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12 王様と王子様と私
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宿には共同の風呂もある。鍵がかけられたとしても誰と出くわすかわからない。
何よりあのスケベおじさんの顔を浮かべてしまい我慢。
他の2人も疲れた様子でこのまま眠りにはいった。さっぱりしたい気もするけれど、
明日には神殿に到着する。ダクシィが住んでいたという場所。
そこには集落があるそうなので、もっと落ち着いて風呂に入れるだろうという見込みで。
たとえどんな桶がでてこようともここよりは良い。
「……覚悟決めるか」
悩んでも状況は変わらず、結局は王様の隣で眠ることにした。宿のオジサン自慢の広い部屋、
クイーンサイズのベッドで2人で横になっても余裕はある。
くっついて眠る必要はないのだから、私は枕を頂いて程よい距離感をとって寝転んだ。
「酒が飲みたい」
眠れなくても寝たふりをしようとしたら、隣の人も眠れない様子でつぶやく。
前にちらっと見た王様のベッドはもっと大きくて質も良かったから、
こんな固くて質素なものでは寝付きが悪いのかもしれない。
「宿の隣が飲み屋らしいですよ」
「通りで煩いわけだ」
目を閉じて寝たテイでいた私が喋っても驚く様子はないのでフリだと分かっていたらしい。
私は諦め目を開けて天井を見上げる。隣の人も、同じように天井を見つめていた。
「忙しないですよね。王様はやはりお城に居たほうが良かったんじゃないですか」
「……、私の母も身分は低くかったんだ。それでも、父に愛されていた間は王妃として
城に迎えられた。そこで私が産まれて、当然そこが我が家と思って住んでいた」
「へえ」
「だが、移り気な父の寵愛はいつの間にか別の女とその間に産まれた子どもに移った。
家から逃げるように去った日は忘れもしない。他人が我が物顔で私の部屋を奪い、
母の部屋を奪われたのが信じられなかった。泣こうが詰ろうが父は知らぬ顔」
「……」
「それが、大きな戦争と流行病で有望視していた子どもをすべて失い弱腰になった父は
見捨てた我らを城に呼び戻した。その年に母は死んだ。最後まで父を待っていた愚かな女だった」
何時も強気で堂々とした人だから、当然王になるべくしてなったとかいう武勇伝
ばかりかと思っていたのに。生まれはジュダと変わらないなんて。
その先はだいぶ違うけれど。こんな場合、
王様にどういう言葉をかけるのがあっているのか分からず、私はただ黙るしか出来ない。
「せめてもの手向けにと父が死んだ時は同じ墓に入れてやった。もう二度と離れぬように
体を縛って。これを何度も繰り返していたのかと思うと。城に居るよりも神に問いたくなるだろう」
「そうですね。貴方は知る権利がある」
「お前が神の話を聞けたとして。この世界の崩壊が止められなくても構わん。
気にせず自分の世界でも神の元でもあの若造の国でも、何処でも行けばいい」
「王様は良いんですかそれで」
「破壊のあとには再生がある。それに、どう思おうと私の記憶はなくなる。
お前と出会ったことも、こうして共に粗末な床で寝たことも。今回が異例なだけで、
もう前回の記憶を繰り越すことはないだろうし、私もそれは望まない」
「……、そう、ですね」
世界が再生したときに出会う王様は私が知っている人と全く同じ。
だけど私の事は忘れている。どんな思い出を作ろうとも、その思いは引き継がれない。
それが当たり前で今まで繰り返してきたのだから。王様のサイクルを知ってしまっている
と余計にその言葉が辛く感じるのはどうしてだろう。
「酒は城に戻ってから飲む。……眠るとしよう」
「そうですね。王さ」
「エルムスでいい」
「お休みなさい、エルムス様」
私がどうにかして終えられるなら、終わらせてあげたい。
もちろん最終目標は家に帰ることだけど、その前に神様に会って
エルムスの繰り返される運命もかえたい。それがこの世界を救うことになる。
私の目標は更に増えた。それと忘れちゃいけないのが、
すっかり拷問執行人となってしまったトリマーの事をきちんと理解してもらう。
「ツヴェルクが絨毯にうんこしました」
「うんことは何だ」
「これです」
「この悪臭を放つ茶色い汚物のことか」
朝はツヴェルクの元気いっぱいな排便臭で目を覚ます。
近い所で寝ていたジュダは既に窓際に逃げた後。エルムスに至っては早く片付けろと
言わんばかりにベッドから出る気配がない。仕方なく私は適当な紙を受付で貰ってきて、
それで包んで畑に捨ててくる。なんで男が2人も揃って出来ないのか。
「ツヴェルク。なんか変な物食べた?
