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05-13 夢のようなひととき(二)**

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「……おはようございます、姫様」


 胸元あたりに腕を回し、彼はそのまま腰を揺する。ぱちゅぱちゅと音を立ててまた交わって、愛おしい感触をまだ味わっていたいと駄々を捏ねた。


「んっ、許して、ください姫様っ、後一回だけ……」
「どれだけ、溜まってるの、んっ、もう下、きもちわる、いっ」
「……一緒におふろ、入りますか」
「なんで、そうなる……!」


 これは終わった後怒られるかもなぁと、そう思いながらも彼は構わず彼女の身体を堪能する。
 ふにふにとささやかな胸を揉んで、真っ赤になった耳にキスをすれば彼女の身体がびくりと跳ねる。


「ひめさま、姫様……っ」
「やだ、耳元で、あんっ、そんな声、ださないで、ぁんっ」
「(朝一でこれ聞けるとか最高か……あれ、今何時だ?)」


 朝のセックスということで歓喜に震えるヘニルだったが、朝にしては様子が変なことに気付く。
 だが行為中は集中せねばと、構わず彼女の耳元で囁き続ける。


「俺の声、好きなんですか……?」
「やぁっ、ぞくぞく、んぅっ、それやだ……っ」
「耳どんだけ弱いんですか、可愛すぎてちんこ爆発しそうです」
「うぅ、ばかばかっ」
「ん、もうちょっとです、姫様……っ、一緒にイきましょうね……!」


 執拗に耳を舐めながら、膣内の愛撫を強めさせていく。きゅうきゅうと締まるそこがまた精をねだって、その愛らしさに彼はため息をついた。


「なかだしちゃ、だめっ、なか、へんに、なっちゃう、んっ」
「あぁ、もうぐっちゃぐちゃですね、……昨日、何回シましたっけ……」


 とにかくしこたまヤったのは覚えている、と彼は呟く。半月で溜まりに溜まった性欲を爆発させた行為は、激しくはなかったもののただひたすらにねちっこく、執拗に彼女を責め続けたのだ。

 きっと神族の夜の相手をするのは大変だと、彼女は身を以て知っただろう。本来なら十人の女で満たされる劣情を一身に受け、喘がされ中に注がれ続けた。
 絶対に妊娠したと、そう思っただろうか。


「はぁ……っ、そろそろ、イきます、姫様……!」
「んぅ、やんっ、ぁああっ!」


 柔らかな臀部にぐっと腰を押し付けて、散々そうしたように最奥で吐精する。流石に勢いの弱いそれに、彼は大きく息をついた。


「……すいませんでした、その……止まらなくて」


 ぱたりとベッドに倒れ、彼女は横目で彼を見上げた。そのむっとした表情も可愛らしくて、彼は思わずにやけてしまう。


「次からは、お金ないならあげるから、ちゃんと自分でコントロールなさい」
「えぇ……姫様から娼館代貰うとか……」


 ろくでなし要素が更にアップした。


「飼い犬の面倒くらいちゃんと見るわよ」


 飼い犬、という言葉に彼は目を瞬かせる。けれど嬉しそうに笑って、彼女の頬に口づけを落とす。


「はい、面倒みてください、ご主人様♥」
「まずは飼い主への噛み癖をなんとかしないと」
「だってぇ、構って欲しくって」


 結構無茶なことをしたというのに彼女は怒った様子を見せない。
 そっと中からそれを抜いて、彼女に寄り添うようにベッドに横になる。


「……怒らないんですね」
「命令はちゃんと守りなさい。あと、慰めてって言ったのは、私だから」


 今回は許してやると、そう言う彼女に、彼は幸せそうに笑った。


「あと片付けは全部あんたがやりなさい」
「はーい」
「腰が痛くて動きたくないから私の世話も全部やって」
「もちろんです姫様。んふふ」
「何嬉しそうにしてんの……」


 ある意味罰のつもりで言ったのだろうが、機嫌良さげに片付けをする彼を見た彼女は眉を下げた。
 シーツを新しいものに替えて、汚れた衣服も替えさせて、悪戯しながら溢れる精を中から掻き出せば、彼女に軽く頭を叩かれる。それにも嬉しそうに笑って、服を着替えるのを手伝ってやる。


「はい姫様、あーん」
「…………」
「お腹空いたでしょう? さ、遠慮せずに、全部俺が食べさせてあげますよ」


 差し出された一口大ほどの料理に、彼女は顔をしかめる。しかし突っ込むことすら諦め、渋々とそれを口にする。


「ん、ひめさま」


 口元についたソースを舌で舐めとれば、何をするとでも言いたげな視線が刺さる。


「ふふ……ご飯食べてる姫様も可愛いですねぇ」
「まだ寝ぼけてるんじゃないのこいつ」
「もっと俺を躾けてくださいね姫様、何分俺は森育ちなもんで」
「あー……」


 厄介な犬を拾ったものだと、そう呟く彼女にまた料理を差し出した。

 その日はきっと一生忘れられない、彼にとって宝物のような光景だった。


おまけ 了
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