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終幕へ

39:天と魔の片鱗

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 最近この階層のボス的な存在である夜母を知ったばかりで他はろくに分かって
いないのに今度は天界からの使者が来た。

 りんごが何か言おうとしたらサターヌに手を引かれて城の中へ連れて行かれる。

 聞かせたくない不味い会話をするというよりは居ても内容が分からないし
面白くないだろうという配慮だと受け取った。

「あのおじさん。姿が違うはずなのに私を見てすぐに妹だと分かるなんて」
「そりゃ形は違えど元は同じだからな。それにザガリアには透視能力があるとか…。
私等みたいな戦闘型と違うから参謀みたいな感じで何時も兄さんと居たっけ」
「仲が良かったのなら余計に話をするのは気まずいかも。
喧嘩にならないといいな。今は夜母さんとの問題で皆精一杯だから」
「どうだろね。あの変態伝書鳩。いきなりトチりやがって」
「カティスさんが動く前に既に見透かされていたんじゃないかな。ザガリアさんに」

 カティスは顔が見えなかったけれど彼は平気で晒していた。何処にも魔物の要素がない、
この世界で初めて見た完全な人型。褐色の肌に白髪のオールバック。
長身で強面な印象だが笑顔を絶やさない。
 
 悪い人には見えないし実際違うのだろうけど。りんごの立場からすると複雑。
 まるでそういう仮面をかぶっているみたいで底が知れず怖い気もする。

 天界の住民はりんごの前世である人間に近いけれど確実に違う。
 自分が彼らに狩られる側だからそう思うのか。

「だろうけどさ」
「ね。このお城にある魔術の本を読みたいの。一緒に来て?」
「いいよ。お前は勉強熱心だ」
「師匠がいいから」

 りんごたちが城内にて仲良く古い魔術書を読んでいる間。

エノクとキトラは懐かしい天からの来訪者と庭を歩いていた。
お茶等は勧めるまでもない。
 どうせこんな不浄な所のものは口にはしないだろうから。


「お久しぶりです。できれば天界へ来て欲しかっ」
「本題をどうぞ」
「……。本来ならば既に回復しているはずの天界が機能しておらず一部地域で”不都合”を
生じていましてね。そこを魔物に付け入られて困っているのです…。
何故そうなったのか、手が足りていない理由も込みで貴方がたはご承知のはず」
「ほう。それは大変だ」
「ええ。ずっと大変な時が続いていたのですよ。だが、魔物に指示をしている夜母が
最近は大人しくなっている。アレも流石に手駒が無いのでしょう?」
「俺に聞かれてもね。どうなの?エノク」
「え?なに聞いてなかった」

 話をふられてエノクは視線を2人に向ける。どうやら彼は城内のりんごが
気になるらしい。久しぶりに会えてもっとふれあいたいだろうに、長ったらしい会話に
 付き合わされて彼の集中力は持たないと分かっているキトラは苦笑する。

「貴方が国を作ると噂で聞いて戦慄しましたよ。でもそのへんの魔物とは違う。
対話する価値はある。提案によっては協定を結び天界の戦力をお貸しましょう」
「エノクの呼びかけに応えた者を捕らえたり処罰しないということでいいのかな?」
「ええ、ある程度は黙認します。穏やかな国にする事と、夜母を抑え込むのなら」
「つまりあの女蛇の首を掻っ切って君の部屋の壁に飾るまで…か」
「どうとでも。とにかく無効化して貰いたい。せめて次の夜母が出てくるまで」
「君の所も追い込まれているわけだ」
「良くそう他人事のように言えますね。総帥」
「この体を見ろザガリア。俺はもう魔物なのだから全ては他人事なんだ」
「だが戦力は欲しいはずだ。魔物の母と戦うにはその影響を受けない者でないと」
「さて。どうしようかエノク……あれ?エノク?」

 一瞬目を離してもう一度振り返ると忽然と姿を消した弟。
 とうとう我慢できずに城へ戻っていったのだと考えずともわかる。

「貴方といい弟君といい。何という堕落。慈愛を尽くされた聖母様が嘆き悲しみますよ」
「俺はちゃんと話を聞いたよ?文句は弟に言って欲しい」

 渋い顔をするザガリアに苦笑して返すキトラ。

「どうか天界を立て直す時間をください。今でさえ我らには貴方しか頼れないのです。
そちらも天界を頼っているのだから利害は一致するはずではないですか?」
「夜母は何れ倒れる。本人もそれを自覚しているから代継を作ろうと躍起だ。そのための
種をふるいにかけている。エノクはその起爆剤として魔物を狩る役目を与えられた。
となればこの層は魔物の数こそ減るがその分血に飢えた強い魔物が生まれることになる」

 エノクが夜母の首を狩るのが先か、激しい争いにより優秀な種が生まれ
夜母がそれを使って孕み次代を築くのが先か。
 とても危うい賭けではあるが今は有効な対抗手段はない。

「魔物の血とは恐ろしい。夜母の為に天界の力を得ようとはおぞましい行為だ…」
「君が称える聖母とて優勢種を残すために劣等種を排除しようとした。同じじゃないか」
「妹君の事ですか?彼女は何も生み出せない劣等種として生まれてしまっただけでなく
天界の光とその双牙を不相応にも独占したのだから。排除は仕方のない事です」
「君は恋をしたことがないんだろうな」
「貴方は相変わらず弄び失礼な事を仰る。全て分かっている癖に……」
「夜母の首が欲しいなら時間はかかるがエノクに手を貸すしかない。だけどこちらも
確実に勝機があるわけでもない。大きな賭けにはなる。それでいいかな?」
「はい。貴方が母君を……聖母を殺してしまった以上。それしかないのです」

 ザガリアの言葉に一瞬反応を見せるもすぐに笑みを見せる。

「自分の娘を冷酷に追い込んで自死させたのだ切り刻まれようと文句は言えまい。
君も天界で権力を持っていたいのならりんごには指一本触れない事だ」

 その目は黒に染まっていた。

「……、はい」
「さて。何か書類でも作るべきかな?魔物と口約束で大丈夫?」



 地下倉庫で新しい魔術を発見して喜んでいたら突然部屋にエノクが入ってきて。
りんごの手を引っ張ったと思ったらすぐに彼女を抱っこして出ていった。
何の説明もないし置いていかれて不愉快だがこういう時は追いかけるだけ無駄。
 
 それに恋しかったエノクの気持ちは分かるのでサターヌはただ深いため息をした。


「急でごめん。でもりんごが欲しくて爆発しそうなんだ」
「わ。えっちな服や玩具がいっぱいある…」
「会えないからつい色々と想像して。気づいたら揃えてたよ」
「そ、そうぞう……いえ何でも無いです」
「いや?でも…やるんだけど加減はするつもり」
「やる」
「良かった」
「今やっていいタイミングなのかはちょっと疑問だけど。やる!」
「りんご」
「えっちな服だって着ちゃいます!エノクさんも着ちゃえ!」
「いや僕は着ない」
「…ですよねぇ」
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