鈍感王女は狂犬騎士を従わせる

りりっと

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07-05 第二世代

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「余程セーリス姫の寵愛が欲しいと見える」
「え?」
「ははは」


 さも愉快だとでも言いたげに笑うカアスにセーリスは絶句する。


「(ヘニル以上にカアス様が何を考えておられるのか全く分からない……!)」


 何百年も生きている神族というものは皆こうなのだろうか。それともデルメルが人間を理解しすぎているだけなのだろうか。疑問は尽きない。


「カアス様は勘違いをしておられます。ヘニルの妄言は冗談のようなものでしょう」
「そうか? あれはよく姫の話をしている」
「…………」


 一体何を考えているのだあの男は、と彼女は内心で呟く。

 もしもカアス伝手にデルメルあたりにヘニルとの関係が知られようものなら、どういうことになるか想像もしたくない。それにヘニルと自分との関係の始まりなど、デルメルからすれば絶対に許されない取引のはずだ。間違いなく、“悪い子”と見なされるだろう。


「姉様の執務室の窓から姫が見えると、いつも眺めているよ」
「え? この距離を……?」
「神族の視力は人間とは違う。姉様の目は王都全体すら捉えられる。ヘニルがこの程度の距離を見通せても不思議ではない」


 振り返って王城の方を見てみるが、セーリスの目にはなんとかデルメルの執務室がどのあたりにあるか分かる程度だ。


「だがまあ、姫のように考える兵士は多い。王国に取り入るために、第二王女を利用しているのだと」


 その言葉にセーリスは視線を上げカアスの顔を見た。そこには既にいつもの微笑は無く、厳しい視線で訓練中のヘニルを見つめていた。


「二世代目とはいえ、あれはまだ若い。その上、人の社会というものにかなり不慣れだ。面倒な問題が起こらなければいいのだが」
「問題……。そういえば二世代目、というのは神族の中では特殊なのでしょうか?」


 二世代目だからいいとか何とか、そんなことをカアスが口にしていたはずだ。それにカーランドも第二世代は希少だと言っていた。原初の神族の次世代、ということなのは分かるが。


「純粋に原初の持つ神の創造物としての肉体、それを半分も受け継いでいるという点で特殊だ。個体差はあるだろうが単純に原初の次に強い世代だから……だがそれでも原初とは比べ物にならん」


 確かに、神族がどんどん人と交われば、創造物としての血も薄まっていく。三世代目になれば四分の一、四世代目になれば八分の一、と。そうなれば世代間の差はかなり大きいはずだ。


「姉様みたいな原初の神族の力を百とするなら、第二世代は……八十五、くらいだ。人と交わり世代を経るごとに神族の力は弱まる」
「そんなに違うのですね」
「ああ……、ヘニルの父親ウラノスが死んで、残る原初の神族は四人。その内三人は三大国に均等に散っている。姉様はともかく、他の二国は残りの一人を手に入れようと躍起になるかもしれん。それほど、世代を経た神族の差は大きい」


 では受け継いだ力だけを考えるのなら、潜在能力という意味でカアスよりもヘニルの方が強いことになる。そして更にデルメルはその上をいくのだろう。
 こう言われればヘニルを勧誘したことにも十分意味があったように思えて、セーリスは安心したように小さく息をつく。ならば時に自分が上手く制御すれば問題は無いはずだ。


「本来であれば神族の血を薄めることなく神族同士で交わるべきなんだが、如何せん、今残っている原初の神族はいろんな意味で次世代を残せない問題を抱えているだろうから……おっと、これは失言だな」


 ふるりとカアスは肩を震わせる。その表情には僅かに恐怖が覗いている。
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