二度目の転生は最弱木偶人形!?魔物の世界でも溺愛過保護生活で生き残ります!

堂島うり子

文字の大きさ
上 下
29 / 41
目的

28:聖女は迷子

しおりを挟む

 エノクの城から戻るとりんごはサターヌから紙とペンを貰い、
サラサラとなにか彼女の世界の文字で書き始めた。事情を聞いてみると
思いつくままに沢山の領地名を考えては全て却下されてしまったので
 幾つか案を書き記し選んでもらいたいらしい。

 サターヌとしてはまた面白い事を考えたなくらいの気持ちで見守っていた。

「りんご。落ち着け。自分が住む土地だしそう呼ばなきゃいけないんだよ?
お前がなんて書いてあるかは読めないけどブツブツ言ってるのは聞こえる」

 彼女の口からどうも不穏な雰囲気を醸し出す地名候補を聞くまでは。

「今1番アツいのはエノクワンダーランドで」
「私にはアイツの心が分かる。絶対にその名前は却下だ」

 りんごが考えるような事なので深い意味はないだろう。
魔物の世界で悪い事をする魔王に挑むなんて言い出すような子。
 恐らくは避難してくる魔物の為とかそのへんだろう。名前は目印になる。

 突然のりんごの行動に対してサターヌはそう読んだ。多分正しいはず。


 少し前までは壊れずにどう生活するかを考えていたのに。りんごはどんどん大きな世界に
目を向けている。自分には何が出来るかを考えている。

 それはきっと良いことなのだろう。…けれど。



 翌日も朝から畑作業をしながらブツブツと名前を考えている様子。
サターヌからすればそんな姿もやはり可愛いものだけど、
 彼女の口から漏れてくる地名がどれも聞き捨てならないレベルで酷い。

「あ。良いこと考えた。既に成立している村の人達から名前を聞いてきて
それをいい感じにパク…、拝借して作れば良いんだ」
「あぁ良いんじゃないか」
「お使いのついでに聞いてきます!良いよねサターヌ?」
「ええ。……あ。うーん」
「サターヌシーとかサターヌウッドとか」
「何か分からんけど物凄く嫌だから行っておいで」

 このままほっといたら強引にでも変な土地名を付けられてしまう。
だったらまだ他の連中に話を聞いてまとめてくれたほうがマシだ。

 何時ものルートから外れないようにとだけ釘を差してサターヌはお使いを許可し
りんごを見送った。近所なので流石にもうついていかない。

「おはようサターヌ」
「お、おお。何だいきなり。エノク……元気そう、だけど」

 はあ、と深い溜め息をしたら入れ替わるようにエノクがやってきた。
 夜型の魔物なのにやたら元気が良さそうで違和感がある。

「魔王討伐の日は来た。今日の夜には出発するぞ」
「は?!ちょっと待ってよ今日はせっかく家畜を仕入れて」
「部下に面倒を見させる。それと僕はこの土地を更に整備して国として機能させる」
「な……何それ聞いてない」
「詳しい話は中でしよう。兄さんも手伝ってくれるってさ」
「話しが早すぎてついていけないんだけど」
「ゆっくり説明してやる」

 気持ちが悪いくらいご機嫌なエノクに若干距離を置くサターヌ。
りんごが出かけていると聞いても特に驚かずむしろ良かった。と彼は言った。
 どうやら彼女には直接聞かせたくない部分の説明らしい。



「エルシラ。バシャーラ…ガルバ…なるほど。こういう名前が主流なのか。
ラが付いたらそれっぽく見えるってことかなぁ」
「お嬢さん!荷物落としたよ!」
「え?……えっあっ!ありがとうございますっ」

 声をかけられてハッと我に返る。振り返ると大事な食料を落としていて
慌てて拾ってカゴに戻した。声の主は何処に居るのかキョロキョロしていると。

「あと道間違えてる。そっちに行くと底なしの沼だ」
「ほんとだこんな道知らない。何処?ここ」
「早く元の道に戻った方がいい。小蜘蛛の縄張りに入っているから。
さっきから君を食べたくて追いかけてきている」
「キトラさん?……か、帰りますっ」
「おいで」

 りんごは何故か全く記憶にない鬱蒼とした森の中に居た。
肉の腐ったような嫌な匂い。木陰からザワザワと何かが動く気配が複数。
 伸ばされたキトラの手をとって彼の案内ですぐに元の安全な道へと戻る。

