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空を見る人

23 まさかの

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「ケメル様意外にあっさり引いたな」

 だまって逃げるのも悪いだろうとケメルに報告しに行った。
てっきりニコニコ顔が鬼のような形相になり張り手の1つでも来るかと思ったけど。
 あの顔のまま「そうよねー」と言って去った。不思議なのは力だけでなく性格も。

 そしてついに時が来たとメイドさんが呼びに来る。

 部屋を出ると先導役が物々しい装備の兵士になり再び地下へと向かう。
最初の儀式の際も緊張はしたが今思えばあれはまだまだ気楽だった。
あの場所へもう一度たどり着けるのだろうかとか。行った先にはどんな神は居るのかとか。
 その時に伝えたいこととか、とにかく私がすべきことは沢山ある。

「……なんだろう。このムズムズする感じ」

 エルムスとツヴェルクとはここでお別れになる。彼らだけでなく、お世話になった
人たちは多い。せめてなにか気の利いた言葉をと思っても見つからない。
最後は自分の家に帰るんだから、ジュダの言っていたように未練を残してはいけない。
 それはよく分かっているのに。

「来たな」

 エルムスはツヴェルクと共に既に階段へ続く扉の前に居た。ジュダの姿もある。
最初の儀式と同じように兵は入り口に居て、階段をおりていくのは私達のみ。
 ケメルと、警備する兵の中にトワイラーの姿もあった。

「はい。よろしくおねがいします」
「私は何もしない。ツヴェルクがお前達を導くだろう」
「よろしくツヴェルク」

 まんまるタヌキカットの神獣は私を見てフンとそっぽを向いたけれど、
匂いが良くなってふわふわで飼い主様に抱っこしてもらっているから
そんな仕草もただただ可愛いだけ。
 3人は顔を見合わせ地下へと降りる扉を開けた。

「先程話したように、暴走した信徒が何を仕掛けたかはっきりしていない。
私達がおりている間に何が起こるか予想がつかん。トワイラー。頼むぞ」
「はい。同じ過ちは決して」
「そう硬くなるな。何時ものお前で良いんだ」

  前回の儀式の少し前に、ダクシィから配られた茶を飲んだ門を守る兵士たち。
まさか薬を飲まされているとは知らず、気づいたらすべてが終わった後だったらしい。
セットーもなにか仕掛けられていたのか腹痛で一瞬席を外していたという絶妙なタイミング。
 エルムスはそれらを厳しく罰することはなく、もう一度彼らに警備をさせた。

「お気をつけて」

 エルムスの先導により、同じ階段をおりていく私。そしてジュダ。

「そう強ばることでもないだろう」
「エルムス様だからそう言えるんですよ」
「そうだな。私はただお前たちを見送ればいいだけ。気楽なものだ」
「そういう意味じゃなくて」

 途中、エルムスが話題をふる。彼も少しは別れを惜しんでくれているのか。

「聞きたかったんだ。いいか」
「何だ」

 こんな時は何時も黙っているジュダが話に加わる。

「なんで城の地下にこんな空間があるんだ?自分たちで掘ったのか」
「それは私も気になってた」
「城の地下にあるんじゃない。この地下洞窟の上に城を建てた」
「というと」
「この場所は遡れないほど古い時代から存在した。手を入れた部分もあるが、
ほぼそのままだ。あまりに不気味な為に魔物の世界とつなぐ門があると恐れられたり
逆に幸運をもたらす神の聖域とする者も居た。
そんな言い伝えを気にもせずここに城を建てたのが私の祖先となるわけだな」
「気にもせずって。悪いことは起こらなかったんですか」
「この通り。地上の立地は良いからな。何事もなく順当にどの国よりも発展した」
「なるほど」

 魔物すら斬り伏せそうな祖先だったんだろうな。と、エルムスを見て思う。
謎がとけた所でようやく扉の前までたどり着いた。じっと見つめる3人と1匹。
 進む道は決まっている。

「さて。ツヴェルク、2人を導いてやってくれ。……お前は戻ってくるんだぞ」

 膝をついてツヴェルクの頭を撫でるエルムス。
撫でられた神獣はクゥンとちょっと甘えたような声でないて
しっぽをブンブン振っている。
 可愛い光景だけど確か爺さんみたいな低い声なんだよな。と思ってみたりして。

