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04-11 宮宰の裁定
しおりを挟む重々しい少女のため息に、鋭い目の女は表情を変えることなく問いかける。
「それで、裁定は決まったのか、姉様」
「……ええ」
沈んだ声に珍しいと思いながら、女カアスは首を傾げる。
「あの男は使い物になるのか」
「ともかくスパイではないのは確か。……あの男は本当にセーリスのことを大切に想っているみたい」
少女デルメルの言葉にカアスは目を閉じる。はぁ、とため息をつき、天井へと視線を向けた。
「若造だしな。貴重な第二世代だというのにすぐお役御免か、勿体ない」
「まだどう転ぶかは分からないけど、仕方ないわ。創造神に決して繁栄しないよう創られた私たちは、死ぬか人に成るかそのどちらかしかないの」
「ふ、姉様は死ぬ他無いがな」
「今ここで死にたいの」
「最近退屈でな。構ってほしいぞ、姉様」
ちっ、と舌打ちをしてデルメルはカアスから視線を逸らす。
「セーリス姫の方はどうだ。その気はありそうなのか」
「酷い失恋をしてから恋愛を諦めてるから、どうかしらね。まぁ、軍に入る前から顔見知りだったみたいだけれど……」
意味深に目を伏せるデルメルは、セーリスを侮辱された時のヘニルの姿を思い出す。
あれは、演技などでは無い。あの純正の殺意こそ、デルメルに彼の潔白を確信させる決定打となった。そしてセーリスに対するあまりにも純粋な好意も。
「ともかく、あの男は来るべき戦いに連れて行く。比較的王国の情勢が不安定な今、ニーシャンもカムラも黙って見過ごすようなことはしない。あの戦力を有効活用するためにも、今まで通り監視を続けて」
「なかなか難しいんだが」
「……多分だけれどあの男は自分に人の意識が向いているというのが分かるのよ。別に貴方がきちんとした観察というものができるとはかけらも思ってないわ」
「相変わらず手厳しい」
小さく息を吐き、カアスは踵を返す。
「ともかく了承した。同じ神族同士、打ち解けてみようじゃないか」
そうとだけ言い残し、彼女は去って行く。その様を見つめていたデルメルは困ったように眉を下げた。
「本当に大丈夫かしら……セーリスも、あとカアスも」
04 陰口を無視して我慢する代 了
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