊なことすりゃ即頭蓋骨を投石でぶち割られそうなそんな殺気を感じます」
「……なんでデルメル様は神族が嫌いなんだろう。考えたことも無かった」
「多分一生教えてもらえないと思いますから、気にするだけ無駄ですよ」
デルメルの話は置いておいて、と彼は呟く。
「ともかく、仕官するならまだ王国がいいかなー、でも許可してくれっかなーって時に、ちょうど姫様が現れたんです」
「いっぱい断ったじゃない」
「あれは姫様がどういう人なのかなぁって言うのを確かめただけです」
「あんなので分かるの?」
胸が小さいとか姫なのに普通とか、とてもじゃないが許せない言葉の数々を浴びせられた気がする。
「胸が小さい上に器量も悪くてどうもごめんなさいね!」
「え、あ、いやっ、あれは姫様の懐の深さを試したっていうか、ほんとに、今はそんなこと思ってません、ほんとに!」
がばっとセーリスを抱きしめ、ヘニルは慌てて弁明する。それを疑いの目で見つめながら、そういえば過去に性癖が増えたみたいな事を言っていたことを思い出す。
「(貧乳気にしてるのはエロい、だっけ……)」
やはり複雑な心境だった。
「ああして姫様と話して、一夜を過ごして、姫様は大真面目で人の立場に聡くて、頑張り屋でお人好しで、でもすぐに騙されやすそうな危うさがあって」
「…………」
つらつらと自分の評を述べていくヘニルに、セーリスは思わず緊張してしまう。こんな風に褒め言葉に近いものを目の前で言われることは初めてだった。
「……俺が諦めていたことに向き合おうとしていて、あの時の俺にはほんと、姫様が頑張ろうとしている姿は他人事には思えなかったんです」
「ヘニル……?」
彼女の肩口に顔を埋め語る彼の背を撫でてやれば、より一層強く抱きしめられる。すりすりと頬を寄せ、セーリスの髪を優しく指で梳く。
「だから、俺ももう少しだけ頑張ろうって、頑張るなら、この人の側がいいって思って……姫様はようやく見えた光のようなものだったんです」
「え、ちょ、ちょっと評価が過剰じゃない? 私ヘニルに何もしてないんだけど……」
全く身に覚えのないセーリスは焦る。簡単に言えばセーリスが尊敬に値するような、そんな人物だったという感じなのだろうが、それもまた納得がいかない。
「俺が勝手に惚れたようなもんですから。……、姫様に会ってなかったら本当は、死んでしまおうと、そう思ってたんですよ」
覚えのある言葉にセーリスは息を呑む。ヘニルに裏切られたと思った時に、彼女もまた同じようなことを考えたのだ。
ヘニルはゆっくりと顔を上げる。そこにあったのは涙でも苦しそうな表情でもなく、ただ満たされたような、そんな笑みだった。
「ねぇ、姫様」
背に回っていた腕が離れたと思えば、彼の大きな手がセーリスの太腿を撫でる。それに驚いて視線を下へ向ければ、興奮したように下衣を押し上げているそれが目に入る。熱の篭った瞳に晒され、焦がれるような彼の表情から顔を背けなくなる。
「抱かせて、ください」
「節度を持つってさっき言ったじゃない……」
「じゃあ、節度を持つっていう命令の代償ってことで」
ええっ、とセーリスは声を上げてしまう。余りにもいろいろと唐突な出来事に思考が追いつかないまま、ヘニルの口付けが降ってくる。
「んっ」
触れるだけのそれはすぐに離れて、距離を取ろうと仰け反ったセーリスに、すぐさま彼は追い縋る。
「後は、戦地に行く俺への手向けに。一回だけで我慢しますから」
それでもダメかと、ヘニルは小声でそう問いかける。そういえばこの男は明日から王城を離れるのだったと、そう思い出したセーリスは数秒の逡巡の後、彼の嘆願を受け入れるのだった。
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