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しおりを挟む三度目のナシラの休日。本来ならば、昼ごろまでぐっすり寝て、午後は散歩したり何なりして、そして夜はゆっくり大浴場でくつろいで、そんな時間が過ぎるはずだった。
だがしいらにはしたいことがあった。それは、外出だ。
ナシラは基本的にオツロのもとへ行くときを除けば、聖宮から一歩も出ることはない。本人はそれを嫌がっている感じはないが、しいらからしたら随分と窮屈そうに思えた。
だから彼女はルーヴェに訴えたのだ。ナシラと一緒に街へ行きたいと。
「駄目です」
「なんでぇー!」
予想はしていたが、しいらの提案は即座に却下された。
「ナシラは有名人です。行事以外で街中など歩けません。それに、外出の際に何か問題が起きたらどうするんです」
「問題って例えば?」
「市民に囲まれてナシラや貴女が怪我をしたり、或いはナシラが誰かに怪我を負わせる可能性もあります。催し以外での献上品は賄賂として禁止されているのに押し付けられたりもします。そんな状況を、しいら殿一人で対処できるとは考え辛い」
「うぐ……」
ナシラの顔が市民に知られているというのは間違いない。何せ露店で似顔絵が売られているくらいだ、一目でバレてしまうだろう。
「でもでも、見た目だったらほら、隠せるし。ナシラが髪結べば雰囲気も結構変わるから、そんな簡単には分からないって!」
「とてもそうは思えません」
「大体、みんなナシラがその辺歩いてるなんて思わないから大丈夫だよ。ね、ちょっとだけだから、すぐ帰ってくるから!」
「駄目なものは駄目です。諦めてください」
「貴重な休日なのに!」
頑ななルーヴェにしいらは眉根を寄せる。この司祭、分かってはいたがかなり頑固だ。
ルーヴェが心配するのも分かる。ナシラはアイゴケロースにとって何よりも大事な英雄だ。彼を失うということは、この世界の終わりを意味している、といっても過言ではないだろう。
だがそれでも、世界を背負うという重責を担ったナシラに少しでも穏やかな休日を過ごしてほしい、そんな身勝手な思いがあった。
却下続きで不満そうにしているしいらの顔をじっと見つめていたナシラは、それまで閉じていた口を開く。
「ルーヴェ、街に行きたい」
「ナシラまで……」
「僕はアイゴケロースの執政なんだろう。司祭の許可は、必要ない」
それにルーヴェは頭を抱える。一応立場上はナシラの方が上、なのだろう。すっかり忘れていたが。
「お願い、ルーヴェさん」
「うっ……」
ナシラに合わせてしいらも手を合わせて懇願する。そうすればルーヴェはぐらぐらと揺れるような様子を見せ、重々しくため息をついた。
「一時間だけ、ですよ。念のため各所に護衛を配置させていただきます。それと、時間厳守且つ内密にお願いします。他の司祭たちに知られたら、私が罰を受けることになってしまう……」
「やったー!」
ようやく出たお許しにしいらは思わずガッツポーズをした。ナシラの方を見れば、彼も柔らかく笑っている。
「出かける前に変装しなきゃ! ナシラの髪も結んじゃうぞー!」
「あ、その前にナシラ。少し……二人で話を」
そう言うや否や、ルーヴェはナシラを連れてしいらから離れていく。
なんだか仲間外れにされたみたいで、しいらは不満そうに頬を膨らませる。しかし政治のことなどはさっぱり分からないため、無理に首を突っ込むようなことはしなかった。
「(それにしても、英雄は執政でもあるんだ……なのに基本司祭さんたちとか、ガレアノおじいちゃんが政治みたいなの担当してるんだなぁ。英雄が戦いで忙しいから、なのかな?)」
今更ながらそんなことを不思議に思った。
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