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気づけば異世界

02 王都へ

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「神獣とか居るくらいだし、この世界なら神様も普通に住んでるのかな?」

  私の居た世界でも神様という概念はあるし祀る場所もダクシィのような巫女も居る。
けど自分にはあまり馴染みがないから「神の使い」と言われるとどうも胡散臭い。
 この世界の人たちは見た事があるんだろうか?容姿はそれぞれ違うらしいけど。
 
「ショウコ様。お召し物を用意しましたので、どうぞ」
「ありがとうございます」

 こちらも夜は訪れるようで食事を終えて部屋で寛いでいたら外は暗くなる。
この世界には電気のようなものはなく灯りは火のみ。
ただ月のような星からの優しげな光りが薄っすらと世界を照らしてくれている。
 ダクシィがランプのような入れ物に火を灯し、どうにか家は明るくなった。

「緊張していると思いますが私が付いていますから。心配はいりません」
「ダクシィさんは神様を見たこととかはあるんですか」
「神は姿を見せません。見えずとも、誰しもが声を聞き感じることが出来るからです。
そうずっと教えられてきました」
「えっと。はい。わかりました。……難しい禅問答みたいだ。とにかく頼りにしてます。
ダクシィさんが居なかったらどうなってたんだろうって思いますよ」
「貴方様は神によって選ばれ召喚されたお方。どんな時もご加護がついています」
「……、神様のご加護」

 私に本当にそんなものがあるのだろうか。気づいてないだけ?

 選ばれし人というと神様の凄いパワーが手に入るとか、人知を超えた知識が湧いてくるとか。
神殿で話をされた時はそんなカッコ良くなった自分を想像したのに。イタズラに爆発キノコ
 にふっとばされて気絶するのだから。まだ死ななかっただけマシだけど。

「おやすみなさいませ」

 本当に私にできることなんてあるんだろうか。ベッドに横になり目を閉じる。
 でも眠れそうにない。

「試験受けられなかったらどうなるんだろ。再試験してくれるのかな」

 知らない世界に飛ばされて神獣と儀式してました。なんて先生は信じてくれる?
頭がおかしくなったとか、夢を見ていると思われそう。何度も寝返りを打って。
唸ってみて。
 ベッドから出て軽く体を動かして、またベッドへ戻る。

 寝坊すると明日問題になると思うのに。
 興奮しているのか緊張しているのか、結局寝付けたのはもっと先。


「おはようございますショウコ様」
「おはようダクシィさん」

 時間は分からないが外が明るいので朝だと察する。貰った着替えは地味な色のワンピース。
何時もパンツスタイルなので、申し訳ないがズボンに取り替えてもらい清潔さを取り戻す。
桶に入った水で顔を洗い、とても質素な朝食を頂いて。
 まったりしている時間はなくて、丁度いい具合にお迎えの馬車に乗り込む。

 この世界でも馬車と言っていたが、私の知る馬じゃなくてそれに似たような生き物。
 色は灰色で頭にユニコーンのような角がある。

「お城までは時間があります。ゆっくりなさってください」
「凄いっガタガタっしますね?」

 最初は初馬車に興奮したがその生き物の匂いとガタガタする車内に酔いはじめる。
身を縮めて、とにかくやり過ごそうと小さな窓からじっと外を眺めた。
忘れていたけれど、非常に乗り物酔いしやすい私。
 昨日助けてくれたおじさんたちが畑で黙々と作業している姿が見えた。

 その辺までの記憶はあるけど寝不足も手伝って気づいたら眠っていたようで。
 ダクシィの優しい声で起こされて、どうやら王都に到着したらしい。

 小窓から外を見ると、見上げるほどの高さの門。その万人番と思われる屈強な男が2名。
その門の上に何名もの見張りが弓のような武器を背負ってこちらをじっと見つめている。
 何処までが街なのかわからないほどに何処までも続く城塞の壁。

「まずはエア様の元へ参りましょう。王様の叔父様にあたる方です」
「はい」

 兵士とのやり取りがあって。やっと門を通されて都へ入ることを許される。
ヨーロッパの城下町ならば純粋に観光したいところだが、あいにくそうではないから我慢。
ここへ来てもすぐにお城へ行って王様に会う訳ではなくてもどかしいけれど、
 権力者に会うのはそういう手順がいるのだろう。王様となったら尚更。

「もうすぐですよ。街並みが珍しいですか?」
「え。う。うん。……そう、ですね」

 実はそこまで驚かないというか、まるでゲーム画面かテーマパークみたい。
私の世界と違いすぎてリアリティが感じられず。やはり夢なのかと思ったりして。
ドレス姿の女性、紳士な格好の男性、肉体労働者っぽい破れた服のオジサン。
 走り回る子どもたち。

 映画でもみている気分で行き交う人々や街並みを眺めていると目的地に到着したらしく
馬車がとまった。王様の叔父というからには凄い豪華なものを想像していたが、
普通のお家のような。
 それでも他の家に比べたら立派なものだけど。場所も小高い所にあって見晴らしは良い。

