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03-04 不出来さの吐露
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「がんばろうとしても、緊張しちゃって……お姉様みたく、ぜんぜんうまく、できなくて……」
「ふんふん」
「また何か言われるって思ったらこわくて……もっとできなくなって、……死にたい」
酔いが回ってきた頭と身体がふわふわするようだった。ヘニルはあれこれセーリスに質問して、彼女は深く考えずそれに答えてしまう。
ヘニルは酒を飲ませるのが上手かった。ほいほいと乗せられるまま酒を呷り、気がつけば日々感じている虚しさや自分の不出来さに対する愚痴を赤裸々に語ってしまっていた。
「お姉様とは仲が悪いんですか?」
「悪い……とかじゃなくて、なんか、お互い関わらないようにしてる……」
頭に浮かぶのは自分とは違う、美しい黒髪を持った姉の姿。大きな瞳、長い睫、染み一つない真っ白な肌、すらりとした背と豊かな体付き。どれも自分に無いものだ。
「お姉様は、私が能天気に生きてるのが、気に入らない、んだと思う……。後は……、私のせいで、お母様は死んで、しまったから……」
「……、どうして姫様のせいなんですか?」
「お母様は身体が、弱くて……私を産んで、耐え切れなかった、って」
はぁ、とヘニルのため息が聞こえてきて机に突っ伏していたセーリスは不安げに視線を上げた。ゆっくりと思考すれば、自分は何て話をこの男にしているんだと思い至り、また死にたくなる。
もう終わりだ。呆れられたに決まっている。そう思った。
「もしも女王がそれを理由にしてあんたを嫌ってるなら、俺は絶対に女王を許しません」
「…………ふぇ?」
「絶対に、絶対に許しません。いっそ殺してやりたいくらい……」
そこでヘニルは息を呑むと、一瞬目を伏せ、すぐに優しく微笑んだ。
「ま、大丈夫ですよ。オネーサマの話はともかく、これからは俺の功績があんたの功績になるんですから、不出来だとかそんなこと考える必要はありません。そもそも、その為に俺を勧誘したんでしょ?」
優しい声にセーリスは顔を上げる。目の前に座るヘニルも結構酒を飲んでいるはずなのだが、酔っている雰囲気は全くない。
「そんなこと、ない。ヘニルの功績はヘニルのものよ、私のじゃない……」
「そぉんな暗いこと言わないでくださいよ。もっと自信持って、俺に命令できるのはあんただけなんですから」
命令できる、その言葉でセーリスは何かを思い出しかける。それがとても大事なことだったような気がして、必死に酒に浸った頭で考える。
「あぁーっ」
「どうしました?」
少し呂律の回っていない声にヘニルはニヤニヤと笑っている。それを見てセーリスは眉を寄せると、ぐっとテーブルの上に乗り出した。
「あんら、訓練さぼってるって、聞いたわよ。ちゃんとやりなしゃい」
「んふふ、もしかして今日はそれを言うために?」
「そーよ」
そうですかぁ、と彼は嬉しそうに笑っている。相変わらず感情表現が謎めいている彼は、身を乗り出した彼女の頬をそっと撫でる。
「じゃあ今日はもう遅いし、明日の晩伺いますよ」
「あしたさぼったらデルメル様が来るのよ……! 怒らすなっていったのに」
「なるほどそうですか。じゃあ」
ヘニルは立ち上がるとすぐにセーリスの隣に座ってくる。火照った身体を抱き寄せたかと思えば、大きな手でするりと太腿を撫でる。
「今すぐしましょうか……このままの方がもっと可愛い姿が拝めそうですし」
そう言って彼は怪しく笑った。
「ふんふん」
「また何か言われるって思ったらこわくて……もっとできなくなって、……死にたい」
酔いが回ってきた頭と身体がふわふわするようだった。ヘニルはあれこれセーリスに質問して、彼女は深く考えずそれに答えてしまう。
ヘニルは酒を飲ませるのが上手かった。ほいほいと乗せられるまま酒を呷り、気がつけば日々感じている虚しさや自分の不出来さに対する愚痴を赤裸々に語ってしまっていた。
「お姉様とは仲が悪いんですか?」
「悪い……とかじゃなくて、なんか、お互い関わらないようにしてる……」
頭に浮かぶのは自分とは違う、美しい黒髪を持った姉の姿。大きな瞳、長い睫、染み一つない真っ白な肌、すらりとした背と豊かな体付き。どれも自分に無いものだ。
「お姉様は、私が能天気に生きてるのが、気に入らない、んだと思う……。後は……、私のせいで、お母様は死んで、しまったから……」
「……、どうして姫様のせいなんですか?」
「お母様は身体が、弱くて……私を産んで、耐え切れなかった、って」
はぁ、とヘニルのため息が聞こえてきて机に突っ伏していたセーリスは不安げに視線を上げた。ゆっくりと思考すれば、自分は何て話をこの男にしているんだと思い至り、また死にたくなる。
もう終わりだ。呆れられたに決まっている。そう思った。
「もしも女王がそれを理由にしてあんたを嫌ってるなら、俺は絶対に女王を許しません」
「…………ふぇ?」
「絶対に、絶対に許しません。いっそ殺してやりたいくらい……」
そこでヘニルは息を呑むと、一瞬目を伏せ、すぐに優しく微笑んだ。
「ま、大丈夫ですよ。オネーサマの話はともかく、これからは俺の功績があんたの功績になるんですから、不出来だとかそんなこと考える必要はありません。そもそも、その為に俺を勧誘したんでしょ?」
優しい声にセーリスは顔を上げる。目の前に座るヘニルも結構酒を飲んでいるはずなのだが、酔っている雰囲気は全くない。
「そんなこと、ない。ヘニルの功績はヘニルのものよ、私のじゃない……」
「そぉんな暗いこと言わないでくださいよ。もっと自信持って、俺に命令できるのはあんただけなんですから」
命令できる、その言葉でセーリスは何かを思い出しかける。それがとても大事なことだったような気がして、必死に酒に浸った頭で考える。
「あぁーっ」
「どうしました?」
少し呂律の回っていない声にヘニルはニヤニヤと笑っている。それを見てセーリスは眉を寄せると、ぐっとテーブルの上に乗り出した。
「あんら、訓練さぼってるって、聞いたわよ。ちゃんとやりなしゃい」
「んふふ、もしかして今日はそれを言うために?」
「そーよ」
そうですかぁ、と彼は嬉しそうに笑っている。相変わらず感情表現が謎めいている彼は、身を乗り出した彼女の頬をそっと撫でる。
「じゃあ今日はもう遅いし、明日の晩伺いますよ」
「あしたさぼったらデルメル様が来るのよ……! 怒らすなっていったのに」
「なるほどそうですか。じゃあ」
ヘニルは立ち上がるとすぐにセーリスの隣に座ってくる。火照った身体を抱き寄せたかと思えば、大きな手でするりと太腿を撫でる。
「今すぐしましょうか……このままの方がもっと可愛い姿が拝めそうですし」
そう言って彼は怪しく笑った。
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