二度目の転生は最弱木偶人形!?魔物の世界でも溺愛過保護生活で生き残ります!

堂島うり子

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出撃

31:進軍の木偶人形

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 2人におだてられてもりんごの機嫌が微妙に良くないまま朝ご飯を食べて。
キトラとの合流地点までピリピリとした無言の馬車は進む。

「怒ってませんから。全然怒ってない」
「でも全然僕のこと見てくれない。りんごに無視されたら生きていけない」
「今はまだ直視すると悲しくなるから慣れるまでまってください」

 最初に音を上げたのはエノクで一旦馬車を止めると外にりんごを連れ出し木陰で
ギュッと抱きついてきた。サターヌも不安そうに様子をうかがっている。
 彼女も辛いけれどここはエノクに機嫌取りを任せたようだ。

「僕は他の2人よりも格段に戦闘力が下がった。君が焦る気持ち少しはわかるよ。
嫌かもしれないけどりんごを守る為の武器と鎧だから。ね?機嫌を直して」
「エノクさん」
「りんごが木片になったら僕はどうしたらいいの?僕との赤ちゃんは?」
「私も何れは格好いい鎧を用意して貰えます?」
「考えてるよ。りんごに相応しい鎧。君にしか扱えない専用のね」
「……我儘言ってごめんなさい。勝手に身近に感じてた人たちに置いていかれた気がして。
拗ねても仕方ないのに。これから大事な戦いがあるんだからしっかり団結しないとですね」
「うん。そうだよ。今夜は特に強く団結して意志の疎通を図ろうね」
「夜……?」
「さ。急いで行こう待ってるから」

 やっと笑顔を見せたりんごを連れて馬車に戻り再度出発。レベルの違う2人に囲まれる
のはやはり居た堪れない気持ちにはなるが。
 まだこれからレベルは上がるのだからと気を持ち直した。

 それでもやっぱりキトラが重装備だったらどうしようか見るのが怖くて合流地点に
到着して馬車から降りても木陰でじっと様子を伺うりんご。


「お前たち久しぶりにやる気に満ちた格好だね」
「いいぞキトラ兄!」
「それでこそ兄さんだ!」
「は?……何?…何でりんごはあんな所に?」

 キトラは普段と変わらない格好で登場。安全を確認したりんごは恐る恐る
彼らの元へやってきた。

「こんにちは」
「君もいい装備だね。もっと短くても良かったけど。それで頼まれたモノだけど」
「煩いな!何か煩いなこの辺!敵が湧いてるかもしれない!
りんごは馬車に居て僕らが様子をうかがってくるよ!」
「え。え。…う、うん」

 よく分からないけれど敵襲?かもしれないのでりんごは馬車に戻されて。
3兄弟は少し離れた所に行ってしまう。もし戦いが始まったのなら
 りんごも参加したいと思うけれど。何の音も聞こえない。

「何だいきなり?りんごの武器がほしいと言うから態々とりに行ったのに」
「やっとりんごの機嫌が直ったんだ。余計なことは耳に入れたくない」
「それでどんな武器なのりんごでも装備できる武器って」
「コレ。フォリスの剣。どんな弱小生物でも装備可能な小型の剣。ただし、
実際に使う場合は強い精神力が必要な上にその術者の意志でしか動かない呪い付き」

 実践武器というよりはお飾り品に近い綺麗な宝石と金色の装飾の付いた小さな剣。

「呪いだって?そんなの初心者向きの武器じゃないよ」
「まだ武器らしい形をしているんだから有り難く思ってほしい」
「安全面からも丁度いい。僕らが剣を動かしてやるんだ」
「りんごに危害が無いならいいけど。それじゃこれを渡そうよ」

 話しがまとまった所で馬車に戻りりんごに安全であることを言って降りてもらう。
不安そうな顔をしたが3人の言葉を信じてすぐ笑顔に戻るりんご。
 そして彼女にとって初めての武器が渡された。

