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空を見る人

18 雑な帰城

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 後で聞いたら王様には別の1人利用の湯殿があって、あれは城に従事する中でも
上位クラスの人の風呂。
もともと侵入してしまったのはこちらで、あの人には凄く申し訳ない事をしてしまった。
 この世界に来て風呂で全裸を見られて、ひょろひょろのオジサンの全裸も見るなんて。

 あと、自分の風呂ではないのに私が居ると分かっててわざと入ってきた王様はスケベ疑惑。


「もう夜になるが、あの若造はまだ来ていないようだな」
「慌てて走って怪我とかしてないといいですけど」

 せっかく揃えた道具をチェックして服と一緒に乾かす。その間は簡易なワンピースを
着せてもらう。エルムスも鎧も剣も脱いで手入れに出した。
彼はバスローブでもラフな格好でもなく、王様らしくしっかりとした正装で。
 ツヴェルクはドライすらも嫌がって走り回っている間に何とか乾いた。

「それよりもあの長老の言葉だ」
「神の子ですか」
「そうではなくて。巫女が何を成したのか、気にならないか」
「あ。そういえばそんな事を」

 ダクシィさんが命をかけて成した事。あの場所で何かをしかけたと言うこと?
事前に男手を用意して、どうやってか見張りのすきをかわして中に入った。
 城のことは分かっているはずだから、用意周到に作戦は練ったはず。

「様子を見てくる」
「待ってください。まだ武器も戻ってきていないし、せめてもう少し休んでからでも」
「まだきちんと説明もしていない中で問題が起これば私1人では流石に対処しきれん。
見てくるだけだ、すぐ戻る」
「でも」

 絶妙なタイミングでグゥーーーっと恥ずかしい変な音が私のお腹から鳴る。

確かに空腹だったけどこんなタイミングでなんてありえない。昼から何も食べてなかった。
エルムスは少し笑って、メイドさんを呼んで食事の準備をしてくれた。
 とりあえず彼もその場には出席して食事を摂るようだけど。それが終わったら行くつもりだ。

「ツヴェルクはあの神殿の水を介してでないと話ができんそうだ」
「残念ですね。お水嫌いなのにお水に近づかないと駄目なのか」
「浴びるわけじゃないからな。私達を運ぶのに水に潜ったが」

 泳いだのと私から逃げるので疲れ切った様子で、
 ご飯を食べる余裕もなくツヴェルクは専用のベッドに寝ている。

「あの女性はダクシィさんのお母さんだったんですね」
「……、わからん事が多いな。もう一度あの土地へ行く必要がありそうだ」
「その時は私も行きま」
「お前は明日あの門を通って神の元へ行くんだろう。若造とともに」
「そっか。そうだった」
「そのためにも、何を仕掛けたのか確認をしたい」

 王様専用のお食事をする部屋で、テーブルに次々とやってくる料理たち。
肉もあれば魚?のような生き物も並んでいる。
最初はあれだけ遠慮がちだった私だけど、空腹が続いたせいか見境なしに
次々と手を付けて食べていく。
 見かけが謎でも味は美味しいのだから何も問題はない。

「私も行きます」
「お前はツヴェルクと休んでいろ」
「王様と過ごす時間も僅かですから」

 私は水を頂き、エルムスは宿で言った通り酒を持ってこさせて美味しそうに飲んだ。
こうしてゆっくりと食事をするのはもしかして初めて?
 神殿へ向かっていた時はお腹を満たす事を優先してさっさと終わらせた。しかも不味い。

「そんなしおらしい事を言うんだな。てっきり私を恐れて嫌っているかと思ったが」
「住んでる世界が違うんですから相容れない所はお互い様じゃないですか」
「相容れない。か。正直に言えば、お前と居ると過去の自分を思い出していい気分はしない。
神に選ばれた者が巫女に連れられてやってきて、つかの間共に過ごしお互いの世界の話をした。
少々退屈していた私には新しい世界の話は面白かった。
一緒に居て楽しいと心から思った。出会えて良かったと神に感謝すらしていたくらいだ」
「……」
「だがこの世界もハーマデルク随一の国王たる私も。神にとってはただの踏み台でしかない。
創造主がそうしたのなら恨みはしないが……。無性に悲しくて、やりきれん」

 エルムスは軽いため息をして視線をそらし、憂いを帯びた顔をする。
私と向かい合っている今この時も、過去の自分やその時に出会った
 別の「神に選ばれし者」との事を思い出しているのだろうか。

「あの長老さんが言っていた皆を救うってどういう意味なんでしょうか。
文字通り皆が納得するような良い解決案があるのなら聞いてみるべきでは?」
「聞く気はない。私はともかく、お前を殺そうとしている時点でとうてい納得できん」
「私には良い解決案なんて1つも浮かばない。ダクシィさんこそ神の子だというなら」
「巫女は居ない。考えるだけ無駄だ」
「……そう、ですね」

 結局最後は「私には何も出来ない」という事に戻ってくる。
セブールは私が神の求めるものを持っていると言っていたけれど、それが何なのか
さっぱりわからない。この世界に持ってきたものなんてなにもない体1つ。
 体が欲しいとしても、だったら今までの女子学生さんのほうがずっと有能だろう。

 私は何一つ秀でたものはない。
 何をしたって、どう努力したって平均よりちょっと下な人間。

「もっと楽しい会話をすべきだったか。……、そうだな。お前は結婚はしているのか」
「してないです。今はまだ、夢を叶える事が優先で」
「とりまーか?」
「見習いで先にサロンには採用してもらってるんです。でも、やっぱり話にならない
くらい先輩は上手で。私より3つも若いのに。だから、試験を受けてきちんと卒業して。
少しでも自信に繋げて頑張ろうって。
それで何年かしたら、独立して自分の店を持つのが目標です」

 皆とスタートがかなり遅くなってしまったけれど、まだまだ取り戻せるはず。
カット練習では先生にかなりダメ出しされて、サロンでもまだハサミすら握れない。
 それでも進まないと上手くはならないから。私は自分の世界へ戻ることを望む。

「半分ほどしか理解ができなかったが、まあ。自分の店を持つ事はいいことだ」
「エルムス様は夢とか目標はないんですか」
「そうだな。もっと簡単にツヴェルクを洗ってやるように鍛錬する事だな」
「え。意外」
「私の相棒だ。私が世話をしてやる」
「ツヴェルクと話をしたら打ち解けた感じですか」
「そうだな。思ったより面白い奴だ」
「えぇ。いいなあ。私もツヴェルクと話がしたい」

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