秘密の多い私達。

堂島うり子

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第8章

心の隙間

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 何かと理由を付けて長引いて結局解散したのはお昼過ぎ。

 友達と別れて自分の部屋に戻るとまだ家主は帰っておらず
しんと静まり返り寂しい、けど安心する良い香りのするリビング。
 そして我が部屋。かばんをその辺に放り出してベッドに寝転んだ。

 寝付きが良いとは言ってもやっぱり慣れた布団じゃないと
ぐっすりは眠れない。
 色々と考えてしまったのもあるのかも知れないけど。

 気づいたらうたた寝をしてしまったようで意識が飛んで。

「やけに静かだと思ったら寝ていたのか」
「ふぁ……、すみません。今何時?」

 何となく目がさめて起き上がると部屋が真っ暗。寝ぼけ眼でよろよろ
廊下に出てみるとリビングから漏れる光り。ドアを開けると丁度ワイングラスを
持ってソファに座ろうとしている所の社長がびっくりした顔でこっちを見る。

「18時」
「……ふぇえ……寝たなぁ」
「だらしない顔。昨日はよほど騒いだんだね」
 
 駄目だって思っても疲れなのか何なのか顔が締まらなくて
アクビも止まらない。
台所へ行って水をグラスに入れて飲むけどあまり効果がない。
 これはもう夕飯は諦めて軽くシャワーを浴びて寝るのがいいかも。

 なんと言っても明日は会社があるのだから。学生と違う所。

「創真さん楽しかった?」
「明日きちんと話すから。君はもう寝る準備をしたほうがいい」
「はい」

 瞼が落ちかけながらも意地で彼の手に触れてから浴びる程度のシャワー、
雑なメイク落としで眠る準備をしてベッドに戻るった。
 結局帰ってきた日はろくな会話が無かった。きっと彼も呆れてる。


「ああ、おはよう。早いね」
「創真さんこそ。どうしたんですこんな早くに」

 早くベッドに入ったから何時も以上に早起きできた。のはいいけど。
それ以上に仕事へ行く準備を終えた人が今玄関から出ていこうとしている。
 普通はこんな時間じゃない。パジャマのまま慌てて彼の元へ。

「会社に行く前に少々寄る場所があるんだ」
「お仕事関係?それとも響子さんの事でまた何か」
「どちらにしたって君には関係ない」
「……」

 確かに無い、ですけど。そんな風に言われると返事に困る。

「時間が無いんだ。悪いけど行くよ」
「……はい」

 返事を聞くまでもなく行ってしまった。

 彼が出ていかなければならないような緊急事態なのは確か。
会社関係だったら責任者だから分かるんだけど。もし、違ったら。
 口では会社にはそれほど愛着がないって言っていたから。

 もしそれが事実だったら会社のことじゃなくて彼女のこと?
 また息子さんが居なくなったとか。或いは別の相談事、とか。

 そこから過去の想いとか思い出したりして。

「あ。だめ。胸焼けがしてきた。お薬のもう」

 あれだけ寝たのに胃が気分悪いのは食事をしてないのもあるかも。
でも今何か食べたいかというと全然そんな気持ちにはなれない。
 少し早めに会社に出て先輩にそれとなく聞いてみるけれど。

 社長が急いで会社に来るような緊急事態は起こっていないと
 言われてしまう。

 ああ、やっぱりそっちなんだ。
 
 私には関係ないことだけど、安いホテルで飲み明かすような女は
やっぱり信用ならないと幻滅されたかな。

 響子さんの存在もあるし。7日間で帰るっていうけど。
 早くその日が来て欲しいって思ったら悪い女?

「丘崎君!会社でぼーっとするとは何事か!」
「はいっすみませんっ」
「あはは。ごめんごめん。朝から顔色悪いけど飲みすぎ?」
「週末に友達と飲んで」
「あるある。いい薬持ってるから昼にあげるね」
「ありがとうございます。常備してるんですね…」
「合コンみっちり詰め込んで何とか滑り込みたいから」
「……はは」

 仕事をしに会社に来ているのに落ち着かない気分を紛らわせるのに
仕事を利用するのはオカシイけど。今は何か動いていたい。

 何時もと違う先輩と今度企業イベントで使う商品の整理に駆り出される。
 半ば志願だった。

「丘崎さんもどう?セッティングすぐ出来るけど。
貴方が来るなら参加したいっていう男がいるんだよね」
「そんな奇特な人いるんですね」
「私は女だけど。確かに丘崎さんの一生懸命な所可愛いものね」
「空回りとも言います」
「とにかく。考えておいて。出会いの場って大事よ」
「は、はい」

 体を動かせるのは良いんだけどこの先輩さっきから合コン関係ばっかり。
聞けば教えてくれるけどほっといたらセッティングされてしまいそうで。
 本気でなくても参加するだけ先輩との折り合いに良いのかもだけど。

 友達の話し、自分の身の上。

 とにかくちょっとこの場から離れよう。今はこの話題は無理。

「あれ。もう1個箱があったはずなんだけどな」
「奥の倉庫ですか?探してきます」
「見つからなかったらいいから、取り敢えず見てきてくれる」

 ラッキー。いいタイミングでこの空間から出られる。

 狭い空間から抜け出して廊下に出るけれど人通りは無くて静か。
ほとんどが古い倉庫かたまにしか使わない大規模な会議室。この会社は
 仕事をするフロアも人も多いけど普段は利用しないの階層も多くて。

 実はちょっと怖い。


「……はあ。所詮私には無理だったのかも。もういっそ全部止めて、
次郎君の居酒屋でバイト募集してたら応募してみようかな…」

 こんなに影響されてたら仕事どころじゃない。弱い自分が悪いんだろう。
大きめにぼやきながらトボトボと目的地へと向かって歩く。

 ふと視線の端に人の足が見えたような。

「う、うそ。ここに来てオバケとかは無理だからっ」

 オバケなんて信じてないけどやっぱり怖いのは怖い。
 
 踵を返して先輩の居る部屋へ戻ろうとしたけれど。それに注意が
行っている間に背後に誰か居たみたいで。
 気づいた時には強い力で抱え込まれて部屋に放り込まれた。

「おい、何か勝手に自滅しそうな感じだったよ?」
「追い打ちかけておいたほうがいいって」
「そうか?」
「そうそう」

 暗い部屋、すぐ側ではヒソヒソとそんな会話が聞こえてくる。
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