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その後は寄り道することなく、しいらはルーヴェと共に聖宮と呼ばれる場所へと向かった。
途中、アレですよと遠くの建物を指し示されてからおよそ三十分は歩き、ようやく辿り着いたのは塔が併設された巨大な宮殿だった。
「でっっっか」
「もう日が沈みかけている。早くしないと、ナシラが戻ってきてしまいます」
ルーヴェに急かされるまま、しいらは宮殿内へと足を踏み入れた。世界遺産のようなこの建物はやけに広いため、街中を移動するのと同じくらい目的の部屋に向かうのは大変だった。
先に宮殿内を案内されるのかと思いきや、しいらが連れてこられたのは塔の最上階だった。彼女からしたら小学校の体育館くらいある広さのそこには、巨大な何かがある以外、他に物は置かれていない。
また、外を眺める用なのか、一部壁が取り払われており、そこには落下防止らしき柵がつけられている。巨大なバルコニーのようだ。
部屋には壁面に光る石のようなものが設置されており、柔らかな白い光で照らされ十分明るい。白を基調とした室内はどこか幻想的な雰囲気があった。
「ね、ねぇ……ルーヴェさん、あれっ、あれって……はぁ、なに……?」
塔に登るまででかなり消耗しながら彼女は聞く。あの巨大な何かは何だと。
見た目はだだっぴろいシーツだ。ついでに天蓋らしきものもついていて、境界を仕切るようにカーテンが垂れ下がっている。
「あれは一応ナシラのための寝台です」
「はー、英雄様はベッドサイズも英雄級なのね。キングサイズベッド何十個分よあれ」
「キングサイズなるものはよく分かりませんが、ナシラはアイゴケロースの支柱。この国の誰よりも贅を凝らした生活をするのは当然です」
「へ、へぇ」
こうも目に見えて英雄の存在の大きさを見せつけられると、流石にしいらも物怖じしてしまう。イケメンで国の支柱で、自分は一体どんな男の夜の相手をさせられるんだろうと。
そこでルーヴェを誰かが呼び止める。この巨大な部屋に集まっている人々と同じ格好をしているため、使用人のようなものなのだろう。
「ルーヴェ、アプシェ……」
「もうすぐ到着されるそうです。しいら殿、着替えを済ませてください」
「えっ、もう着替え? お風呂入ったりとかは……身体綺麗にした方が」
「ナシラはそんなこと気にしません」
「えぇ……」
ルーヴェが控えていた女性の使用人らしき者たちに声をかければ、彼女らはしいらの服を引っ張ってくる。脱げと言われているのが分かった彼女は、用意してもらった衝立のようなものに隠れながら身につけていた服を脱ぎ捨てた。
「え、下着も、脱ぐの……? わ、分かったって……」
ブラジャーどころか、パンツまで引っ張られた彼女は仕方なくそれも脱ぎ捨てる。裸の上から簡素だが上質そうな白のワンピースのようなものを着ると、準備は終わったらしく女性たちは下がっていく。
「覚悟はできましたか」
「まぁ……もうどうにでもなれって感じだけど」
これも家賃食費光熱費医療費のため、そう早口で呪文のごとく呟いて、しいらは大きく深呼吸をした。
思ったよりも緊張はしていなかった。あの頃と変わらず、失くすもののない彼女には、もはや自分の貞操がどうとかいう発想はなかったのだ。何せもうすでに一度どうでもいいと捨てたものなのだから。
「痛くないといいなぁ」
ハードなプレイなんかが好きな人だったらどうしよう。そんなことを考えていたときだった。
まるで地震のように建物が揺れる。それに驚いて倒れ込みそうになるのを、すぐにルーヴェが支えてくれる。
「なに、地震……!?」
「……いえ」
顔を上げたしいらは、大きく開いた壁の穴からその異形の姿を捉えた。
白を基調とした体色。左右非対称に生えた龍のような翼。頭は蛇のようで首が長く、胴体と脚は肉食の恐竜に近い姿をしていた。ついでになぜか、背中からは触手のようなものが何本も生えている。
そして何より、相当に大きかった。頭は軽く人間を丸呑みできるサイズだろう。
「てっ、敵襲! てきしゅー!!」
「違います。あれは」
突然現れた怪物の姿に慌てるしいらを、ルーヴェが押し留める。
「あれが、アイゴケロースの英雄、ナシラ・アルシャフトです」
「へ、えっ、は、はぁ!?」
思わずしいらは手に持っていた似顔絵とその怪物を何度も交互に見た。どこからどう見ても似ていない、どころか全くの別物だった。
「……では、後を頼みましたよ、しいら殿」
さも自分の役目はここまで。そう言いたげに離れていくルーヴェや他の使用人たちの姿に、のそのそと壁の大穴から入ってくる怪物の姿がチラついて動けないしいらは叫んだ。
