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目的
23:はじめてのおつかい
しおりを挟む魔物には幾つかの種族があり特性に合わせた鍛錬の方法がある。
「あ…ああっ……っ」
「りん…ご…っ」
「……うぅっ……イっ」
「りんごっ」
りんごの場合はこれ。
助けて貰いながらコツコツとこの”鍛錬”を重ねてはいるがレベルはまだ低くて、
とてもじゃないが槍も双剣も持たせて貰える状態ではない。
「……いらない子にはなりたくない……」
戦いや魔物と無縁だった人間時代は温かい寝床とご飯が一番の望みだった。
ここに来てすぐはそれだけで喜べたけれど。それが当たり前になってしまって
今となってはそれほどの感動は無く。
りんごが今一番望むのは魔物としてもっとレベルアップすること。
「ほ、本当に?本当に大丈夫?やっぱり私も行くよ」
「大丈夫ですって。パーッと行って薬草を貰ってパパ―っと戻るから」
「だって川をこえるんだよ?1人では初めてだよ。心配だ」
「私だってお使いくらい出来ます」
「いいかりんご。何かあったら何でもいいとにかく魔術を使って」
「はい」
薬草がきれたとかで近所の店に行くというサターヌに代わりを買って出た。
安全な道で明るい空でもかなり渋い顔をされたけれど何とか許可がおりる。
交換してもらう果実を入れたカゴを持っていざ家を出るりんご。
森の枝分かれした道を往くこと自体はエノクの城へ1人で行ったりするので平気。
出てくる魔物も小さいし危険な道も植物も無い。お店に行くのも一度サターヌと一緒に
行って様子は知っているから多分大丈夫。
安全な道を安全なルートでお気楽に初めてのお使い。
りんごは鼻歌交じりに大きく背伸びをした。今日もいい天気だと。
「何してるの?」
そんな彼女の後ろ姿を見つめていたら後ろの気配に気づかなかった。
「ひっっ……あ、なんだ。キトラ兄か。……なんでも無いよ」
「こそこそと木陰に隠れてりんごを追いかけるなんて」
「声がでかい」
「いてててて…尻尾を引っ張るんじゃないよっ」
りんごが自分たちに認められたくて足掻いている事は分かっている。
だからこそ許可を出したがやはり心配が勝ってしまったサターヌ。
こっそり追いかけているなんてバレたらりんごに嫌われる。
キトラの尻尾を掴んで引っ張ると彼も木陰に隠した。彼女は気づいている
様子はなく楽しそうに歩いている。
正直これだけ騒いで気配に気づいてないなんて戦場では致命的だ。
「静かに見守ってるんだ邪魔しないでよ」
「そんな遠くへ行くの?」
「近場だけど1人で店に行くのは初めてだから」
「流石にもう自分で対処出来るはずだ。魔女として独り立ちする時なんだよ」
「……あ。駄目だよそっちは店じゃないよっ」
「花が咲いてるから見たくなったんだ」
「私に選んでくれてるんだね。いいよそんな…帰りでいいよっ」
「あの子のやることにいちいち感想を言うのか?お前も大変だ」
ついてくるなと言っても暇なのか興味を持ったのか付いてくるキトラ。
りんごは花を眺めた後にやっと本来のルートに戻って歩いてくれた。
川をこえてしまえば後はすぐ目の前にあるお店。
何の問題もなくりんごは目的地であるお店へと入っていった。
そう遠くないのに緊張しているからかやたら時間が遅く感じられる。
「……はあ、早く出ておいでりんご。店でそんなやることないだろ。
店主のジジイ何か視線がやらしかったんだよな。まさかりんごに悪いことをっ」
「お前は妄想に取り憑かれてるだけ。まだ入ってすぐだよ」
ジリジリと焦燥感に苛まれて悪い想像ばかりが膨らんでいく。
店主が無垢なりんごを騙して酷いことを。他の客も混じってりんごを。
「私が……ちゃんとあの子を見てなかったから。自分が甘える事ばかり考えて兄として
しっかりしてなかったから!だから……待ってろりんごすぐ助けに行くっ」
「いい加減にしろサターヌ!目を覚ませ!ここはもう天界じゃないんだ!」
「そっちこそなんでそんな冷たいんだ!りんごがまた居なくなったら?
それでエノクも居なくなって……そんなの無理!耐えられない!無理だよぉっ」
パニックに陥ったのか叫んで頭を抱え苦しそうに震えるサターヌ。
「そうはならない。今度こそ俺が繋ぎ止めるからお前は」
「だって兄さん1番大事な時に居なかったじゃないかぁああ」
「分かってるよ。痛いほど分かってる俺は」
「あの。物凄くドラマティックな展開中申し訳ないのですが。皆さん見てますよ」
「あ」
「え」
買い物を終えたりんごに言われてハッと気づく。
隠れているつもりが全然隠れてなくて周囲には小型の魔物たちの視線。
それもなんだかヒソヒソ喋って噂でもしているような。
確かに感情的に泣いている魔女と何か真面目な顔で怒っている獣人は
まるで男女の痴情のもつれのよう。
視線を向けると皆慌てて逃げていった。
「サターヌ。もしかしてこっそり見てたの」
「そう見えるだろうけど少し違う。俺がまた君を浚うと思って心配して
俺についてきただけだよ」
「キトラ兄」
「君の愛撫が忘れられなくて探してしまう。獣に戻りそうなくらい疼くんだ」
「……そ、そうなんですか。ごめんなさいサターヌ」
「ううん。良いんだりんご。ちゃんと買い物できたね。偉いね」
「私はこのまま帰りますけど」
「帰りも1人が良いだろ。せっかくの買い物だ」
「ありがとうサターヌ。キトラさんも、その、…また今度」
「うん」
少し恥ずかしそうにしながらもりんごは早足で帰っていった。
「ありがとう兄さん」
「お互いに思うことはあっても今の生活がある。大事にしないとね。
りんごは大丈夫だけどエノクはちゃんと見張ってよう。心配だ」
「りんごは心配じゃないの?」
「さっきの言葉は嘘じゃないから。本気で襲いかかりそうで不味い」
「……」
「いたたたた!だから尻尾を雑に引っ張るんじゃないっ」
サターヌが少し遅れて家に戻るとテーブルの上には新しい花。
やはりお土産にとってきてくれたらしい。
りんごは楽しそうに買ってきた薬草を箱に仕分けしている。
「見てみてサターヌ。とてもえっちだけど呪いを回避出来る下着」
「あのジジイやっぱり妙な真似を!!」
「サターヌに渡してって。あの小豚のおじさん多分サターヌのことが」
「今すぐぶち殺しに行くっ今夜はジジイの丸焼きだ!」
「わぁ!お肉だ!……じゃない。駄目、そんな物騒なことしないで着て見せて」
「嫌だ!私はりんごのいやらしい格好しか見たくない!男を取り戻したら速攻で
りんごに扱いてもらいながら口で奉仕して貰うんだ!強めに!」
「わあ……願望がとても男らしい」
「だって男だから!」
「そ、そうでしたね」
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