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14 山道

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「……」
「使い様がいらっしゃるというのに、ダクシィの姿が見えませぬな」

 儀式のこともしっているし、その日が来たことも当然ここの人たちなら知っているはず。
世界は崩壊せず未だ平和に過ぎているから、何かあったのかと警戒はされないだろう。
 それだけにダクシィの死を言うか言わないかは大きな選択。

「巫女は城に居る。緊急を要する用事だ、神殿へはどう行けばよいかだけ答えてほしい」
「国王陛下がわざわざこのような場所へいらっしゃったのですから、
よほど大事な要件なのでしょう。もちろん、ご案内いたします。ですがこの婆では
更に山の上にある神殿へご案内するには役立たず。
少々お待ち下さい、まだ歩けるものもおりますゆえ。すぐに呼んで参ります」

 深々と頭を下げて違う家へ向かってヨロヨロと歩いていくお婆さん。ダクシィの事は
取り敢えずは信じただろうか。嘘は言ってない。確かに彼女は城に居る、生きてはいないが。
家の中で待っていてください、と言われたものの。何かの薬草のような独特な臭いと、
肉の腐ったものが混じったような微妙な臭いに、
 好奇心旺盛なツヴェルクすら入らずにエルムスの足元でキュンキュン鳴いている。

「……、臭うな」
「それは仕方ないですよ。こんな山の中で暮らしていたら、川も遠そうだし」
「いや。そうじゃない。何か違う匂いがするんだ」
「え?2人とも?……私にはさっぱり」

 私はただ早く戻ってこないかと思うだけだったけど、左右の人が何かを感じ警戒する。
まさかここで襲撃とかされないよね?今はただ長老の家を訪れただけだ。
何もしてない、言ってない。
私の武器といえばハサミしかないが、これはカット道具であり人を傷つけるものでは無い。
 不安になってきたのでツヴェルクを抱っこして、周囲をキョロキョロ。

「すみませんね、お待たせしてしまいまして。このヴァルムが神殿への道案内を致します」

 丁度いい所で長老が女性を連れて戻ってきた。こちらの人はダクシィと同じように
顔が隠れていて詳細は見えない。ちらっと見える口元から年齢は私よりもずっと上に見える。
母親くらいか。こうしてヴァルムという女性を先頭に、
 またもう少しだけ神殿へは上がっていくのだと言われて若干泣きそう。

 休憩したいけれど、それではあっという間に夜になる可能性があったから出発。

「あぁ。王様、1つお伺いしても?」

 そんな一行を引き止める長老。 

「何だ」
「こちらのお美しい青年と、若い女性。神の使い様はどちらでしょうか」

 ジロジロとこちらを睨むように見てくるとは思っていたけれど。
確かにエルムスは使いが居るとしか伝えておらず、
 私を紹介したわけじゃない。自己紹介をする時間を惜しんだと思ったが。

「俺だ」
「え」

 私です、と言おうとしたらジュダが先に名乗る。まさかの行動にきょとんとする。

「ということだ。これでいいか、長老よ」
「ええ。ありがとうございます、ずっとお待ちしていた方に会えてよかった」

 エルムスもそれを否定することはなく、長老を置いて私達は再び歩き出した。
山道は更に狭まり、1人が歩ける幅の石畳を延々と登っていく辛いルートへ。
先頭はヴァルム、次にエルムス、私とツヴェルク、最後がジュダ。だけど、
 前2人の早いペースに脱落した私はあっという間に置いていかれてしまう。

「ねえ。さっきはどうしてあんなことを?」

 一本道で迷うことはないからゆっくり来いと言われて自分のペースで歩く事に。
ジュダはさっさと追い越して行けるだろうけど、気にしてか合わせて歩いてくれて。
 ツヴェルクは流石にちょっとお疲れの様子なので私がずっと抱っこしている。

「敵かどうかまだ判断がついていない相手だ。お前に意識が向くのは危険過ぎる」
「でもそれじゃジュダが面倒なことにならない?」
「自分の身くらいは守れる」
「実戦経験ほぼ無いのに?」
「煩いな。お前よりは戦える!……けど、誰かを守るだけの力が無いことは認める」
「私は自分すら守れないから、ジュダは凄い」

 剣術は見よう見まね、と言ってたから。エルムスの言うように素質があるんだろう。
私はもし戦いになったら隠れているしか出来ない。それでよくこんな所に来たものだ。
 今は何よりも優先して神様に会いに行く必要があるからだけど。

「凄くなんかない」
「褒められると顔が赤くなるね」
「だから。なんでそういう変なことを言うんだお前。……、馬鹿にしやがって」
「ごめん。この世界に来て、こんな自然に話が出来る人が居なかったから。
だから、ダクシィさんとももっとちゃんと打ち解けた会話が出来ていたら少しは
違ったのかなってずっと思ってる。
私にはやるべき事があるのにこんな所に連れてこられて、儀式なんてさせられて。
正直言うともう何でも良いからさっさと終わって帰りたいってそればっかりだった」
「……」
「こんな自分の事しか考えてない奴が本当に神様に選ばれた者なのかな」

 こんな率先して行動しているのは自分が神様の使いである。という前提。
本音ではまだ神様の間違いであればいいのにと思うこともある。
 私よりも適任は居る。ダクシィ、それに、ジュダだって。

「自分のことを考えて何が悪いんだ。他人の為に生きたって何の足しにもならない」
「……ジュダ。でも。私のためにゆっくり歩いてくれてありがと」
「別にそういうんじゃな………、…おい」
「ん?なに」
「さっきまでこんな道だったか?」
「間違えるわけないよ。一本道だも……ん?」

 あれ、目の前に道がないぞ?さっきまで確かに石畳を歩いていたはずなのに?
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