「ようこそ王都リーネデュンデへ。よく導いてくれたなダクシィ」
「それが私の役目でございますエア様。こちらはショウコ様です」
「ショウコか。よろしく。私はエーアデル。エアでいい」

 まさか家の主が玄関で待っていてくれるとは思わなくて驚いた。
目の前には長身で屈強なオジサマ。かなりくせっ毛な茶色の髪を後ろ手に束ねている。
 若い頃はかなりやんちゃをしていそうな雰囲気の50代くらいだろうか。
 
 恐らくは裕福な地位にあるはずだけど何故か苦労していそうな雰囲気がある。
私が勝手にイメージする貴族らしくない、質素で機能性重視の格好をしているからか。

 あるいは、調理の途中だったのか片手に肉の塊と片手に包丁を持っているから?

「あの……」
「あぁ。これはね。客人をもてなそうと思って買ってきた肉だよ。君、好き嫌いある?」
「いえ。別にこれといって」
「よかった」

 返事をしたものの、この世界の食べ物をまだちゃんと食べてないのでわからない。
農家のおじさんがくれたのは昔食べたオートミールみたいな味がして、
昨日の夕飯はライ麦パンみたいな見た目と味。
特別美味しくはないけれど、空腹だったので何とか食べられた。
 エアはニコニコとご機嫌に言うと入り給えと言って家の奥へ入っていく。

 呆然とする私を他所に、ダクシィは慣れているのかすんなりとそれに続いて歩いていった。
置いていかれないようにそれに続く。
 家の中もさほど華美な調度品はないのは趣味なのか。

「ダクシィさん。エアさんは王様の叔父様なんですよね?」
「はい。王様も信頼なさっている方なのですが、自由な貿易商の顔も持っていらして。
あまり都にはいらっしゃることはないのです」
「あーなるほど」

 それでこんなにもシンプルなのか。居ないのなら家を飾ってもしょうがないし、
服装も下手に目立つ格好をするのは狙われやすく邪魔になる。苦労していそうに見えるのも、
貴族っぽくないのも。それで合点がいく。
 ただ、王族の人がなんでそんな危険を犯して冒険をするのかは謎だけど。

「今回はちょうど街にいらしたので。協力して頂ける方がいて良かったです」
「してくれない人も居るんですか?」
「……まあ、そうですね」

 言葉を濁すということは、儀式というものに賛否があるということだろうか。
そもそもその儀式を行うことでいったいこの世界に何をもたらすのかもきいていない。
儀式を行うために神に呼ばれた。それで皆が助かる。貴方は大事な存在。
 ということだけ。

「ダクシィさん。もう少し詳しく話を」
「難しい話は置いといて。食事にしようじゃないかお嬢さんがた」
「いい匂いがしますねエア様」

 案内されたテーブルにはメインのお肉、サラダ、スープ、パン。一見すると
馴染みあるお食事に見える。ただ、何の肉かは不明。何を煮込んだスープか不明。
野菜なのかも不明な緑と黄色の葉っぱ。味も想像がつかない。
流石に毒ということはないだろうが。唯一パンだけは見慣れたものが出ている。
 でもそれだけかじっても不自然なので結局全部口にすることになる。

「どうした?ショウコの街じゃこういうものは食べないのか?」
「いえ。頂きます。美味しいです」

 お肉の触感は鳥に近いがちょっと違うような。味付けは塩とハーブ?
シンプルだからこそ食べられそう。久しぶりにちゃんとした食事をとった気分。
 ダクシィは巫女さんだからか、そういう食事が駄目みたいでサラダのみ食べている。

「良かった。国を行き来していると危険もあるが、珍しいものを得られるから止められない」
「珍しい?」
「そう。この肉はね、実は世にも珍しい」
「エア様」
「っとー。なんでもない。ショウコの国の話を聞かせてくれ」

 なんの肉なんですか?凄い大味なごまかしをしましたよね?

 気になってお肉を飲み込めないじゃないけれど、飲み物で一気に流し込む。
 エアは気にせずどんどん食べていっているけれど、もう食べるのは止めておこう。

「こことは全然違います。まず人種とか。文明。なんていうか、どう説明したらいいのか」
「そんな複雑な街から来たのか。まぁ、神様が選ぶからにはやはり特別なんだろう」
「……そう、なんでしょうかね」

 神様への信仰心と認知度はほぼ全域と言っていいこの世界。
となれば「儀式」のことも分かっているんだろうか。私がこことは違う世界から来た
事はダクシィしか見ていないので知らないはずだけど。
それとも、儀式は年一くらいで行うお祭りみたいな恒例行事で、
 必要な人は毎回違う世界からポンポンやってくるものなんだろうか?

 盛大なパレードとかされたりして?そういうのは恥ずかしいから嫌なんだけど。

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