鈍感王女は狂犬騎士を従わせる

りりっと

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03-03 酒場へ

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 仕事を終えた後、セーリスはふらふらと王城内を歩き回り、ヘニルを探す。今日は既に朝声をかけられていたためもう兵舎に戻ってしまっただろうかと。そう思ったところで不意にその男は現れた。


「誰かお探しですか、姫様」
「! ヘニル、探したわよ」


 探していたのはお前だとそう言えば、ヘニルは一瞬真顔になると何故か嬉しそうに笑う。


「俺を探してたんですか、そうですか! 気が変わって遊びに行きたくなったんですか?」
「そんなわけ……」


 無い、と言いそうになってセーリスは口を噤む。もしかしたらここでいつものように素っ気なく否定して説教のようなものをすれば、流石のヘニルも臍を曲げるかもしれない。彼のサボり癖は今すぐに直さなければならず、矯正に失敗すれば明日デルメルが直々に出向いてくるのだ。

 そんなことになればヘニルがデッドエンドだ。


「……分かったわ、行きましょう」
「え、ほんとに」
「いいから行くわよ、今から、今から!」


 外に出るなら外套も用意して服も着替えなければ、と口にするセーリスを見て、ヘニルは口を噤む。その様子に気付いたセーリスがどうかしたかと問い掛ければ、彼は鈍く首を横に振った。


「なんでもないですよ。行きましょう、姫様」


 儚げに笑ってヘニルはセーリスの視線に合わせるように僅かに腰を折った。



 ……



 仕事終わりの外出、ということだったため、街に下りた時にはとっくに夜になっていた。今まで散々誘ってきたのだから行く宛はあるのだろうと、そう思いながらヘニルの後をついていけばそこはそれなりに高級そうな雰囲気の酒場だった。ちなみに彼を勧誘した酒場とは全然違う。


「遊びに行くって言って行く場所が酒場ぁ? あと私、お酒飲めないけど」
「じゃあ今日初チャレンジしましょう。酒はいいですよ」


 ヘニルから漂うろくでなしの印象が一層強くなる。はぁ、と大きくため息をつきながらも、これもヘニルをデルメルと衝突させないためと言い聞かせ、渋々と了承する。

 それなりの高所得者が利用するためか、きちんと壁と扉で遮られた個室がいくつかある。すれ違った一組の客に見目麗しい女性を連れた者がいるのを見て、セーリスは何かを察してしまう。


「(ほんと……この男は)」


 案の定店の奥側の個室に入り、ヘニルは適当に何かを頼む。その様をジトっとした目で見つめて、セーリスは再度ため息をついた。


「いやぁ、まさか姫様と酒が飲めるとは」
「ここでそう呼ぶのやめて」
「じゃあ何てお呼びしましょう。名前……もまずいですよね。じゃあ、お嬢様とか」
「別に名前でいいわ。珍しい名前でもないし」


 妙にテンションの高いヘニルに対してテンション低めのセーリスは言う。


「じゃあセーリス様?」
「様つけたらバレるでしょ」


 そうか、と彼が悩むように首を傾げたところでいくつか酒らしきものが持って来られる。それと一緒に軽食も。


「……まさかまた私にたかるつもり」
「いやいやまさか! ちゃんと俺が払いますよ、別に金が無いわけでも無し。安い酒は好きですが、あんたに飲ませるもんじゃないですから」
「私は別にお酒を飲みに来たわけじゃ……」
「ほら、これなんかいいと思いますよ」


 ぐいっと差し出されたグラスを仕方なく受け取る。すん、と匂いを嗅いでみれば、香ばしい果実を思わせる、美味しそうな匂いがする。少しだけ興味が惹かれて飲んでみれば、口の中にはまろやかな甘みが広がっていく。


「…………」
「美味しいですか? 好きなだけ飲んでいいんですよ、俺のおごりです」
「いや、さすがにそれは……」


 どう見ても高そうな割に大した量が入っている訳でもない。それにヘニルが何を狙っているのか分からない、そんな不安もあって断ろうとする、のだが。

 ヘニルという男は確かに曲者だった。
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