うんこに混じってたけど。拾い食いは駄目だよ?お腹壊すよ」
「汚物を触ったのか」
「触らないですよ。見てたらなんか変なものが混じって」
「それ以上言うな。近づくな。なんだかお前を見ていると吐き気がする」
「……怖い女だ」
その上自分たちは何もしなかったくせに、片付けた人にこの言いよう。
「あのね!生き物なんですからご飯食べたらうんこだっておしっこだってするでしょう!
この部屋にはツヴェルクのおトイレなかったから仕方ないんです!生き物の摂理なんです!」
「煩いぞ黙れ」
「こんな正気じゃない奴を神は何故我が国に呼ぼうとしたのか」
「次にツヴェルクがうんこしたらエルムス様とジュダに投げつける」
「その前に斬る」
王様だからって、王子様だからって馬鹿にして。絶対すきを見て投げつけてやるんだから。
不愉快に思いながらも小さいタオルを用意してツヴェルクのおしりを拭いた。
「バリカンがあればな。肛門まわり綺麗に出来るのに」
「それはハサミとは違うのか」
「バリカンがあれば、ほら、昨日言ってた柴カットとか」
「拷問道具か」
「なんでもないです」
何よりあのスケベおじさんの顔を浮かべてしまい我慢。
他の2人も疲れた様子でこのまま眠りにはいった。さっぱりしたい気もするけれど、
明日には神殿に到着する。ダクシィが住んでいたという場所。
そこには集落があるそうなので、もっと落ち着いて風呂に入れるだろうという見込みで。
たとえどんな桶がでてこようともここよりは良い。
「……覚悟決めるか」
悩んでも状況は変わらず、結局は王様の隣で眠ることにした。宿のオジサン自慢の広い部屋、
クイーンサイズのベッドで2人で横になっても余裕はある。
くっついて眠る必要はないのだから、私は枕を頂いて程よい距離感をとって寝転んだ。
「酒が飲みたい」
眠れなくても寝たふりをしようとしたら、隣の人も眠れない様子でつぶやく。
前にちらっと見た王様のベッドはもっと大きくて質も良かったから、
こんな固くて質素なものでは寝付きが悪いのかもしれない。
「宿の隣が飲み屋らしいですよ」
「通りで煩いわけだ」
目を閉じて寝たテイでいた私が喋っても驚く様子はないのでフリだと分かっていたらしい。
私は諦め目を開けて天井を見上げる。隣の人も、同じように天井を見つめていた。
「忙しないですよね。王様はやはりお城に居たほうが良かったんじゃないですか」
「……、私の母も身分は低くかったんだ。それでも、父に愛されていた間は王妃として
城に迎えられた。そこで私が産まれて、当然そこが我が家と思って住んでいた」
「へえ」
「だが、移り気な父の寵愛はいつの間にか別の女とその間に産まれた子どもに移った。
家から逃げるように去った日は忘れもしない。他人が我が物顔で私の部屋を奪い、
母の部屋を奪われたのが信じられなかった。泣こうが詰ろうが父は知らぬ顔」
「……」
「それが、大きな戦争と流行病で有望視していた子どもをすべて失い弱腰になった父は
見捨てた我らを城に呼び戻した。その年に母は死んだ。最後まで父を待っていた愚かな女だった」
何時も強気で堂々とした人だから、当然王になるべくしてなったとかいう武勇伝
ばかりかと思っていたのに。生まれはジュダと変わらないなんて。
その先はだいぶ違うけれど。こんな場合、
王様にどういう言葉をかけるのがあっているのか分からず、私はただ黙るしか出来ない。
