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23:成り上がる為に

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 一方的な暴力に怯えて戦闘本能なんて無いに等しかったが、
エノクとサターヌに感化されたのと初めてのお使いを経てレベルが上がった
気がしたので朝早くにこっそりと外に出た。

 適当に空いた所まで来ると「必殺!」などと誰もいないのを良いことに
格好を付けて火の矢を飛ばす。

 どうせひょろい火の玉がゆるくその辺に飛ぶくらいだろうと思って。

 なのに。

「なに!?何の音!?うわあ!火事だ!敵襲か!魔王の手先か!!」
「え。え。え。……えぇ?!」

 轟音と共に炎を纏った立派な矢が木々に燃え移りちょっとした火事に。
りんごが思うよりもずっと魔術の威力が上がっていたらしい。何も知らないサターヌが
 狼狽しながら家から飛び出てきて一緒に消火活動をした。

「ペンダントも青いままだしヒビ1つ無い!やった!レベルアップしてる!」
「ソレは良かったけどね?りんごぉ…」
「ごめんなさい」

 煤だらけの真っ黒な体でもヒビなくしっかり繋がっているのは分かる。
あんなにしょぼかった火の矢は確りとまっすぐに飛んで手応えがあった。
 それで目の前の草木が焼け野原で大変な惨状ではあるけれど。

「りんご!サターヌ!城から煙が見えたけど何があった!?襲撃か!?」
「エノクさん。あ。……あの、ちょっとした事故でして」

 背中に槍を装備して馬を駆り慌てた様子で来たエノク。

「りんごが魔術の練習で燃やしたんだ。お陰で庭が広くなりそう」
「ごめんなさいサターヌ。さ、サターヌお兄様ぁっ」
「君が?見たところ体は大丈夫そうだね」
「はい。私やっと最弱から普通の雑魚くらいにはなれたはずです!」
「盛り上がってる所悪いけどやる事はたんまり有るんだよりんご」
「すみません」
「僕も手伝うよ。せっかく来たし」
「ごめんなさいエノクさん」
「君が危険でないなら良いんだ」

 槍を家の壁に立てかけてエノクも一緒になって3人で燃えた木を回収。
焦げて灰のようになった草たちもかき集めて一箇所にまとめる。
 りんごは自分がやってしまったことで面倒をかけて申し訳ないと思う反面。
こんな凄い技を使えたことに喜びも感じていた。

 これで魔女と自称しても詐欺ではない、と。
 
「りんごの成長は早いね。最初はちょっと走っただけで足が折れたりしたのに」
「僕たちの力を頻繁に吸収してたから急成長もするさ」
「最近はキトラ兄からも吸収してるからかな」
「1人より2人、それよりも3人。当たり前の話だろ」
「……、独り占めはしないよね?昔はよく2人だけで出かけたりしてたし」
「お前はこっそり後から付いていこうとしてたな。今は彼女が成長してることを喜ばないと」
「そう、だよね」

 何とも言えない苦い顔で言うサターヌにエノクは淡々と返事して。
りんごが作業を終えたと報告しに来たので今度は3人で柵を作ることにした。
 放牧するにはそれほど広くはないから小型の生き物を飼う為に。

「ウサギぽいの。羊に似てるの。あとなんだろう。可愛いのがいいなぁ」
「養うとなると可愛いだけじゃ駄目。何かしらの副産物を生む奴じゃないと」
「う、うん。……、そう。だね」

 柵の中の動物は何かしらの役目を持ち生活の助けにもなる。
 でも、りんご自身は何の生産性もないし可愛くもない。

「りんごは僕の子どもを生む大事な役目があるんだよ」
「勝手なこと言うな」
「僕らは愛し合っているから。ね。りんご」
「待ってよ私とも愛し合ってるから。ね、りんご」
「はい。皆さんを深く慕ってます。愛があります」