「綺麗な剣!凄い!こんな武器を装備できるんですね!?」
「扱いには気をつけるんだよ」
「はい!……やった。やった!」

 石礫や棍棒でなく冒険者のような立派な剣。
勇者が持つような大きくて長いものではないが十分格好いい。
 専用のベルトを貰って装備するとなんだか立派な戦士。

ジョブとしては魔女なのだがサターヌのように魔術と剣術を扱えるようになりたい。

 気分が最高に盛り上がった所でお昼休憩。


「この調子で行けば明日には魔王の寝床らしいね」
「ええ。どれくらいの長旅になるかと思ったら早くて驚きでした。
この世界は広いのに魔王の場所すぐに分かっちゃうなんて。流石エノクさん…」

 火を起こすのに必要な枯れ木を拾うりんごとキトラ。

「そうだね。あいつは凄い。…あんな執念俺には無かった」
「キトラさん?あの、防具とかは?せめて武器とか。私が言うのもなんですが
それで大丈夫…ですか?私に気を使ってくれているんですか?」

 後ろで応援してる。と言っていたからかもしれないけれど。
彼はろくに武装をしていない武器も背負っていない。幾ら弟たちが戦闘向きでも
この世界が油断ならない危険地帯にはかわりないというのに。

「防具?一応まだ持ってるけど使ったのは過去に2,3回かな。好きじゃないんだ。
それで心配されて泣かれた事もあったけど。癖は抜けない」
「私も心配です。家から出たらあっという間に地面が黒くて世界も淀んでて。
遠くで魔物をちらっと見ましたけど大きさが全然違って巨大で」
「怖いだろう。帰るかい」
「いいえ。ここまで来たなら魔王に突撃するつもりで行きます」
「君ってだんだん小僧だった頃のエノクに似てきたかも。激情型で無鉄砲で
愚かで話を聞かなくて……、ああ懐かしい」
「あの。変なことを聞きますけど。元の場所へ戻りたい、ですか」

 こんな地の底より遥か天の世界は輝かしくて清らかな風がふいているに違いない。
りんごは何も分からないけれど、キトラは誇りある高い地位であったのはわかる。
 魔物に挑む勇猛果敢な弟たちと共に。

 まさにファンタジー世界の正義側の主役格だ。元、になるけど。

「未練はないって言ったろ」
「そうですけど」

 過去を思う穏やかさに対し今の自分に耐える姿を見ているとどうしても気になる。

 本心はどうなのか?と。

「君は”あの後”を知らないからね。やっぱり気になる?」
「そう、ですね。誰も教えてくれないから」

 天界での立場や妹との思い出を多少は語ってくれるけれどそれ以外の
出来事について。その前後含め1番大きな問題は誰も語ろうとしない。
 りんごも自分から深く追求することもないのもあるけれど。

「俺たちは理性を失い天界の半分以上を破壊した。その辺の細かな描写は省くけど。
怒りに任せ多くの同胞たちと清浄な土地を崩壊消失させたんだよ」
「……」
「りんご。君の命1つで天界を半分にしてしまったのはとても罪深いと思わない?」

 穏やかな笑みでとても恐ろしい問いかけをするキトラにりんごは固まり。

「わ、私なんて言うべきでしょう…?」

 なんて聞き返してしまう。

「さあね。君に意地悪されたお返しだ。ゆっくり考えて悩んで」
「そんな!私も大変だったんですよ?口どころか目や鼻にも精液がドバって」
「それ以上言ったら本気で怒るぞりんご」

 ムスッとした顔で言うのでりんごは一旦黙り。再び口を開く。

「……、罪深い私が赦される日は来るでしょうか?」
「少なくとも俺はそう簡単には赦さない。ずっと君に付き纏うだろうな」
「それは全然良いです。一緒に居ましょうねケモトラさん」
「その呼び方は止めて欲しい」

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