「せめてもの手向けにと父が死んだ時は同じ墓に入れてやった。もう二度と離れぬように
体を縛って。これを何度も繰り返していたのかと思うと。城に居るよりも神に問いたくなるだろう」
「そうですね。貴方は知る権利がある」
「お前が神の話を聞けたとして。この世界の崩壊が止められなくても構わん。
気にせず自分の世界でも神の元でもあの若造の国でも、何処でも行けばいい」
「王様は良いんですかそれで」
「破壊のあとには再生がある。それに、どう思おうと私の記憶はなくなる。
お前と出会ったことも、こうして共に粗末な床で寝たことも。今回が異例なだけで、
もう前回の記憶を繰り越すことはないだろうし、私もそれは望まない」
「……、そう、ですね」
世界が再生したときに出会う王様は私が知っている人と全く同じ。
だけど私の事は忘れている。どんな思い出を作ろうとも、その思いは引き継がれない。
それが当たり前で今まで繰り返してきたのだから。王様のサイクルを知ってしまっている
と余計にその言葉が辛く感じるのはどうしてだろう。
「酒は城に戻ってから飲む。……眠るとしよう」
「そうですね。王さ」
「エルムスでいい」
「お休みなさい、エルムス様」
私がどうにかして終えられるなら、終わらせてあげたい。
もちろん最終目標は家に帰ることだけど、その前に神様に会って
エルムスの繰り返される運命もかえたい。それがこの世界を救うことになる。
私の目標は更に増えた。それと忘れちゃいけないのが、
すっかり拷問執行人となってしまったトリマーの事をきちんと理解してもらう。
「ツヴェルクが絨毯にうんこしました」
「うんことは何だ」
「これです」
「この悪臭を放つ茶色い汚物のことか」
朝はツヴェルクの元気いっぱいな排便臭で目を覚ます。
近い所で寝ていたジュダは既に窓際に逃げた後。エルムスに至っては早く片付けろと
言わんばかりにベッドから出る気配がない。仕方なく私は適当な紙を受付で貰ってきて、
それで包んで畑に捨ててくる。なんで男が2人も揃って出来ないのか。
「ツヴェルク。なんか変な物食べた?
うんこに混じってたけど。拾い食いは駄目だよ?お腹壊すよ」
「汚物を触ったのか」
「触らないですよ。見てたらなんか変なものが混じって」
「それ以上言うな。近づくな。なんだかお前を見ていると吐き気がする」
「……怖い女だ」
その上自分たちは何もしなかったくせに、片付けた人にこの言いよう。
「あのね!生き物なんですからご飯食べたらうんこだっておしっこだってするでしょう!
この部屋にはツヴェルクのおトイレなかったから仕方ないんです!生き物の摂理なんです!」
「煩いぞ黙れ」
「こんな正気じゃない奴を神は何故我が国に呼ぼうとしたのか」
「次にツヴェルクがうんこしたらエルムス様とジュダに投げつける」
「その前に斬る」
王様だからって、王子様だからって馬鹿にして。絶対すきを見て投げつけてやるんだから。
不愉快に思いながらも小さいタオルを用意してツヴェルクのおしりを拭いた。
「バリカンがあればな。肛門まわり綺麗に出来るのに」
「それはハサミとは違うのか」
「バリカンがあれば、ほら、昨日言ってた柴カットとか」
「拷問道具か」
「なんでもないです」
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