「ルーヴェさんの嘘つきぃいい!」
01 了
途中、アレですよと遠くの建物を指し示されてからおよそ三十分は歩き、ようやく辿り着いたのは塔が併設された巨大な宮殿だった。
「でっっっか」
「もう日が沈みかけている。早くしないと、ナシラが戻ってきてしまいます」
ルーヴェに急かされるまま、しいらは宮殿内へと足を踏み入れた。世界遺産のようなこの建物はやけに広いため、街中を移動するのと同じくらい目的の部屋に向かうのは大変だった。
先に宮殿内を案内されるのかと思いきや、しいらが連れてこられたのは塔の最上階だった。彼女からしたら小学校の体育館くらいある広さのそこには、巨大な何かがある以外、他に物は置かれていない。
また、外を眺める用なのか、一部壁が取り払われており、そこには落下防止らしき柵がつけられている。巨大なバルコニーのようだ。
部屋には壁面に光る石のようなものが設置されており、柔らかな白い光で照らされ十分明るい。白を基調とした室内はどこか幻想的な雰囲気があった。
「ね、ねぇ……ルーヴェさん、あれっ、あれって……はぁ、なに……?」
塔に登るまででかなり消耗しながら彼女は聞く。あの巨大な何かは何だと。
見た目はだだっぴろいシーツだ。ついでに天蓋らしきものもついていて、境界を仕切るようにカーテンが垂れ下がっている。
「あれは一応ナシラのための寝台です」
「はー、英雄様はベッドサイズも英雄級なのね。キングサイズベッド何十個分よあれ」
「キングサイズなるものはよく分かりませんが、ナシラはアイゴケロースの支柱。この国の誰よりも贅を凝らした生活をするのは当然です」
「へ、へぇ」
こうも目に見えて英雄の存在の大きさを見せつけられると、流石にしいらも物怖じしてしまう。イケメンで国の支柱で、自分は一体どんな男の夜の相手をさせられるんだろうと。
そこでルーヴェを誰かが呼び止める。この巨大な部屋に集まっている人々と同じ格好をしているため、使用人のようなものなのだろう。
「ルーヴェ、アプシェ……」
「もうすぐ到着されるそうです。しいら殿、着替えを済ませてください」
「えっ、もう着替え? お風呂入ったりとかは……身体綺麗にした方が」
「ナシラはそんなこと気にしません」
「えぇ……」
ルーヴェが控えていた女性の使用人らしき者たちに声をかければ、彼女らはしいらの服を引っ張ってくる。脱げと言われているのが分かった彼女は、用意してもらった衝立のようなものに隠れながら身につけていた服を脱ぎ捨てた。
「え、下着も、脱ぐの……? わ、分かったって……」
ブラジャーどころか、パンツまで引っ張られた彼女は仕方なくそれも脱ぎ捨てる。裸の上から簡素だが上質そうな白のワンピースのようなものを着ると、準備は終わったらしく女性たちは下がっていく。
「覚悟はできましたか」
「まぁ……もうどうにでもなれって感じだけど」
これも家賃食費光熱費医療費のため、そう早口で呪文のごとく呟いて、しいらは大きく深呼吸をした。
思ったよりも緊張はしていなかった。あの頃と変わらず、失くすもののない彼女には、もはや自分の貞操がどうとかいう発想はなかったのだ。何せもうすでに一度どうでもいいと捨てたものなのだから。
「痛くないといいなぁ」
ハードなプレイなんかが好きな人だったらどうしよう。そんなことを考えていたときだった。
まるで地震のように建物が揺れる。それに驚いて倒れ込みそうになるのを、すぐにルーヴェが支えてくれる。
「なに、地震……!?」
「……いえ」
顔を上げたしいらは、大きく開いた壁の穴からその異形の姿を捉えた。
白を基調とした体色。左右非対称に生えた龍のような翼。頭は蛇のようで首が長く、胴体と脚は肉食の恐竜に近い姿をしていた。ついでになぜか、背中からは触手のようなものが何本も生えている。
そして何より、相当に大きかった。頭は軽く人間を丸呑みできるサイズだろう。
「てっ、敵襲! てきしゅー!!」
「違います。あれは」
突然現れた怪物の姿に慌てるしいらを、ルーヴェが押し留める。
「あれが、アイゴケロースの英雄、ナシラ・アルシャフトです」
「へ、えっ、は、はぁ!?」
思わずしいらは手に持っていた似顔絵とその怪物を何度も交互に見た。どこからどう見ても似ていない、どころか全くの別物だった。
「……では、後を頼みましたよ、しいら殿」
さも自分の役目はここまで。そう言いたげに離れていくルーヴェや他の使用人たちの姿に、のそのそと壁の大穴から入ってくる怪物の姿がチラついて動けないしいらは叫んだ。
「ルーヴェさんの嘘つきぃいい!」
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