「行こう」
「うん」
「気をつけていけ。……、振り返らずにな」

 エルムスが鍵を開けてくれて。ツヴェルクを先頭にジュダと私は中へと進む。
振り返るなとエルムスに言われたから後ろは見ない。戻ってくることはないけど、
 悔いはない?言いたいことがあればこれがラストチャンス。

「ねえジュダ私……あいてっ」

 なにか硬いものに躓きそうになるのをジュダに助けられる。

「心配するな。俺が居るから、だから」
「あぁあぁああああああ~」

 そんな進んで無かったからか遠くから気の抜けた用な妙な声が後ろから聞こえる。
 これには思わず私もジュダもツヴェルクも立ち止まり振り返った。
 
「なに?今の声。エルムス様にしては間抜けすぎる」
「ああ。なにかあったのか?」
「ちょ、ちょっとだけ戻ってみない?ほんのちょっと」
「しかし」

 世界は暗いままで歪んでもない。まだ時間的にも大丈夫っぽい。
私は出口へ向かって恐る恐る近づいてみる。
 仕方なく付いてきてくれるジュダと、心配そうなツヴェルク。

「ショコチャン!早くそこから出るのよおおおおおお!」

 にゅっと白い手が出てきて私を引っ張った。それに驚いたジュダが剣を構え
こちらに向かって走る。ツヴェルクも一緒に。
 何がなんだかわからないまま私たちは再び城の地下に戻ってしまった。

「ケメル様?」
「どういうことだ」

 そこにエルムスの姿はない。
 ツヴェルクは低く唸り階段を駆け上がり見えなくなる。

「罠よぉ!」

 泣きそうな顔でケメルが叫んだ瞬間。

後ろから今まで聞いたことのない轟音と激しい地震がして。開けっ放しだった
扉から物凄い勢いで熱い煙が吹き出し私はふっとばされる。ケメルも、ジュダも。
 そう広い空間ではないからすぐに壁に激突して私は気を失った。



「ショウコ。しっかりしろ、ショウコ」
「……ん」

 名前を呼ばれて、ゆっくりと目をあけると傷ついて服もボロボロになったジュダ。
何があったのか一瞬思い出せなかったが、そうだ。爆発の煙に吹き飛ばされたんだ。
 直接爆発した訳ではないにしろ相当な力で飛ばされた。無傷なわけない。

「良かった」
「……ジュダ。……いたたたっ」

 地下は凄惨な状態。岩が崩れて閉じ込められずに済んだだけでも奇跡だ。
手足をゆっくりと動かすとちょっと痛むがどうにか動く。良かった骨まではいってない。
 ただ今までで一番の擦り傷だらけになったけど。

「ショコチャン。ジュダチャン。無事?」
「はい。ケメル様も無事……、ケメル様!?」

 立ち上がり、ケメルをみると。その目は閉じられていた。痛々しく血を流して。

「分かっていて来たからいいのよ。全く。手荒いことをするわね」
「何があったんだ。どうしてこんな」
「扉が開いたからかもしれないけど、私には見えたの。この扉の奥に無数のワームデールが」
「ワームデール?」
「原種は小さくって可愛い植物なんだけど。刺激を与えられることで破裂して
胞子を飛ばすの。ワームデールは条件が合ってとても大きく成長したもの。
あまりに危険だから小さいうちにすぐ焼き払われるんだけど、胞子を集めておけば
自然に生えているものだし簡単に手に入る強力な兵器になる」
「それってあのカラフルキノコ」

 あのキノコが恐ろしいのは身をもって知っている。1本であの爆発力なら群生したら
その破壊力は恐ろしいことになる。それがあの扉の奥でいっぱいはえていたということは、
 私達を殺そうとしたってこと?呼んでおいて?

「神がそんな事をしたとは……、そう、か。あの長老の言っていたことはこれか。
この微かにするこの匂いはあの集落で嗅いだのと似ている」
「扉の奥を壊すこと?でも、エルムス様も言ってたけどただ怒らせるだけでしょう?
行けなくなったら言い訳をすることもできないのに、どうして」
「地上はどうなっているのかしら。エルムス様は無事かしら」
「そうだ!私、見てくる。ジュダはケメル様をお願い」
「え」
「暗くて怖いのよぉ助けてジュダァン」
「……蹴って転がせば上まで行けるか」

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