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01 共闘結成!
5 チートキャラでした
しおりを挟む後日。私はハッター先生を信じることにして、一応まだ学園に通い続けることにした。
相変わらずフェルナン様の視線は刺々しい。そんな視線に曝されるのも日々心が痛むが、これも償いとして耐えることを決めた。
きっといつか、フェルナン様にもロサリアにも、事情を話せて謝れる日がくる。そのために私は、ハッター先生とよくわからない契約をしたのだから。
恋人ごっこ。その意味は未だによく分からないけれど、ひとまず彼は私を常に見守ってくれているようだ。朝は学園長室のテラスから手を振ってくれてたし、授業の間にたまに様子を覗きに来たりする。
……学園長って、暇なのかな。そう思っちゃうけど。
けれど、自分のことを分かってくれる人がいる、それだけで胸が空くような心地だった。
「にしても本当に、恋人ごっこ、って何だろう……」
ぼんやりと考え事をしながら放課後に持ち物を整理していると、見慣れない本を一冊見つける。だがこれは、少し前に汚してしまったロサリアの本を弁償しようと取り寄せてもらったものだった。
「……せめてこれ、渡せないかなぁ」
本は至って普通の小説だ。恋愛ではなく、冒険小説なのがロサリアちゃんらしい。ああ見えて彼女はけっこうサバサバとした爽やかな感じの女の子なのだ。
王侯貴族、並びにその護衛の騎士たちが集まるこの学園で、平民でありながら推薦を勝ち取ってここに来た彼女は多くの苦労をしてきたはずだ。そんな彼女にとって心を癒してくれる存在が、この一冊だった。
「(クレイン王子と仲良くなったのも、この読書趣味からだもんねぇ……)」
そう思えば余計に、この本は大事なもののように思えてくる。
今はハッター先生も見守ってくれている。なら一度、これをロサリアに渡して、一度でも謝罪をするべきではないのだろうか。
「……」
少し躊躇してしまいそうになるも、意を決して私は学園の敷地内で彼女の姿を探し始めた。
以前のようにすんなりロサリアは見つかった。だが彼女は私の姿を見た途端、すぐさま回れ右をして駆け出してしまう。
「あ、待って……!」
ここで追いかけたのがよくなかった。
ぱたぱたと足音を響かせ、私とロサリアの追いかけっこが始まった。その光景は当然目立つわけで。
気づけば学園の裏庭まで来ていて、ようやくロサリアが足を止めたかと思えば、そこに待ち構えていたのはフェルナン様だった。
「アリシェール、これはどういうことだ」
「あっ、ち、違うんです、フェルナン様、私はただ、この本を……」
「またそんな嘘をついて」
聞く耳を持ってくれないフェルナン様に私は俯く。
嘘をつき続けた狼少年のように、もう彼は私を信じてはくれないのだろう。その事実に、やはり胸が痛む。
しかしこの状況はまずい。何かあったらハッター先生がなんとかしてくれる、なんて気軽に思いこみすぎて、勝手をしすぎたかもしれない。
「(や、やらかした……?)」
「言ったはずだ、アリシェール。二度とロサリアに近付くなと。それを破ったということは、覚悟はできているんだな」
そう言ってフェルナン様はその瞳に非難の色を映す。
終わった。出来心で無茶なんてしようとしなければよかった。
と、そんなところで。
「随分と剣呑な空気だね、フェルナン王子」
ぽん、と私の肩に覚えのある手袋をした手が現れる。そして頭上から降ってくる声は、昨日私に寄り添ってくれたものだ。
「貴方は確か……学園長、先生」
「えっ、フェルナン様、ご存知だったのですか……?」
怪しい人という印象しかなかった私は、フェルナン様が普通にこの人を学園長と認識していることに驚いた。
え、だって、見たことなくない?
ロサリアだって“そうだったの”って顔してるよ。
「以前王城での祝祭でお会いしたことがある、はずだ」
「うーん、そうだったかなぁ」
どう考えてもすっとぼけているハッター先生。確かにこの魔法学園は名門だけれど、学園長クラスになるとお城のお祝いにも呼ばれてもおかしくはないかもしれない。
「まぁ、そんなどうでもいい話は置いておいて。どうか彼女を責めないであげて欲しいな。彼女にお使いを頼んだのは僕だから」
「お使い、ですか?」
「そう。イーノスさんに本を届けてあげてって」
イーノスというのはロサリアの姓だ。というか、ナイスサポートすぎる、先生。その権力も相まって、彼の言葉全てが真実として塗り替えられていくようだ。
「汚れてしまったから綺麗にしたいって、リオルさんが持ってきてくれたんだよ」
「アリシェールが……?」
疑いの視線を向けてくるフェルナン様に、私は慌ててハッター先生の方を向く。
いやだってこれ新しく買ったものだし。ロサリアちゃんのはお家に置いてきちゃったし!
そんなことを内心で訴えていると、耳元に顔を寄せて先生は内緒話をしてくる。
「さぁアリス、イーノスさんに渡してきて。大丈夫、ちゃんと見ててあげるから」
「は、はいっ」
ハッター先生に見守られつつ、フェルナン様に訝しげに睨まれつつ、私はゆっくりとロサリアの前へと歩み出た。さすがに二人も居ればロサリアも安心なのだろう、逃げずに待っていてくれる。
「その、ロサリア……踏んづけて、ごめんなさい!」
頭を下げながら、私は本を差し出した。
彼女はそれを恐る恐るといった手つきで受け取る。そして中身を確かめるようにぱらりと表紙を開いた。
「(あ“っ、それは新品なんです……!!)」
「これ……」
バレましたか、と思い俯いていると、彼女は受け取った本を胸に抱きしめる。その様子に驚いていると、ロサリアは深々と頭を下げた。
「アリシェール様、ありがとうございます。これは、祖父から貰った大事なものなのです」
「(そういえばそうだっ……え? 新品……?)」
何をしたんだと言いたげにハッター先生を見つめれば、上手なウィンクを返してくれる。アイドルか。
「あ、で、でも、直したのは、ハッター先生だから……あは、あはは……」
「先生も、ありがとうございます。先日も落とし物を拾っていただいて、まさか学園長先生だとは知らずに……」
「(いや本当に)」
寧ろフェルナン様の反応で本当にこの人学園長だったんだ、なんて思った。
フェルナン様の視線も流石に刺々しさがなくなっている。
これは、セーフです。生き延びました、私。
「ひとまず、大事な本が戻ってきて良かったね。じゃあリオルさん、後片付けを手伝ってもらいたいからついて来てくれるかな?」
「あっ、はい」
もしかしたら勝手なことをしたのだとお叱りを受けるかもしれない。
そんな覚悟を決めつつ、私はフェルナン様とロサリアと別れ、先生の後をついていった。
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