 振り返ってみると何の案内もない普段は誰も通らないであろう
明らかにヤバい獣道に黒い影が幾つも素早く引っ込んでいくのが見えた。

「私考え事をしていて…これからは注意します」
「それも大事だけど」
「え?」

 落ち込んでいるりんごを他所にキトラは視線だけ別の場所に向いていた。
ゆっくりと相手にバレないように静かに手が動き。りんごにその場に要るように指示して。
直ぐ側のなんてことない木の上に何か鋭いものを投げた。

 一瞬の醜い獣の悲鳴とともに重たいものがドサっと地面に落ちる。

「君は木偶だから体や心を操る術には十分な注意が必要だよ。
コイツは1匹では何の意味もない雑魚だが心操術が得意な個体も居てね。
それが小蜘蛛に餌を運ぶ役を担い安全の確保と残り物をせしめるわけだ」
「私操られてたんですか?全然気が付かなかった」
「何かに夢中になっていると付け入るすきを与えるから。俺が何度か声をかけたり
ペンダントが黒く濁ってたのに気づかなかった?」
「全然何も」

 キトラは絶命しているようで全く動かないソレから武器を抜き取ると
さっさと移動しようとりんごと歩き出す。

「君に会いたくて探してたんだ。間に合って良かったよ」
「来てくれてよかった。ほんと、間抜けな死に方する所だった…」
「平和と言っても魔物の土地には違いないからね。そこは自己責任だ。
だからこそ君はもっと魔女としての知識と経験を積むべきだね」
「気を引き締めますっ」

 魔王に挑む前にうっかりミスで魔物に食い破られて死ぬなんて無念すぎる。
 改めてこの世界が物騒で気を許しては行けないのだと身にしみた。

「このまま家まで送るよ。ちょっとくらいは2人きりになりたかったけど。
夜にはここを出るそうだから君も準備しないと」
「何処か行くんですか?」
「魔王退治」
「え!?う、うそ。私レベル下がったままなんですけどっ」

 昨日の主役は玩具であって実はエノクとの本番は1回だけ。
 なのでそれほどレベルは上がっていない。

「それはほら君の失敗であって」
「ご自分だって半分は責任あるでしょ!ど、どうしよう火の矢出来るかな」

 体の感度レベルは上がっているなんてそんなの戦いでは意味がない。

「何とかなるよ。多分」
「緊急事態なんです!種わけてくださいっ愛ならありますっ」
「愛って物々交換するものなの?」
「出来ればケモトラさんがいいな…ケモケモしたいな…ぁ」
「急いでいる癖に我儘だな。……愛はあるんだよね」
「あります!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

淡泊早漏王子と嫁き遅れ姫

梅乃なごみ
恋愛
小国の姫・リリィは婚約者の王子が超淡泊で早漏であることに悩んでいた。 それは好きでもない自分を義務感から抱いているからだと気付いたリリィは『超強力な精力剤』を王子に飲ませることに。 飲ませることには成功したものの、思っていたより効果がでてしまって……!? ※この作品は『すなもり共通プロット企画』参加作品であり、提供されたプロットで創作した作品です。 ★他サイトからの転載てす★

攻略よりも楽しみたい!~モフモフ守護獣の飼い方~

梛桜
恋愛
目が覚めたら知らない天井だった…。なんてテンプレはいりません! 気付けば幼子の姿に、自分ではありえないヒラヒラなドレス。子供には着せたとしても、忙しい主婦にはこれは無い。 しかも夢なんですか?といいたくなるこの状況。 『目が覚めたら、乙女ゲームの高難易度ヒロインになってました☆』 いやいやいや、そんな情報は要りません!突っ込みつつもやっていくしかないこの状況。夢であって欲しいと思いつつも、モフモフパラダイスを目の前に止まれる性格では有りませんでした。 ~~~~~ 攻略なんてしませんから!の別ルートです。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」

執着系逆ハー乙女ゲームに転生したみたいだけど強ヒロインなら問題ない、よね?

陽海
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生したと気が付いたローズ・アメリア。 この乙女ゲームは攻略対象たちの執着がすごい逆ハーレムものの乙女ゲームだったはず。だけど肝心の執着の度合いが分からない。 執着逆ハーから身を守るために剣術や魔法を学ぶことにしたローズだったが、乙女ゲーム開始前からどんどん攻略対象たちに会ってしまう。最初こそ普通だけど少しずつ執着の兆しが見え始め...... 剣術や魔法も最強、筋トレもする、そんな強ヒロインなら逆ハーにはならないと思っているローズは自分の行動がシナリオを変えてますます執着の度合いを釣り上げていることに気がつかない。 本編完結。マルチエンディング、おまけ話更新中です。 小説家になろう様でも掲載中です。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

処理中です...