 作業が一段落ついた所で休憩にはいる。お腹が空いたけれどまずは汚れた体を
洗い流しに川へ。エノクの城ほど広くはない小さな風呂を煤で汚したくないから。

「りんごは僕と一緒がいい」
「私と一緒のほうが安全だ」
「私は真ん中に居ますので。お2人自由に喧嘩してください」

 この前通った川から少し上流へ行けばまだ手が加えられていない岩がゴツゴツと
あって人目を避けられる。りんごは裸になると丁度いいサイズの岩と岩の間に座って
体を隠し煤を洗い流した。

 双子はどちらがりんごの元へ行くかでまだ何か言い合いをしている模様。

「彼らは天界でも珍しい事例だったんだよ」
「キトラさん」
「1つの魂を2人で分け合ってる。だから何処に居ても互いを把握できるし、
どれだけ喧嘩をしても最後は側にいる。離れることは無い」
「仲良しですよね」

 2人から見えない位置。りんごの後ろに居るキトラ。

「家で寝てたらエノクが武器を手に城を飛び出したって部下に呼び出されて。
サターヌの家に行ったら庭が焦げてたんだけど。何かあった?」
「私の魔術で焦がしてしまいました。少しずつですけど強くなってるんです。
破壊は悪いことですけど。嬉しい」
「自分に自信がつくのは良いことだよね」
「エノクさんの愛のおかげ」

 彼の愛情が無ければ自分は人間のままで幸せどころか何も成立しない。
だからもし今すぐにでもと子どもを宿す事を望まれたら断ることはしない。
 種を分けては貰うけれどまだ子どもは出来ないように?なっているらしいが。

「君もエノクを愛してるんだ」
「正直に言うと誰かを愛するという気持ちはまだよく分かってないです。
3人とも大好きなのは本当の気持ちですよ。離れたくない。側に居たい。
愛…というものも何れ私のレベルが上がれば分かって来ると思う」

 愛を求めているのは愛されたことがないから。知らないから。

 愛してると言葉にするのは簡単だけど上辺だけだったらすぐバレる。
体を許している癖にと思う自分も居るけどそれは生き残るために必要な行為だ。
 だからまだ自分から言うことはしない。嘘は付きたくない。
 
 心も体も成長をすれば何れは。でもそうなると……。
 考え始めると沼にはまったようで思考が止まる。

「……」

 ハッと気づいたらその時はもうキトラの顔が自分のすぐ側にあった。
 さっきは後ろに居たのにいつの間に?瞬間移動?

「今夜俺の元へおいで」
「え……で、でも」

 りんごが好むと分かっているような風に耳元で優しく甘く囁かれた。

 どうしよう勝手に出ていってサターヌが心配しないか。あたふたしていると
キトラの指先がりんごの下腹部へ伸びて彼女の淡い茂みを摘み軽く引っ張る。

 それでビクッと反応してしまい恥ずかしくて彼の手を掴むけれど。

「おいでりんご」
「あ……ぁ」

 押し返す事は出来ず受け入れてしまう。その間も指は割れ目を何度もなぞり煽ってくる。
腰をビクつかせ反応すると今度は敏感な部分を直接でなく上から軽くトントンと叩き
 乳首の周りだけを指先がなぞる。

「俺の元へおいで」

 甘い声で誘惑するのに触りそうで触らない指先。切なくてモドカシイ。

「い、行きます。だから。中までしっかり撫でてください…お願い」
「後でね」

 りんごの耳を軽く食むとキトラは手を引っ込めて去っていった。
それと同時くらいにそろそろ帰ろうと言いに来たサターヌが顔を出す。

「りんご?どうしたそんなモジモジして」
「……お、…おトイレに」
「ええ。あ。そっちの草むらに」

 その場しのぎの嘘をついてトイレを形だけやって着替える。
火照った体を水で少しは冷ますことは出来たけど。

 今夜は更に熱くなりそうな予感がする。
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