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03 お叱り

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 別の日。またクラクスと退屈な書類仕事をしていると、イメリは王の呼び出しを受けることとなった。クラクスの付き添いの申し出をすぐに終わるだろうからと断り、さっさと顔を出しに行けば、付き合いの長い王は親しみのある口調で言った。


「イメリちゃん……ゴート卿、全治十二ヶ月だって。ちょっとやり過ぎだよ」


 そう、縁談で相手に怪我を負わせたことへのお叱りだった。

 以後は王より小言のような注意をたっぷり一時間聞かされることとなった。本来であれば厳しい処分が下されるはずだったが、今回の縁談が姫君による嫌がらせだとは分かってはいるのだろう。王は治療費の負担と厳重注意という形で済ませてくれた。

 帰り際には、心底楽しそうな顔でイメリを見つめる姫君ともすれ違った。前に姫には可哀想なことをしてしまったと思っているイメリも、流石にこれにはイラッとした。


「そもそも、あの件だってわたしは何も悪くないじゃないか。向こうが勝手に勘違いしただけだってのに……」


 勘違いというのは、まだ女性の格好をしていなかったイメリを男と勘違いし、姫が恋をしてしまったというもの。イメリに熱烈にアタックしてきた可愛らしい小さなお姫様は、実は彼女が女だということを知り、心に深い傷を負ってしまったのだ。


「くそー、イライラするー……帰ったらまたクラクスに癒してもらって……」


 懲りずに今日もクラクスは執務室に顔を出した。彼としては、書類仕事が大の苦手なイメリを手伝うというのが執務室に来る目的らしい。
 そんな風に彼は、数年前に自分に憧れていると言って王国騎士団にやってきて以来、ことあるごとに世話を焼いてくるのだ。

 といっても、当初は子犬のように懐いてきたクラクスも、理想の騎士とはとても呼べないイメリの振る舞いに次第に熱狂的な羨望も冷めていった。今も好かれてはいるはずだが、口を開けば“イメリ様、イメリ様”と彼女の話をしていたクラクスはもういないのだ。それは少しだけ寂しい。


「潜在能力だけならクラクスの方が断然上だし、彼がさっさと一人前とかに拘らずに後を継いでくれれば、わたしも心置きなく引退できるんだけど……それに“一人前”って、クラクスのことなら本気でわたしより強くなる気だし……あれって命懸けなんだけどなぁ」


 イメリに縁談の話が数多く舞い込んでくるのは、彼女を結婚させてさっさと引退させて、クラクスを後釜に据えたいと、王含む大臣たちが考えているからだ。何とも悲しい話だが、戦乱なき今の時代に、見た目も品性も出自も含めて、護国の騎士にふさわしくないイメリは不要だったのだ。


「しかし……結婚相手かぁ、誰かいないかなぁ、イケメンで金持ちで懐が深くてわたしのことを溺愛してくれる人。まぁ、別に未婚のままでもいいんだけど」


 結婚しないのならただ穏やかに義父の領地でダラダラするだけ。そう独り言を口にしていると、後ろから誰かに呼び止められる。


「先生!」

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