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03 誕生日会!
5 お祝い始まります
しおりを挟むお祝いが始まる少し前、さりげなく王城に戻ってきました。
王城から出てくるときにも思ったけど、ハッター先生のステルス魔法は凄まじく、王城の門を堂々と通り抜けてきたにもかかわらず、門番さんたちは全く気にしている様子もなかった。きっと先生がその気になれば世間を揺るがす大怪盗にだってなれてしまうのだろう。
イメージしてみればちょっと似合うような気がした。
けれど許可なく王城を出入りするのは悪いことだ。こんなことして、バレたらどうするんですか、とハッター先生に聞いてみたら。
「んー、多分大丈夫。不法侵入もね、多分だけど、そこまで怒られないと思う」
謎の自信を持っておられた。
そういえばフェルナン様も前に王城で会ったみたいなことを言っていたし、学園長というものは普段から王城に出入りするような人なのかもしれない。先生は引きこもりだけど。
応接間に戻るのは怪しまれる、ということでそのまま会場であるホールに向かった。既にちらほらと招待されたお偉い方たちが談笑している。
この空気感いやだなぁ、って思っていると声をかけられる。そこに居たのは。
「アリシェール様! よかった、無事に帰ってこられて……」
「ど、どうも、ロサリア……」
ロサリアさんでした。普段学園にいるときより少しだけお粧ししている。可愛らしい。
祝宴の主役であるクレイン王子は既に準備に取り掛かっているのだろう。ロサリアは一人で待っていたようだ。
「(思えばこのタイミングでアリシェールに嫌味を聞かされるんだった……)」
「クレイン様から、アリシェール様の姿が見えなくなったと聞き、もしかしたら悪い妖精に連れ去られたのではないかと心配しておりました」
まだまだ妖精を信じているロサリア。なんだかファンシーだ。
しかし、本当は妖精なんて憑いてないのに憑いてると周知されるのは、ちょっと危ないかもしれない。妖精のことをよく知っている人なんかがいれば嘘は即座にバレてしまう。
それに妖精に憑かれるような悪行をしたのだと、そう思われる可能性もある。あれ、これ悪手だったんじゃないんですか先生。
「ロサリア、その、妖精の話って、お城の人とかに話したのかな……」
使用人づてに噂にでもなって、王様とか両親に知られたら……詳しく調べられ、嘘がバレてしまう。
「いえ、あまり周知されてはアリシェール様のご迷惑になるかと思いまして」
「(さすがロサリアちゃん)」
王子を骨抜きにする才女なだけはある。
「あ、でも、一応クレイン様とフェルナン様にはお話したのですよ。クレイン様は少し納得してくださったようでした」
そういえばロサリアは二人にも話してみる、なんて以前言っていた。大事なロサリアの訴えだ、クレイン王子は自分の目よりもロサリアを信じることにしたのだろう。
だがこの流れでは、フェルナン様は。
「でも、フェルナン様はなぜか意固地になっておられるようで、今日もアリシェール様のことが心配ではないのですかと聞いたら、その……」
言いづらそうにロサリアは口籠る。この反応をする、ということはどうでもいいとか知らないとか、そういう冷たい反応が返ってきたのだろう。
「そっか」
「アリシェール様……」
「大丈夫。クレイン様にもフェルナン様にも、話してくれてありがとね、ロサリア」
悲しいなと思った。大好きなフェルナン様にぞんざいに扱われるなんて。というか、美男に冷たく接されれば、どんな女子だって絶望する。
けれど怒鳴られたあのときよりかは重く受け止めずに済んだのは、どうしてだろう。
「(近くに先生が居てくれてるからかな……あれ、先生?)」
孤立していた頃とは違い、味方でいてくれる先生の存在は大きい。そんなことを考えていれば、いつの間にか先生が側からいなくなっている。
どこに行ったのだろう。ロサリアが近くにいる状態で私の側から離れないで欲しい、切実に。
「それで、先ほどまでどちらに居られたのですか?」
「え? あぁ、それは……」
先生が近くにいないのならせっかく用意してきた言い訳が使えなくなる。ここはやはりトイレで虚無の時間を過ごしていたことにするしかないかもしれない。
「と、とい……」
「実は王城を案内してもらっていたんだ」
ずいっと背後からその人の顔が現れる。それに驚いてびくりと肩を震わせれば、いつの間にか戻ってきていたハッター先生はくすくすと笑った。
「学園長先生も来ておられたのですね」
「まぁ、これでも可愛い生徒の誕生日だから、ちゃんとお祝いしてあげないと」
行くつもりなかったって言ってませんでしたっけ?
「始まる時間を間違えて早く来てしまってね。それで王城の中をふらついていたら、偶然応接間でしょげてたリオルさんを見つけたんだ」
「しょげてないです」
「少しでも気分転換ができればと王城を案内してもらっていたら、なんか王城の地下みたいなとこ入っちゃって、迷っちゃったんだ」
先生の用意した言い訳はこうだった。地下で迷っていました、と。
ちなみに、王城の地下は実際にある。ゲーム中ではフェルナン様ルートでのみ、ヒロインがそこへ迷い込んでしまうというハプニングがあるのだ。それでフェルナン様に見つけてもらえると。いいなぁ。
「危うく遭難するところだったよ。あ、でも怒られたくないからこれは秘密ね」
しーっと人差し指を唇にあてて、ハッター先生はロサリアに言い聞かせる。もちろん、心配になるくらい先生の言葉を鵜呑みにしてしまうロサリアは、疑うことなく頷いた。
「アリシェール様が落ち込んでおられた、というのは?」
「あ、あぁ……ちょっとフェルナン様と、ね?」
その言葉だけでロサリアは察してくれる。小さくいつか分かってくださいますと、そう声もかけてくれる。よくできた子だ。
そこで会場に誰かの声が響く。式典の進行役の呼びかけのようだ。
「さて、そろそろ始まる頃かな」
空が暗くなり始めた夕方。会場にもほとんど招待客が集まっている。
式が始まると聞いたロサリアは近くでクレイン王子の晴れ姿をみるつもりなのだろう。一礼すると、彼女はステージの方へと向かっていった。
そこから、ある意味で私の知っているお誕生日会よりも別のベクトルで厄介な、長々とした式典が始まったのだった。
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